エピローグ
——目を覚ますと、眩しい光が差し込んでいた。
しずくは、ゆっくりと瞬きをする。
ぼんやりとした視界の中で、天井が見える。
やわらかいベッドの感触が、まだ完全に覚めきらない体を優しく包んでいた。
「……しずく!」
すぐ隣から、焦りと安堵が入り混じった声が響く。
視線を向けると、そこにはゆうくんがいた。
彼の顔はどこか疲れていて、それでも真剣な瞳でしずくを見つめている。
「よかった……本当に、よかった……!」
長い間、意識が戻らず、ずっと隣で見守っていてくれたことが、その表情から伝わってきた。
つい五分ほど前、しずくが急に苦しみ出したという。
呼吸が乱れ、意識が戻るのかどうかも分からない状態で——
ゆうくんは、ただ、何もできずに見守るしかなかった。
そんな恐怖を乗り越えて、今、しずくは目を覚ましたのだ。
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しずくは、ゆっくりと呼吸を整える。
「……うん、死んじゃったかと思ったよ。」
かすれた声で冗談めかして言う。
「極限いちご牛乳、とんでもなかった……どちらかと言えば、ゆうくんの思いが、とんでもなかったのかもしれないけど。」
そう言うと、ゆうくんは微かに息を詰まらせ、すぐに俯いた。
「……しずく、ごめん。」
その声は、驚くほど弱々しかった。
彼は、しずくを苦しませるつもりなんてなかったのだろう。
それでも、結果として、しずくは命を落としかけた。
しずくは、そっと手を伸ばし、ゆうくんの手を軽く握る。
「大丈夫だよ。」
その一言に、少しだけ彼の肩が揺れた。
「ゆうくんの思い、ちゃんと全部受け止めたから。」
握った指先に、少しだけ力を込める。
「私の思いも、ゆうくんに負けてなかったって証明できたよ。」
そう言って、しずくは微笑んだ。
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「……よかった。本当に、しずくが生きていて。」
しずくは、ゆうくんを見上げながら、少し茶目っ気を込めて微笑む。
「ねぇ、飲む前に言ったよね?」
ゆうくんが、わずかに首を傾げる。
「私、ゆうくんのいちご牛乳がないと生きられないって。」
そう言って、しずくは小さく肩をすくめる。
「だからね、もし死んじゃったら……ゆうくんのいちご牛乳、もう飲めなくなっちゃう。」
「なら、天国でも生きられないよ。」
その言葉に、ゆうくんは一瞬だけ目を伏せる。
—— しずくらしいな。
ふふっと、小さく笑う。
しずくは、そんな彼の反応を確認してから、柔らかく続ける。
「ありがとう、ゆうくん。」
そう伝えた瞬間、彼の表情がわずかに変わった
ゆうくんは、しずくの言葉をじっと飲み込むように、一瞬だけ黙る。
ゆっくりと、深く息をついた後——
「……よく頑張ったね。」
そう言って、彼はしずくの頭をそっと撫でた。
その仕草が、どこか優しく、そして温かくて。
しずくは、目を細める。
—— ああ、やっと、ここまで来れたんだ。