06.魅惑のサキュバスビーム!(出ない)
「……どうしてこうなるかなぁ……」
僕は自室のベッドで、枕を頭に被せて足をバタつかせていた。
完全に想定外だ。村人たちを誘惑して、魅了の力で魔王軍に取り込むなんて。
そんな僕に、マリーが頭上から声をかける。
「むしろ良かったと思いますが」
「……なんで」
「『人間たちを抹殺してこい』という命令ではなかったのですから。元同族の方を手にかけるのは、さすがにまだ気が引けるのでしょう?」
「……あのねぇ」
まあ、確かにそこはマリーの言う通りだけど……事はそう単純ではないのだ。
というか、それ以前の問題で。
まず、根本的な話、人間を誘惑して虜にする、その方法がわからなかったりする。
「これさ……僕の身体から、フェロモン的なものが出てたりするのかな。全然そんな感じしないんだけど」
「……申し訳ありません、私は生命体でないので……魅了の力を感知できないのです。ですが、少なくとも前のラテア様も、居るだけで相手を魅了、ということはなかったように思います」
「あ、そうなんだ。……じゃあ、元のラテアはどんな感じで相手を落としてたの?」
「前にも申し上げた通り、ラテア様は魅了の力があまり強くないと嘆いておられて……。できるだけターゲットとの持続的接触を図っておいででした」
「持続的接触って……」
それって、要するにベタベタくっついて誘惑するってことじゃないか。
そんなんやってられるか!
「あとは、女性的部分を強調した、扇情的なポーズを取る……ということも」
「それも却下!」
というか、村人を誘惑しに行く──その行為の最初からして想像ができない。
サキュバスのボンデージを着て村に降り立ったら、不審者だと警戒されるに決まってる。というか、変質者、いや、痴女だ。
(どうすればいいんだろう……。普通の服で人間のフリして入り込んで、村長さんを魅了できるなら魅了して……そこから村全体に命令してもらう、とかかなあ……?)
「……そういえば、フェルミーはどうやって村を落とすつもりなのかな。彼女、別にサキュバスの血を引いてるわけじゃないんだよね?」
「はい。フェルミー様は代々ネクロマンサーの家系でいらっしゃいます。ただ、死霊術に限らず、様々な魔法に長けておられますので、おそらくは精神操作の魔法を用いて村を落とされるのではないかと」
「あー、そういうのがあるんだ。なるほどね」
その精神操作の魔法って、僕にも使えないだろうか。彼女が出陣する前に聞いてみよう。
そんなことを考えつつ、その日の僕は眠りに落ちてしまう。
──で、翌日。
「精神操作の魔法は使わないわ。ちょっと思うところがあってね」
「え」
早速フェルミーのところに聞きに行ったら、意外にもそんな答えが返ってきた。
「な、なんで」
「今回は少しやり方を変えようと思ってるの。ていうか、もっとアンデッドの兵隊が欲しいのよね。だから、私が襲う村は皆殺しにするつもりよ」
「みなっ……ちょ、フェルミー、何言ってるのっ!?」
さらっと恐ろしいことを言い出したので、声が裏返ってしまった。
可愛い顔して何考えてるんだこの子。だいたい、今回の任務は村人を味方につけなければいけないのに。
「大丈夫よ。村人はアンデッドにした後で、防腐加工の魔法をかけるから。普通に生者と見分けがつかないはずよ。勇者が同族に手を出せないって状況は、それで達成できるんじゃないかしら」
ああ、なるほど、ちゃんと考えてはいるんだ……って、そうじゃなくって!
「それに、アンデッドっていっても、生前の意識はちゃんと残ってるの。会話も普通にできるし、そのうえで術者に絶対服従って条件が加わるから、ほとんど精神操作と変わらないのよ」
「いや、でもね……!」
「ま、アンデッドになると魅了は効かなくなるから、あんたが嫌がるのはわかるけどね。でも、それくらいのハンデは私にくれてもいいんじゃない?」
……ハンデ。どうやらフェルミーは、僕が魅了の力で村ごと操れると思ってるみたいだ。
けど、実際は僕自身にサキュバスとしての力があるかすらわからない。
だいたい、落とす村の数を競争するつもりはないんだけど……。
「んんっ……んんん~~~……」
ダメ元でそれっぽいポーズを取ってみる。
「……何よ、そのハート型の手は」
「み、魅惑のサキュバスビーム……なんちゃって。ね、ねぇ、フェルミー。皆殺しだけは止めにしない? 僕もいくつかの村は譲るからさ」
「ダーメ、そんなこと言って油断させようったって。それに、アンデッド化での戦力増強は私にとって不可欠なの。いくらあんたのお願いでも、聞いてあげることはできないわ」
フェルミーに魅了をかけられるか、念じてみたけど当然何も起きなかった。
明日の準備をしたいからと、彼女の工房から締め出され、僕はそのまま自室に戻らされてしまう。
「ど、どうしよう……。さすがに村人全員殺害は見過ごせない……。見過ごせないけど……どうすればいいのさ……!?」
遅まきながら、魔王軍がいかにヤバい組織かを、僕はこの時ようやく理解したのだった。