24.魔王代理を立てればいいんじゃないかな
さらに幾日かの後、僕は魔王城の会議室にロザリンドたちを招集する。
用件は、もちろん魔王様とシャルロット様の件。
つまり、次の魔王継承について、お二人の負担をどう軽減するかだ。
四天王全員が部屋に入り、小さめの円卓に着席する。僕はぐるりと三人の顔を見渡して、結論から切り出した。
「──ロザリンドが、次の魔王になっちゃえばいいと思うんだよね」
「「「……え!?」」」
僕以外の全員が、そろって素っ頓狂な声を出す。
続いて、ロザリンドは驚きと困惑の入り混じった表情で、自分の顔を指差して言った。
「ちょっ、ラテア、いくらなんでもそれは不敬だよ! ていうか、なんであたし……?」
「今の時点で、一番次の魔王にふさわしいと思うから。戦闘力、率いる部下の数、人望……色んな面を考慮して、魔王様の代わりを任せられるのは、ロザリンドしかいないと思うんだよ」
「いや、ラテア、あのね……!」
「ラテア、さすがにその考えは……」
「いくらなんでも軽率すぎるわよ、ラテア──」
「──待って。最後まで僕の話を聞いて」
逸る三人を手振りで制して、僕は言葉を続ける。
「これはあくまで繋ぎの措置。一時的な代役に過ぎないんだ。つまり、シャルロット様が成人されるまでの約十年、ロザリンドが魔王代理を務めればいいってこと」
「繋ぎの……」
「……代理……?」
ディノスとフェルミーは、ためらいがちにつぶやく。
フェルミーは何度かその言葉を反芻し、少し間を置いた後で、「……そうか、なるほどね」と言った。
「確かに、一時的な代理を立てるのは、悪くないかもしれないわ。その案でいけば、魔王様が寿命を削る必要もないし……」
「……それに、ロザリンドの魔獣戦士団は、魔王軍の中で最も規模が大きい。単騎の戦闘力では俺とほぼ差がないことも考えると……総合的には、適役といえるな……」
ディノスも僕の言いたいことを理解したらしく、あごに手を当ててうなずいた。
僕たち魔王軍四天王のうち、一番強いのはディノス。次に僅差でロザリンド。それからフェルミーで、最下位は僕という順番だ。
でも、暗黒騎士のディノスは、単騎での戦いが専門で、部下たちを指揮する集団戦ではロザリンドに軍配が上がる。
フェルミーは多彩な魔法が使えるけど、直接的な戦闘力が低い。
僕はといえば、どれも経験不足で、多分一番役に立たない。
となると、皆をまとめるのに一番ふさわしいのは、ロザリンドということになる。
「いや、それでもやっぱりおかしいよ! あたしなんかが魔王様の代理だなんて──」
「そういうことを言えるロザリンドだからこそ、僕は推したいんだ」
彼女の言葉をさえぎって、僕は懇々と訴えた。
「侍女の人から教えてもらったんだけど、ロザリンド、ここ最近は毎日魔王様のお見舞いに行ってるんだって? それで、時間があれば、シャルロット様のお相手もしてるって。誰よりもそうやってお二人のことを思いやってるあなただからこそ……この役目を受ける資格があると思うんだ」
「そんな、あたしなんかが……」
謙遜するように顔を赤らめる。けれど彼女は、「やっぱりダメだよ」と声を上げた。
「だ、だいたい、魔王様にこの話は通してあるのかい!? あたしたちだけでこんなことを密談するなんて、謀反を疑われても文句は言えないよ!?」
「うーん、それはまだなんだけど」
「「えっ」」
僕の返答に、ディノスとフェルミーも「マジか」という顔になる。
「じゃ、じゃあやっぱり、この話は無しだよ! 色々考えてくれたのは嬉しいけど……やっぱりあたしには無理だって! 今日のことは、聞かなかったことにしておくからさ!」
そう言って、ロザリンドは早足で部屋を出て行く。
扉が閉められた後、フェルミーは「あんたねぇ……そういうのは先に手回しをしておくもんなのよ」と、僕に言った。
「あはは……ちょっと先走りすぎちゃったかな」
「前世で人間だった頃は、それで良かったかもしれないけどね。甘いのよ」
なお、フェルミーやロザリンドにも、僕の魂が人間であることはすでに伝えてある。
魔王様にも先日同じ話をして、そちらもちょうど了解を取ったところだった。
ありがたいことに、皆、ディノスと同じように、僕をラテアとして受け入れてくれると言ってくれた。
前のラテアがもういないことを残念がってはいたけど……それはそれとして、僕を仲間として認めてくれたことは、正直かなり嬉しかった。
「しかし、実際のところ、ロザリンドが代理を務めるというのは悪くないんじゃないか。魔王様には言葉を選んで説得する必要があるとは思うが」
ディノスは改めて僕の案に言及すると、後押しするようにそう賛同してくれる。
「そうね。『魔王代理』という呼称は無しで、魔王様の退位も公表せず、そのままロザリンドが実務だけ引き継ぐ……なんて形でもいいかもしれないわね」
フェルミーも案自体には異論がないようで、そんな改案を提示してくれた。
「ただまあ、当のロザリンドがそれを引き受けてくれないことにはな……」
「確かに、一番のネックはそこなのよね」
「あ、それについては僕、ちょっと追加で考えがあるんだ」
「……何よラテア。いいけど、今度こそちゃんと根回ししなさいよ?」
フェルミーはあきれたように唇を尖らせ、僕に説明を求めてくる。
僕は苦笑しながら二人に言った。
「ええとね、ロザリンドに対しては、むしろ根回しはしない方がいいと思うんだよ」
「……どういうこと?」
「つまりね、ロザリンドが断れないような状況を作っちゃえばいいってこと」
「ふぅん……? まあ、言いたいことはなんとなくわかるけど……」
「何か、そんな状況を作れる良案があるのか、ラテア」
「うん。実はね──動画配信をしようと思ってるんだ」
僕の提案に、二人は顔を見合わせて、それから一オクターブ高い声を上げた。
「「……何だ(です)って?」」




