嫁いできた妻のこと ②~グラナートside~
「えっと……グラナート様は何色が好きですか?」
今日のシアンナは、少しだけ様子がおかしかった。どこか緊張した面立ちで、うずうずしている。
とはいっても何か悪いことがあったという風ではない。何だか、こんな様子のシアンナもとても可愛い。
シアンナに何かあったかは侍女達に聞けばすぐに分かるだろう。ただし俺はそれよりもシアンナの口から聞きたいなと思ったので敢えて問いかけないことにした。
本当にシアンナに問題があったら侍女達から報告があることだろうしな。
俺はそんなことを考えながら、シアンナの問いかけに応える。
「そうだな、紫とか?」
正直、好きな色なんて気にしたことがなかった。だけれどもそう言って答えたのは、紫色がシアンナの瞳の色だったから。
彼女は赤色が好きだと言った。好きな花の色だからって。それで俺の瞳の色が好きだって。そう言ってくれたから。俺も……シアンナの瞳の色が好きだなと思ったんだ。
「紫が好きなんですね、分かりました!」
そんな風に口にするシアンナは、俺が彼女の瞳の色だから好きだとそう感じたことには気づいていないようだ。
それに気づいた時に、どんな反応をするだろうか?
考えただけでも頬が自然と緩んでしまう。俺がだらしない顔をしてしまっているからか、従者が噴出していた。
じろりっとそちらを見たら、慌てて表情を正していたけれど。
「じゃあ、次は……最近、困っていることなどはありますか?」
「困っていること? 特にはないな」
現在の俺の生活に不足しているものなど、一つもない。シアンナが嫁いできて、余計に俺の暮らしは充実している。しいて言うのならば、妻が可愛すぎることぐらいか。
見ていて飽きない。時間さえあれば常に傍に置いておきたいようなそんな感覚になる。
「そうですか。じゃあ、どういった時に嬉しくなりますか?」
「どういった時に……? シアンナと話していると楽しいな」
現在進行形で、癒されている。シアンナみたいなタイプの女は、周りに居なかったから余計にそんな気持ちだ。
「私と一緒に話すと楽しいんですか? 嬉しいですわ。私も、グラナート様と話しているといつも楽しいですの」
やっぱり可愛いな。
それにしてもどんどん質問をしてきているが、何をしようとしているんだろうか。俺のことを知ろうとしてくれているのか。それとも何か贈り物でもしてくれようとしているのか。
どちらでも嬉しいから、いいか。
「そういえばシアンナ、ゼラニウムの花を取り寄せたいんだろう?」
「はい! あの、どのくらいの数揃えてもいいですか?」
俺の言葉に、おそるおそると言った態度で問いかけるシアンナ。
こんなことをいちいち問いかける必要もない。寧ろ俺の想像しないような改装をされてもそれはそれで面白いだろうし。
「好きなだけ」
「なら手配してみますわ。ありがとうございます、グラナート様。出来ればすぐに見渡せる場所がいいかなと思っているのですけれども……! グラナート様は普段は執務室に居ることが多いですか?」
「そうだな」
余程、ゼラニウムという花が好きなのだろう。シアンナの目はキラキラしている。
「なら、執務室に行ってもいいですか? どこに植えた方がいいか確認したいです」
「もちろんだ」
シアンナの言葉に頷いて、一緒に執務室へと向かう。
機密事項などもある部屋だが、シアンナの入室に関しては何の問題もない。外に情報を伝えないように言っておけば、言わないだろうし。
まぁ、そもそもシアンナの性格からして勝手に執務室に入り浸ったりはしないだろうしな。何か問題が起きたらその時はその時だ。
「此処でいつもグラナート様は、お仕事をなさっているのですね」
「ああ」
それにしても執務室にシアンナが居るといいな。普段とは全く違う新鮮な気分になれる。あと単純に癒される。
シアンナは窓から外を見下ろしている。
どこにゼラニウムの花を植えるか確認しているのだろう。
……庭に関しては、あまり気にしてこなかった。最低限整っていればそれでいいと、思っていたのだ。
ただシアンナがこんなにも楽しそうならば、全て彼女に整えてもらっていいな。
シアンナが楽しそうにしてくれるのは嬉しいし、この城にとっても良い効果がありそうだ。
「グラナート様、あそこの一角に植えてもいいですか? 少しだけ費用は掛かるかもしれないですが……!」
「ああ。構わない」
俺が頷くと、シアンナは嬉しそうな表情をした。
ゼラニウムの花の用意が出来たら、シアンナはどんな表情で笑うだろうか。
きっと彼女の影響で、この場所はどんどん変わっていく。嫁いできて間もない今だって、俺が多大な影響を受けているように。その変化を俺は嫌だとは全く思っていない。
これから先もシアンナの影響で、この城は変化していくのだろうなと思うと楽しみになった。




