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07.変装して、人間の村へ


「じゃ、行ってきます」


「ずいぶんお早いお出掛けで……。やる気があるのは良いことですが」


 まだ朝日も昇りきらない早朝。僕はマリーに見送られ、魔王城を飛び立った。

 フェルミーは正午に出陣すると言っていたので、これなら多分先回りできるはずだ。

 行き先は、ここから一番近い人間の村。

 フェルミーよりも先に村を魅了して支配する。僕の魅了が人間に効くこと前提だけど、結局、皆殺しを回避する方法はそれしか考えつかなかった。


(なんかもっと、お気楽なゲーム的世界かと思ってたけど、甘かったなあ……。認識を改めないと)


 朝焼けの空を飛行しながら、そんなことを思う。


 ちなみに、腰についているコウモリっぽい羽根は、大きさを自由に変えることができる。昨日マリーに教えてもらった。

 体内にしまい込んで完全に見えなくすることも可能だし、今やっているように目いっぱい広げて、空を飛んだりもできるのだ。


(あぁ、気持ちいい……。サキュバスになって、初めて良いと思えたかも……)


 雄大な空をひとしきり飛翔したところで村が見えてくる。

 人口数十名の移民の村。その村には監視用の物見やぐらが建てられていた。見つかってはまずいと、僕は予定より早く地表に降りる。

 そして、茂みの中に身を潜ませて、持参した手提げ袋から着替えを取り出した。


「っと、スカートの着け方って……これでいいのかな……」


 その着替えは、普通の人間に見えるようにするためのものだ。

 といっても、スカートとブラウスを上から着るだけの簡単な変装。

 いつものボンデージファッションは中に着たままなので、首のチョーカーなどは見えてしまっている。 

 ボンデージを着ているのは、魅了の力を落としたくないからだ。

 魅了が村人に効くかどうか、時間がなかったのでぶっつけ本番で試さざるを得ず、できる限りの保険はかけておかなければならなかった。


「よいしょっと……あはっ、これちょっとイイかも」


 その場でターンして長めのスカートをひるがえらせると、なんだか様になっている感じで、笑みがこぼれた。


 ……あ、いや、あくまでボンデージより良いかなって意味だから。





「……つまり、魔王軍がこの村を襲うから、逃げろというのかね、君は」


「そ、そうなんです。事態は一刻を争います。どうか、村の皆さんと避難をお願いします」


 ……で。


 なんでこうなってるんだろうと思いつつ、僕は村長さんの家で、彼と普通に話し合っていた。


 いや、なんでというか、原因はわかってる。

 結局のところ、僕が誘惑できなかったというだけの話だ。

 というか、ぶっつけ本番も何も、やっぱりどうすればいいかわからない。

 「あはーん、うふーん」とセクシーポーズをとって、村長さんにしなだれかかって避難しろというのも、どう考えてもおかしい。

 なので、結局こうして素のままで実情を打ち明けるしかなかった。


「……君の言いたいことはわかった」


「じゃ、じゃあ──」


「わかったが、それで私が信用すると思うのかね」


「えっ」


「確かにこの村は、魔王軍領にもっとも近い最前線だ。国防をになう侯爵家の領地下にはあるが、実質は見捨てられているといっていい。だが、だからといって素性も知れん君のような者の言葉を鵜呑みにはできん」


「そ、そんな」


「当たり前ではないか。今言ったことが嘘で、村を空けた隙に盗みに入らないと誰が言える」


「うっ」


 歳はおそらく四十歳くらい。精悍な顔つきの村長さんは、そう言って疑いのまなざしを向けた。


(……辺境の村だけど、案外しっかりしてるなあ……)


「だいたい君は何者なんだ。近くの村では見たこともないし、王都の者がこんな外れに来るとも思えんが」


「あ、そ、それはですね……」


 しまった。もっとちゃんと設定を考えておけばよかった。

 答えられないでいると、ますます警戒の視線が強くなる。ちょっとヤバイ感じの雰囲気。

 と、そこで、ノックもなしに、家の中に村人の一人が飛び込んでくる。


 ドタドタドタッ──バタン!


「村長!」


「どうした。騒がしいな」


「にっ、西の森の向こうから、ガイコツの軍団が! 魔王軍です!」



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