表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/37

30.強さの定義【2】


「「「……ええぇ……?」」」


 彼女の答えに、僕たち三人は思わず声をそろえてしまった。


「せ、先生、それは何かの冗談ですか……?」


 ディノスが問いただす。ナナミさんは、「本気よ」と笑って答えた。


「いや、そんな、友達が多い方が強いって……」


「お、俺もそれは、ちょっとどうかと思うな。ガキ大将の腰巾着の金持ち小僧じゃないんだから」


「……なんだその例えは」


 コウセイさんの例えに、ディノスがツッコミを入れる。でも、ディノスも納得いってない様子で、眉を寄せた。


「あら、本当に本気よ? 友達が多いっていうのはね、それだけ誰かに認められてるってことだと思うのよ。力が強いだけじゃない、人と人とのつながりがあって、皆から信頼されている……。そうやって認められてきた軌跡こそが、強さであり、強さの証しなんじゃないかって私は思うのよね」


「人との、つながり……」


「認められてきた……軌跡……ですか」


 なるほどそういう言い方なら、言いたいことはわかるような気がした。

 つまり、ナナミさんが考えているのは、強さというのは腕力や忍耐力のように、自分の中で完結するものだけではないということ。

 誰かに認められる人間は、何かしら光るものを持っていると。

 言われてみれば、そうかもしれない。


 ……けど、それならなおさらのこと、僕自身はどの強さも足りてないように思われた。


「だとすると……ますます僕は厳しい感じかな……」


 ……この世界に来てからも、色々と状況に流されてる感じだし。


「いや、逆だろ?」


「えっ?」


 口をついて出たつぶやきを否定され、僕は思わずディノスの顔を見る。


「他者とのつながりでいうなら、この中ではラテアが一番多いだろ。そして、全員から信頼されている。先生の強さの定義から言えば、むしろお前が最強になると思うんだが」


「え……えぇっ?」


「だよな、俺もそこは同意見だ」


 コウセイさんもディノスに賛同する。


「そんな。僕なんて、甘ちゃんでどっちつかずの人間だし」


「……いいんじゃないか? 甘ちゃんでも」


「えっ」


「以前、俺とこいつとで斬り合いになった時、君はどちらも傷つけたくないと言って飛び込んできてくれた。少なくとも、その優しさのおかげで、俺たちはこうして無事でいられるんだ。悪いことなんて何もないと思うけどな」


 コウセイさんは僕に言う。

 ディノスはそれにうなずくと、さらに言葉を付け足した。


「俺たちだけじゃない。フェルミーだってロザリンドだって、魔王様だってそう思ってるはずだ。お前が頑張ってるからこそ、今の状況があるんじゃないか。国境沿いの村を味方にできたことも、魔王様が余命を減らさず、ロザリンドと結ばれたことも……すべてお前がいなかったら、できなかったことだ」


「そ、そんな……」


「ただ、それが強さかって言われると、あんまりしっくりは来ないけどな……」


「だ、だよね。そうだよね。僕なんかが強いだなんて、変だものね」


 変にほめられたせいで声がうわずってしまう。

 というか、サキュバスの力で皆を虜にできてるわけでもないのだから、その点からしてもつながりは多くない気がするんだけど……。

 ナナミさんはそんな僕たちを見つつ、優しい声で言う。


「……きっと、いつかわかるわ、何が本当の強さなのか。あなたたちが色んな経験をした後で、もう一度強さの意味を考えた時にね」


「……そういうものでしょうか」


「そういうものよ」


 年を取れば、考え方は少しずつ変わっていくものだからね、と彼女は言う。

 その声色は、穏やかでありながら、重みを感じさせるもので。

 強さとは何なのか、正直なところ僕にはよくわからない。

 でも、きっとこういう人が、本当の意味での強さを兼ね備えた人なんだろうな、と僕は思ったのだった。


「……そういえば、先生っておいくつなんですか。言葉にも含蓄があって、貫禄あるなあとは思うんですけど……その割に、見た目は若いというか……お姉さんというか……」


 ディノスが質問して、ナナミさんは一瞬きょとんとする。

 けれどすぐにからからと笑って、彼女は僕たちに答えた。


「あら、言ってなかったかしら。私、別に若くなんてないし……四十三歳の普通のおばさんよ?」


「「「よ、四十三歳っ!!?」」」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ