25.動画配信、始めます(◆フェルミー一人称)
「フェルミー!」
「ラテアの!」
「「魔王軍、プリミティヴナイトーっ!」」
タイトルコールと同時に、撮影魔道具の視点がアップからロングへと切り替わる。
バックには軽快な音楽。スケルトンたちが鳴り物を鳴らし、タイトルロゴが画面中央に現れる。
私、フェルミー・トルフィナンシュは、ラテアと一緒に、作り笑いで目の前のレンズに小さく手を振る。
勝手知ったる様子のラテアは、可愛らしく身体を傾け、慣れた感じで司会の口上を述べた。
「というわけで、始まりました『魔王軍プリミティヴナイト』。この放送は、皆さまに魔王軍のことをもっと広く、そして深く知ってもらおうという、そんな番組となっておりまーす!」
「ふ、普段は知らない魔王軍の内側や裏事情、その他気になるあの人のことも、色々とわかっちゃうかも!?」
「次回以降は毎回スペシャルゲストをお招きする予定です! どうぞ皆さん、楽しんでくださいね!」
動画配信。
この映像は、城下の各区画や、店舗内のスペース、さらには魔王軍領の上空に投影され、中央に住むほぼすべての魔族が視聴できるようになっている。
この動画の目的は、兵士たちの扇動にある。
つまりは、プロパガンダ。
一見普通の番組のようで、けれど気付かないうちに皆が誘導されている状況を作り出す──ラテアはそんな意図を私たちに説明し、動画を撮ることを提案した。
もちろん、これはすぐに効果が出ることじゃない。始めるにあたっても、色々準備が必要だ。
そこでこの一週間、私はセットや機材の調達に、ラテアは台本の作成にと、役割分担してそれぞれのやるべきことを行っていた。
(けど……ラテアったら、後で覚えてなさいよ……!)
実のところ、私への負担は結構なもので、特に上空に映像を投写する魔道具は、一から製作せざるを得なかった。
おかげでこっちは睡眠不足。まあ、それはいい。
映像投写で消費する魔力はラテア持ちだし、そもそも魔道具の開発は、それほど嫌いじゃなかったりする。
問題は、番組の内容の方だ。
この動画配信の最終目的は、魔王軍におけるロザリンドの好感度を上げることにある。
「ロザリンドこそ、魔王様の代わりを務めるにふさわしい」、そんな認識を兵士たちに浸透させ、彼女に魔王代理襲名を断れなくする。それが一番の目的であって、その他のことはすべて副次的要素だ。
(でも、そのためにこんな茶番を演じる必要は……絶対ないでしょうが!)
というか、恥ずかしすぎた。
何なのよ、このふざけた司会進行は。
あの子、魔王軍四天王をアイドルか何かだと勘違いしてない?
『こういうのは二人の掛け合いでやった方が人気が出るんだよ。だからフェルミー、お願いっ!』
両手を合わせて、そう頼み込んできたラテア。
確かに、私たち三人のうち、ディノスにこんな軽い役は似合わないだろう。
でも、私だって柄じゃないんだけど!?
とはいえ、これも魔王軍のため。私はカメラの向こうのスケルトンが持つカンペを見ながら、割り当てられた台詞を読み上げていく。
「とりあえず、今回は第一回目ということで、私とラテアの自己紹介も兼ねて、サキュバスと死霊術士の特性、特技などを解説させてもらうわよ!」
「いぇーい!」
くっ……「いぇーい」じゃないっての! なんか腹立ってきたわ。
サキュバスの特技ねぇ……そんなの聞くまでもないことだと思うけど。
なんだったら番組中に実践してやろうかしら。
ふと思い立って、私はこっそり後ろから、ラテアの形の良いお尻を鷲掴みにする。
「ひゃうっ!? ちょ、ちょっとフェルミー!?」
びっくりしつつ、小声で抗議するラテア。
あら、意外と可愛い声で鳴くのね。
「何驚いてるのよ。人気が出た方がいいんでしょ? だったらこうして、サキュバスらしいことの一つでもすればいいじゃないの」
「さ、サキュバスらしいことって何さ!? い、いや、やっぱり言わなくていい、やらないから!」
「前から思ってたけどさぁ……あんた、肝心なところでは尻込みするわよね。いいから、カメラに向かってご挨拶なさいよ、ほらほら!」
「やだっ、ちょ、フェルミー、これエッチな動画じゃないんだよ!? やめてって、ボンデージの中に手を入れないでっ、ひゃん!」
徹夜明けのテンションで、いつになくはっちゃけてしまう私。
悶えるラテアがカメラに映り、慌ててレンズの方向を変える撮影係のスケルトン。
最近ラテアに振り回され気味だったから、ちょっとした仕返しが出来て、私としては良い気分……だったのだけど、これが魔王軍全体に中継されていることをすっかり忘れていたのだった。




