表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しずくのいちご牛乳  作者: ぷらぷらぷらす
6/55

第06話 それだけの為

——350ミリリットル。


昨日より増えた量。

それだけじゃない。


「……ゼリー、多くない?」


しずくは、グラスの中をじっと見つめた。


いちご牛乳の中に浮かぶゼリーの塊は、以前の1.5センチを超え、今日は2センチ近くになっている。


小さな違いに見えるかもしれない。

でも、しずくにはわかる。


この1センチの違いが、どれほど大きな壁になるのか。


液体の中に散らばっていたはずのゼリーが、今日はほぼ固まりになって沈んでいる。

これは飲む、というより、食べるに近い気がする。



「……これは、かなりキツイかも。」





---


しずくは、グラスをゆっくりと手に取り、覚悟を決めた。


一口目を口に含む。


その瞬間、ゼリーが舌の上でぶつかり合い、いつもよりも強い粘り気を感じた。


「んっ……」


喉に絡みつく感覚。

飲み込もうとすると、ゼリーの塊が喉にまとわりつき、じわじわと引っかかる。


(……苦しい……!)


一瞬、身体が飲み込むことを拒否しようとする。

けれど、しずくは喉を押し開くようにして、それを無理やり流し込んだ。


「んんっ……ぐっ……」


ゼリーが喉を通るたびに、胃が重たくなる。

それなのに、口の中にはまだ残っている。


——息が詰まりそうになる。



---


「……これは……飲めない。」


しずくは息を切らしながら、攻略法を考え始めた。


今までは、**“出されたものを頑張って飲む”**だけだった。

でも、今回は違う。


このままでは、飲み切れない。


(飲み方を変えなきゃ……!)


(昨日はとにかく飲むしかなかった。でも、今日は違う。)


(飲み方を工夫すれば、少しでも楽に飲めるかもしれない。)


(——できるだけ苦しまない方法を探さなきゃ。)


---


——挑戦1:ゼリーを噛む。


「……噛めば、小さくなって飲みやすくなるかも。」


そう思い、ゼリーを噛み潰した。


ぷちゅっ——。


瞬間、ゼリーの内部から、強烈な苦みとえぐみが弾ける。


「んっ……うぅ……っ!」


口の中いっぱいに広がる濃縮された味。

ゼリーの粘りが舌にまとわりつき、飲み込もうとすると、喉に糸を引く。


(ダメ……噛んだら、逆に広がる……!)



---


——挑戦2:ゼリーと液体を分けて飲む。


「じゃあ……先に液体を飲んで、喉を潤してからゼリーを流し込もう。」


まずは、液体部分を口に含む。

とろりとした感触が舌に広がる。


そして、次に——ゼリーを口に運ぶ。


(いける……今度は、飲みやすく……)


そう思った矢先、


——喉の奥でゼリーが絡まり、張り付いた。


「んっ……!?」


飲み込もうとすればするほど、喉にねばりつく。

胃に落ちるまで、ゼリーが喉にしがみつく感覚。


「……やっぱり、分けても無理かも……。」


しずくは、軽く唇を噛む。



---


(じゃあ……結局……)


しずくは、ゆっくりと息を整えた。


(……普通に飲むのが、一番なのかな。)


最初に戻る。

最初に考えていた通り、「口を離さず、グラスを一気に傾ける」。


気持ちを固め、しずくはグラスを握りしめた。



---


「……いくよ。」


——ごくっ、


——ごくっ、


喉を押し開くように、強制的にゼリーごと流し込む。


(吐き気が来ても関係ない……!)


目をつぶり、ただただ飲み込むことだけを考える。


——ごくん。


最後の一滴が、しずくの喉を通り、胃へと落ちた。



---


「はぁ……はぁ……」


しずくは、荒い呼吸のまま、グラスをテーブルに置く。


「全部……飲んだ……」


口の中には、まだ粘り気が残っている。


喉の奥から、こみ上げる違和感。


「う……っ……」


次の瞬間——


——「げっ……ぷ。」


不意に、ゲップが漏れた。


(……あ……!)


とっさに口元を押さえる。


顔が、一気に赤くなった。


「……っ、やだ……!」



---


「ははっ。」


ゆうくんの笑い声が聞こえる。


「しずく、大丈夫だよ。そんなの、気にしなくていいって。」


「で、でも……!」


しずくは、恥ずかしさに耐えきれず、俯いた。


(……最低だ……せっかく、頑張ったのに……!)


そんな気持ちが溢れそうになったとき——


「しずく、よく頑張ったね。」


ゆうくんが、優しく言った。


「ほんと、すごいよ。全部飲めたじゃん。」


その言葉に、しずくの肩から、少しだけ力が抜ける。


「……うん。」


ゆうくんは、にっこりと微笑んだ。


その笑顔を見た瞬間、


(……あぁ、そうか。)


——私は、この笑顔が見たかったんだ。


それだけのために、今日も、頑張ったんだ。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ