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26.動画配信、好評です


 動画放送を始めて数週間。ありがたいことに視聴者数はウナギ登りに上昇し、僕たちの番組は一躍人気コンテンツとして魔王軍内に広まることとなった。

 いわゆる内輪の番組ではあるけど、魔族の総数からすればそれはかなりの数なので、必然的に視聴者数も多くなる。

 また、単なるおしゃべりだけでなく、各々の部署を紹介するコーナーを作ったりして、それも評判が良かったみたいだ。

 今まで知らなかった他部署の実情を知れたことで、兵たちの結束が強まったようなのよ……と、フェルミーが教えてくれた。


「あとは、まあ……あんたの可愛さで持ってるって感じかしらね」


「可愛さって……フェルミーが毎回エッチな衣装を着せてくるからじゃないか。それは僕、どうかと思うんだけどなあ。健全じゃないっていうか」


「いや、あんたサキュバスでしょうが」


 ビシッと手刀で僕にツッコミを入れて、フェルミーは言う。


「いくらあんたの転生前が人間だからってね、そこはもう腹をくくりなさい。魔王軍に尽くそうとする真面目さは、私、評価してるんだからね」


「……う、うん」


(評価、かぁ……)


 フェルミーは、僕を前のラテアとは切り離し、“僕自身”を仲間として認めてくれている……それはとても光栄なことだと思う。

 けど、可愛いっていうのは、どうなんだろう。

 正直言って……うーん……やっぱりあんまり嬉しくなかったりする。

 

(いつものボンデージでも躊躇するっていうのに……チアコスとか、猫耳メイド服とか、この前なんかギラギラな光沢の金色ビキニ着せられたもんなぁ……。フェルミーって、実は趣向がかなりおっさん臭くない?)


「それよりラテア。ついに次回は、シャルロット様をゲストに呼ぶんだから」


「あっ、そうだね。ある意味、次からが本番なんだから、気合入れないとね」


 そう、今までの放送は言うなれば前哨戦。僕たちの本当の目的に関わってくるのは、ここからなのだ。

 ロザリンドを魔王代理にする──その最終目的のために彼女の好感度を上げることもだけど、まずは何より、シャルロット様の存在を兵たちに知らしめておかなければならない。

 結局のところ、ロザリンドは中継ぎで、そのあとシャルロット様が正規の魔王になるわけで、いざ継承時に「あの少女は誰だ」となっては意味がないからだ。


(シャルロット様ご本人は、礼儀正しくて良い子だし、とても可愛らしいから、皆への印象は大丈夫だろうけど……)


 とりあえず、次の放送でシャルロット様を紹介して、その次はロザリンドをゲストに呼ぶ。だいたい交互に二人を出演させて番組になじませ、二人の好感度を徐々に高めていく……という感じだろうか。


 ちなみに、魔王様にもこの放送のことは報告済みで、シャルロット様が出演する許可も取ってある。

「面白いことを考えるものだな」と感心されて、ちょっとこっちが恐縮してしまった。

 ただ、ロザリンドを魔王代理にしようとしていることは、もう少しタイミングを見た方が良いと思い、言っていない。

 近いうちに、ちゃんと同意を得ないといけないのだけど……。


「ねぇ、ラテア。どうせならシャルロット様とロザリンド、二人同時にゲストとして呼びましょうよ。それなら二人の仲の良さもアピールできて、一石二鳥じゃない?」


「あ、いいね。実際、シャルロット様って、ロザリンドにかなり懐いてるみたいだし……。仲が良いことのアピールは、継承をスムーズに行う後押しになるものね」


 ともあれ、目先の放送をどうするかで手一杯で、僕は魔王様への確認を後回しにしてしまうのだった。





 そして、二人同時のゲスト招聘(しょうへい)は、予想以上の成功を収めることになる。

 シャルロット様は、初めて皆の前で話すということで、僕たちが思っていたよりも緊張しているみたいだった。

 ロザリンドは、そんなシャルロット様を気遣い、何も心配することはないですよと優しく髪をなでて落ち着かせる。

 その様子は仲の良い母子のようでもあり、特にいつものきっぷのいいロザリンドとは異なる一面に、皆が良い意味で驚嘆することとなった。


 さらに、番組の最後、エンディングの曲がバックにかかった時は、とある予想外の出来事が起こりつつ、それが彼女の魅力へと転化する。

 この番組はタイトルに違わず夜に放送していたのだけど、最後のあたり、シャルロット様はいつもならすでにベッドに入っている時間帯らしく、うとうとしておねむの状態だった。

 それに気づいた僕たちは、いつもの騒がしいテンションを抑え、小さめの声で会話する。

 そこへなんと、魔王様が自らシャルロット様を迎えに来られた。

 シャルロット様の就寝時間を気にして……というわけではなく、単にどんな番組を放送しているか見学に、シャルロット様へのお迎えは、そのついでだったらしい。

 ここ最近は休息も取られて少しずつ体調が回復してきた魔王様。でも、放送に割り込んで、声も落とさず「どうだ、大事ないか」なんて聞いてくるものだから、ロザリンドは思わず素の声で魔王様をたしなめてしまった。


「ダメですよ、魔王様っ。今、ようやく眠られたところなんですからっ」


 人差し指を立て、「しーっ」のジェスチャーで魔王様を可愛く叱るロザリンド。

 膝の上にはすやすやと安らかに寝息を立てるシャルロット様。

 魔王様は「う、うむ、すまぬ」とうろたえつつ、顔を赤らめ、それはなんとも微笑ましい光景で。

 そんな三人の様子を見て、フェルミーも、画面の向こうにいる魔族たちも、きっと僕と同じことを思ったに違いなかった。


 そう──まるで本当の家族みたいだと。



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