30.強さの定義【2】
「「「……ええぇ……?」」」
彼女の答えに、僕たち三人は思わず声をそろえてしまった。
「せ、先生、それは何かの冗談ですか……?」
ディノスが問いただす。ナナミさんは、「本気よ」と笑って答えた。
「いや、そんな、友達が多い方が強いって……」
「お、俺もそれは、ちょっとどうかと思うな。ガキ大将の腰巾着の金持ち小僧じゃないんだから」
「……なんだその例えは」
コウセイさんの例えに、ディノスがツッコミを入れる。でも、ディノスも納得いってない様子で、眉を寄せた。
「あら、本当に本気よ? 友達が多いっていうのはね、それだけ誰かに認められてるってことだと思うのよ。力が強いだけじゃない、人と人とのつながりがあって、皆から信頼されている……。そうやって認められてきた軌跡こそが、強さであり、強さの証しなんじゃないかって私は思うのよね」
「人との、つながり……」
「認められてきた……軌跡……ですか」
なるほどそういう言い方なら、言いたいことはわかるような気がした。
つまり、ナナミさんが考えているのは、強さというのは腕力や忍耐力のように、自分の中で完結するものだけではないということ。
誰かに認められる人間は、何かしら光るものを持っていると。
言われてみれば、そうかもしれない。
……けど、それならなおさらのこと、僕自身はどの強さも足りてないように思われた。
「だとすると……ますます僕は厳しい感じかな……」
……この世界に来てからも、色々と状況に流されてる感じだし。
「いや、逆だろ?」
「えっ?」
口をついて出たつぶやきを否定され、僕は思わずディノスの顔を見る。
「他者とのつながりでいうなら、この中ではラテアが一番多いだろ。そして、全員から信頼されている。先生の強さの定義から言えば、むしろお前が最強になると思うんだが」
「え……えぇっ?」
「だよな、俺もそこは同意見だ」
コウセイさんもディノスに賛同する。
「そんな。僕なんて、甘ちゃんでどっちつかずの人間だし」
「……いいんじゃないか? 甘ちゃんでも」
「えっ」
「以前、俺とこいつとで斬り合いになった時、君はどちらも傷つけたくないと言って飛び込んできてくれた。少なくとも、その優しさのおかげで、俺たちはこうして無事でいられるんだ。悪いことなんて何もないと思うけどな」
コウセイさんは僕に言う。
ディノスはそれにうなずくと、さらに言葉を付け足した。
「俺たちだけじゃない。フェルミーだってロザリンドだって、魔王様だってそう思ってるはずだ。お前が頑張ってるからこそ、今の状況があるんじゃないか。国境沿いの村を味方にできたことも、魔王様が余命を減らさず、ロザリンドと結ばれたことも……すべてお前がいなかったら、できなかったことだ」
「そ、そんな……」
「ただ、それが強さかって言われると、あんまりしっくりは来ないけどな……」
「だ、だよね。そうだよね。僕なんかが強いだなんて、変だものね」
変にほめられたせいで声がうわずってしまう。
というか、サキュバスの力で皆を虜にできてるわけでもないのだから、その点からしてもつながりは多くない気がするんだけど……。
ナナミさんはそんな僕たちを見つつ、優しい声で言う。
「……きっと、いつかわかるわ、何が本当の強さなのか。あなたたちが色んな経験をした後で、もう一度強さの意味を考えた時にね」
「……そういうものでしょうか」
「そういうものよ」
年を取れば、考え方は少しずつ変わっていくものだからね、と彼女は言う。
その声色は、穏やかでありながら、重みを感じさせるもので。
強さとは何なのか、正直なところ僕にはよくわからない。
でも、きっとこういう人が、本当の意味での強さを兼ね備えた人なんだろうな、と僕は思ったのだった。
「……そういえば、先生っておいくつなんですか。言葉にも含蓄があって、貫禄あるなあとは思うんですけど……その割に、見た目は若いというか……お姉さんというか……」
ディノスが質問して、ナナミさんは一瞬きょとんとする。
けれどすぐにからからと笑って、彼女は僕たちに答えた。
「あら、言ってなかったかしら。私、別に若くなんてないし……四十三歳の普通のおばさんよ?」
「「「よ、四十三歳っ!!?」」」




