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姉の言いなりの私が幸せになるまで  作者: 池中織奈


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「わぁ……」



 なんて、心躍る光景だろうか。私の目の前には、ゼラニウムの花が咲き誇っている。私のお気に入りの花。全てが赤色に染まっている。




 ――『君が居て幸福』。

 その花言葉の通り、ただその花々を見ているだけで、幸福という言葉が頭をよぎる。




 私がこんなに、楽しい気持ちでいっぱいでいいのだろうかなんて夢うつつな気分にどうしてもなってしまう。

 今日は天気が良い。明るい青空の下に立つと、何だか余計に晴れ晴れとした気持ちにはなる。

 少しだけ肌寒い。けれど気にもならない。

 それだけ目の前に、お気に入りの花が沢山咲いているという事実が私にとっては心が躍ることだったから。



「くしゅん……」


 だけど幾ら気分が上がっていたとしても、寒さには勝てなかった。思わずくしゃみをしてしまう。




「奥様、風邪をひいてしまいますよ」


 侍女からそう言って声をかけられる。




「でも……折角グラナート様が私のために用意してくれたのだもの」


 目の前に広がる光景が、私にとっての大切な宝物。それをずっと見ていたいと、そう思ってしまった。




「幾らでもこれから見れます。それこそ、毎日。奥様が生きている限り」




 侍女は当たり前のようにそう言った。

 ……私が生涯にわたって、この大公家の夫人であるのだとそう心から思っている様子だ。グラナート様もそうだけど、私が居る未来を……ずっと皆が信じてくれている。それがただただ不思議で、だけれども本当にこの日々が続く気がして不思議な気持ちだった。





「もし奥様が風邪でも引いたら、グラナート様が悲しまれます」

「そう、かしら。ああ、でも確かに大公夫人として跡取りは産まなければならないもの! 具合が悪くなってしまったらいけないわ」


 貴族教育の中で世継ぎを産むことの出来ない者は、貴族夫人としては許されないものだとそう言われていた。

 ……嫁いだのだから、その血を残さなければならないって。




 だからこそ身体が弱かったりする令嬢は、役立たずと言われるのだと。お母様もお兄様を授かるまで時間がかかって苦労したからって、健康であるようにと言っていたわ。

 ただでさえ私は要領が悪くて、容姿が良くないのだから身体は丈夫にした方がいいって。




「そういうことではありません。奥様、室内へ」



 どうしてか侍女は少しだけ悲し気な表情を浮かべて、私にそう言った。

 そういった表情を浮かべるのは、なぜだろうか。私には分からなかった。




 侍女に連れられて、城内へと戻る。そうするとすぐに身体を温められる。温かくされた部屋へと、連れていかれる。そして上着をかけられ、紅茶をすぐさま持ってくる。至れり尽くせりだ。

 私が風邪をひかないようにと一生懸命なのは、やっぱり大公夫人である私が体調を崩すと迷惑をかけてしまうからかな。貴族が調子を崩すと、彼女たちが責任を負うことになってしまう可能性もある。そう考えると改めて、気をつけないと。




「顔色が良くなったようで何よりです」

「皆、心配をかけてしまってごめんなさい。ありがとう」


 お礼を口にすると、周りの者達は笑みを浮かべてくれる。




「そういえば奥様、グラナート様に贈り物をするとおっしゃってましたがお決まりになりましたか?」


 そうしていると、一人の侍女にそう聞かれる。


「……それが、まだなの」


 私はグラナート様にお礼を伝えたくて、喜んでもらいたいなとそう思っている。だけれども……自分の意思で誰かに何かを渡すなんてしたことがない。

 というより自分の物さえも、選ぶことなんて全然なかった。誰かと婚姻を結ぶのも当然初めてのことだから、普通、妻となった人はどういった贈り物を旦那様にするのだろうか。そんな常識も分からない。

 聞いてみても、様々な答えが返ってくる。



 その中で何を渡せば、グラナート様は喜んでくれるのか?

 夫婦の形って、私が思うよりもずっと複雑なものらしい。それぞれの形があるのだって。



 そう言う話を聞くと、私はグラナート様に何を渡すべきだろうか? 分からなくて、ずっと悩んでばかり。



 なんだろう、自分の物だったらいざ手に入れてみてちょっと違うなと思ってもそれはそれだ。というよりグラナート様が購入を許可してくれたものならば、私はどんなものでも喜ぶ。

 けれどもグラナート様は違うかもしれない。ううん、というより私とグラナート様は明確に違うのだもの。私がどれだけ喜ぶものでも、グラナート様にとってはそうじゃないことってきっとある。



 ……彼は優しいからどんな贈り物だって喜ぶふりはするかもしれない。少なくとも、嫌がる素振りはしないかも。少しは怪訝そうな顔はするかもだけど。

 でも心から喜んでくれる方が私は嬉しい。

 そんなものを私はあげたい。

 欲張りな感情を私は感じているから、ずっと頭を悩ませている。



「もう少しだけ悩むわ。何を贈るか決めたら、また相談させてね」



 なるべく時間はかけないつもり。だけれども急いで決めて後悔はしたくない。

 だからそう答えると、侍女たちは頷いてくれた。


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