1
初回のみ、二話連続投稿
「……んっ」
目を覚ました時、私は此処はどこだろうと分からなかった。
――見慣れない天井だったから。それに身体が中々身動きが取れなかった。何かに拘束がされている? なんて不思議に思うと同時に、ズキリッと身体が痛む。そして視界に入るのは肌色――それを見て、ああ、そうだ。
私はこの大公家に昨日嫁いできた。そして、婚姻の書類が早急に提出され、初夜が行われた。
お姉様が私は初夜に死ぬだろうって言っていたのにそんなことがなくてびっくりした。
だってお姉様の言うことは、絶対だったから。
そ、それにしても私みたいな人間がちゃんと初夜を行ってもらえるなんて思ってなかった。
お姉様に比べると女性らしくなくて、可愛くもなくて……そう、ずっと言われてきたのに。
お姉様が言っていた殺されるというのも、そうなんだろうなって思った。
私が至らないから、そうなってしまうんじゃないかって。それは納得できることだった。
えっと、それにしてもどうしよう?
大公閣下が隣で眠っていらっしゃることにも驚くけれど、私はどうしたら…?
起きなくていいのかしら。
実家にいた頃は、早めに起きてから両親やお兄様、お姉様に言われたとおりに行動していた。此処ではどうなんだろう?
私はそんなことを思いながら大公閣下のことを見る。
顔立ちは整っている。身体つきはとても鍛えられていて、凄い筋肉だ。うん、私なんてすぐにつぶされてしまいそうなぐらい力強い。
ゼラニウムみたいな赤い瞳は、今は閉じられていて見えない。
冷たい人だと、聞いていた。両親は大公閣下の機嫌を損ねないようにと、そう言っていた。お兄様は家に迷惑をかけないようにと、そう告げた。お姉様は殺されてしまうだろうけれどその時は抗議はするわ、なんてそんなことを口にした。
大公閣下はそれこそ、気に食わない花嫁ならばすぐに殺すだろうと噂されるぐらいには過激な人だったのだ。
この婚姻は王が勧めたことだったらしい。
だからこそ、大公閣下側だって拒否出来ないものだっただろう。私との婚姻なんて、大公閣下側も望んでなんかなかっただろうなとそう思った。
私のことを追い返したって、放置したって仕方がなかった。
それなのに、昨夜の大公閣下は冷たい印象はあったけれど怖くはなかった。
綺麗な紺色の髪だ。
触り心地が良さそうだな、とそんなことを考えてしまった。
手を伸ばして、触ってみてもいいのだろうか? 真っ当な夫婦ならばそれぐらい許可されそうな気はする。
私は恋愛なんてしたことがないけれど、恋愛関係があるのならばそれでもいいはず。でも私と大公閣下はそういうわけではきっとない。
だから無断で髪になんて触れてしまったら、今度こそ殺されてしまうのでは? なんてそんなことを思った。
折角殺されなかったのだから、このまま生きられた方が嬉しいなとは思う。
ただ私は大公閣下に不要だと思われたら成す術もなく殺されてしまうけれど。
私には抗う力などもないから。
でもお姉様が言っていることが実際に起こらないなんて不思議なことだわ。お姉様の言うことは絶対だったのに。
私はそう考えるととても不思議な気持ちになった。
「……起きていたのか。どうした? じっと見つめて」
気づいたら大公閣下が目を覚ましていた。じっと見つめながら考え事をしてしまっていた。
「生きていることが、不思議だなって」
「何を言ってる? 死ぬと思っていたのか?」
「大公閣下は冷たい方で、嫁いだら殺されるという話を聞いていたので」
私がそう口にすると、大公閣下はおかしそうに笑った。
「それなのに怯えもせずに俺の目が綺麗だなんて言っていたのか?」
「だって綺麗でしたから。それに私は戦う力も持たないので、敵対されたら成す術もなく殺されるだけですもの」
大公閣下からすると、私が能天気に好きな花の色だと言っていたのが変だったみたい。
そうは言われても、私は本当にどうしようもないもの。だからこういった対応も当たり前なのに。
「くははっ、そうか。俺はお前を気に入っている。だから殺すことはないだろう」
「まぁ! なら安心ですわね」
「簡単に俺の言葉を信じて、本当に……面白いな。俺が口だけですぐに剣でも向けたらどうするんだ?」
「その時はその時ですわ。それにそんなことをされたらどうしようもないですもの」
私が軽い調子でそう告げると、大公閣下はまた笑った。よく笑う人だなと思った。
「グラナートでいい」
「では、グラナート様と呼ばせてもらいますね」
夫になったとはいえ、男性の方を名前で呼ぶなんて初めてで妙に緊張した。
書きたくなった設定のものなので、なるべく毎日か二日に一回ぐらい投稿できそうならします。
※投稿一回ミスしたので、調整してます。