表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しずくのいちご牛乳  作者: ぷらぷらぷらす
7/55

第07話 みつき

しずくがいちご牛乳を飲んでいると、部屋のドアが静かに開いた。


「しーちゃん、それ何飲んでるの?」


母・みつきの穏やかな声。


「……!」


しずくは、一瞬グラスを隠そうとしたが、すぐに思い直した。


(別に、やましいことなんてない……はず……。)


でも、なぜかドキッとする。


みつきは部屋の中に一歩足を踏み入れると、ふっと眉を寄せた。


「……なんか、この部屋、すごい匂いしない?」


「えっ……あ、うん。」


しずくはカップをぎゅっと握りしめながら、少しだけ身をすくめた。


(やっぱり……そうなるよね。)


普通のいちご牛乳とは違う、独特の匂い。発酵したような甘酸っぱさと、ツンとした刺激的な香りが部屋に広がっている。


みつきは、カップを覗き込み、目を細めた。


「……なんか、ドロドロしてない?」


「いちご牛乳だよ……ちょっと普通のとは違うかも……。」


みつきは怪訝そうな顔をしながら、ふと何かを思い出したように、ニヤリと笑った。


「えっ、これ、いちご牛乳なの!しーちゃん、もしかして、男の子からもらったのかなぁ?」


「っ!?」


しずくの顔が一気に赤くなる。


「ど、どうして!?」


「いやぁ、なんか、そんな気がして。しーちゃん、最近いちご牛乳なんて飲んでなかったのに、急に飲み始めたからさ。」


みつきはニヤニヤとしながら、しずくをじっと見つめる。


「もしかして……ゆうくん?」


図星だった。


しずくはカップを抱え込むようにしながら、小さく頷いた。


「うん……ゆうくんが作ったやつ……。」


「へぇ~、しーちゃんにだけ特別に作ってくれたんだ?」


みつきの口調が少しだけ、からかうような色を帯びる。


「それ、どういう意味かわかってる?」


「え?」


「男の子が自分の作ったいちご牛乳を女の子にあげるのって、大好きって気持ちを伝えるものなのよ。」


「……っ!?」


しずくの手がビクッと震えた。


「それを飲むってことは、しーちゃんもその気持ちを受け取ったってこと。」


しずくの顔が一気に赤くなる。


「そ……そんな意味があったの……!?」


「うん。まぁ、昔からそういうのってあるしね。」


みつきは、しずくの様子を楽しむように微笑んだ。


「まさか、知らずに飲んでたの?」


「……う……。」


しずくはカップをぎゅっと握りしめながら、小さくうつむいた。


(そ、そんな……! 知らなかった……。)



みつきはしずくの様子を見て、ふと何かを思いついたように手を伸ばす。


「ねぇ、それちょっと味見させて?」


「えっ……!? や、やめたほうがいいよ……!!」


しずくは慌ててカップを遠ざける。


「なんで? そんなに美味しいなら、ちょっとくらい飲んでみたいじゃない。」


「えぇ~……ほんとに飲むの……?」


「うん!」


みつきはしずくの反応を見て、余計に興味津々といった表情になる。


「ちょっとだけだから!」


しずくは最後まで渋っていたが、みつきの勢いに押され、しぶしぶカップを差し出した。


「じゃあ……ほんとに、ちょっとだけだよ?」


みつきはカップを手に取り、軽く匂いを嗅ぐ。


「……うっ……なんか、強烈な匂い……。」


それでも、意を決して一口。


——次の瞬間


「んぐっ……!!??」


みつきの顔が、一瞬でこわばった。


「っ……げほっ……!! うっわ、なにこれ!?!?」


みつきは慌てて口を押さえ、咳き込みながらしずくを見た。


「しーちゃん、こんなの美味しいって思ってるの!?」


「だから言ったのに……。」


しずくは、苦笑しながら小さく呟く。


「でもね、お母さん。慣れると、ほんのり甘く感じるんだよ?」


みつきは信じられないといった表情で、しずくを見つめた。


「……しーちゃん、本気でこれ飲み続けてるの……?」


しずくは、少し恥ずかしそうにしながらも、しっかりと頷いた。


「うん。ゆうくんが作ってくれたから、美味しく感じるの。」


みつきは、しばらく沈黙した後、ふっと笑った。

昔は、甘いジュースしか飲めなかったのに。


「……ほんとに、しーちゃん、恋してるんだね。」


しずくは顔を真っ赤にしながら、カップをぎゅっと握る。



——ゆうくんの作ったいちご牛乳。


——その味が、こんなにも愛しく思えるようになったのは、気のせいじゃないのかもしれない。


みつきは娘の髪を優しく撫でながら、目を細めた。


「……ふふっ、しーちゃん、大きくなったね。」


しずくは、その言葉に少し照れくさそうに微笑んだのだった。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ