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20.可憐なあの子は元人間(◆ディノス一人称)


 勇者の侵攻を留めてから十数日。

 任務もひと段落し、俺──ディノス・ガルレイブを含めた四天王は、四人ともしばしの休暇を魔王様からいただいていた。


 そんな中で、今日は外出の日。ラテアを俺の師匠のところに連れていく日だ。

 俺は今、師匠の家へと続く森への入り口で、彼女が来るのを待っている。


「……ちょっと早く来すぎたか……。いや、確かこういうのは男の方が先に来て、待ってた方がいいんだよな……」


 勇者の件については、ありがたいことに魔王様からお褒めの言葉をいただけた。

 勇者を倒せたわけじゃないが、人間との間に不和を生じさせ、奴を離反させたのだ。

 魔王軍にもたらす利益からすれば、それは倒したのと同義と言っていい。


(とはいえ、それを成し遂げたのは、ラテアの説得によるところが大きいんだが……)


 ラテア・ペンデグラム。サキュバスで、俺と同じ魔王軍の四天王。

 実のところ彼女は、俺たちが知っていた今までの彼女ではなかった。


 ──転生。あるいは、魂の憑依。

 今までのラテアはすでに天へと旅立ち、今の彼女の肉体には別の魂が入っているのだという。

 しかも、新たなラテアの魂は、元は異世界の人間だったらしい。

 人間の魂ということで、ともすれば信用できないとも思われそうだが……俺にとっては、もうそのラテアも大切な仲間の一人だ。


 今のラテアは心優しく、とても健気な女の子だ。

 俺が勇者と剣を交えようとした時も、どちらにも戦ってほしくない──傷ついてほしくないと、身を挺して飛び込んできてくれた。

 元の同族である人間と戦いたくないというだけじゃない。魔族である俺のことも心配してくれたのだ。

 フェルミーやその配下のスケルトンたちとも仲良くやれているようだし……信頼に値する女性だと思っている。

 

 あと、ここだけの話……すごく、可愛い。

 ……なんだろう、上手く言えないんだが、とにかく可愛くて……もし、かなうのなら、将来彼女と……い、いや、まずはもう少し仲良くなりたい。

 あの可愛さはサキュバスとしての魅力なんだろうか……。俺にはわからないけど、きっと人間だったころもモテたんだろうなと思う。それくらい、素の可愛さが増し増しなのだ。


 そういえば、コウセイとかいったか、あの勇者の男も、態度からしてラテアに気があるのだろう。

 奴とはその意味でいつか決着をつけなければならないだろうが……こちらとしても、譲るつもりはまったくない。


 ……それから、前のラテアについては、彼女がもうこの世にいないことは……本音を言えば、残念ではある。

 ただ、それを惜しんでももはや仕方のないことだし、生まれ変わりたいというのが前のラテアの願いなら……その思いを尊重するべきなのだろう。


(……別れの挨拶くらいは、言いたかったな、とは思うが)


 そんなことを考えていると、人の気配と足音が近づいてくる。

 俺はラテアが来たのだと思い、声をかけようと振り返る。

 だが、その時の彼女の姿を見て──不覚にも、そのまま俺は固まってしまった。


「お待たせ、ディノス。今日はよろしくね」


 ──白だった。

 真っ白なワンピース、それ一枚のみ。

 いつもの黒い衣装とは正反対の、清涼感あふれる可愛らしい服。

 ノースリーブで露出した肩口は、健康的な肌色が白の布地との完璧なコントラストを醸し出している。

 つばの大きな白い帽子をかぶり、手には藁で編んだバッグを持って。

 そして、陽の光と、空の青さも相まって、それはまるで一枚の絵画のようで──


「かっ……可憐すぎる……っ!」


「……え?」


 俺は思わず、率直な感想を口にしてしまう。

 ラテアはその言葉にきょとんとして、宝石のような瞳をまたたかせたのだった。



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