第44話 いちご牛乳の化身
愛理は、しずくの後ろ姿を見ながら、ふと考えた。
「……なんかおかしい。」
気になって、そっと クンクン、クンクン。
「あんっ!?」
突然、うなじのあたりを嗅がれて、しずくがびくっと肩を震わせる。
「な、なにやってんのよ、愛理!! そんなとこ嗅がないでよ!!」
「いや、甘くていい匂いするなって思って……」
愛理は、不思議だった。
あれを、あれだけ飲んでいるのに、なんでこんなにいい匂いなのか。
「私ね、普段はいちご牛乳のパフューム使ってるからね! 愛理も試してみる?」
「いやいやいや、絶対に嫌!!」
即座に拒否する。
もう私は、同じ轍を踏まない。
「どうせ、あんた……“ゆうくんの香りを体の周りに閉じ込めて、全身包まれてる感覚になれる” とか言うんでしょ。」
「えぇぇ!? なんで分かったの!?」
しずくは きらきらした瞳 で、心底感心したように言う。
「さすが愛理! すごい! 私のこと、なんでも分かっちゃうんだね!」
「分かりたくなんかないわよ!!」
こっちは嫌でも分かるのよ!!
「だってね、体の中も外も、ぜーんぶ いちご牛乳なんだよ? こんな幸せなことある?」
しずくはうっとりしながら、腕を軽く抱きしめるようにしながら呟く。
もう私はツッコまない。
「……運動して汗かいても、ゆうくんフィルターで いちごの香りだけ外に出てるんだろうね……」
だから、ツッコまないから。
こんな女がいるから、男の子は “女の子っていい匂いする” って勘違いするのよ!!
普通は違うのよ!!
女の子の いい匂い は、涙ぐましい努力の賜物なの!!
天然で いい匂いがする子なんて、いないの!!!
……いないはずなのに、ここにいた。
いちご牛乳の化身が。
「ほら、愛理。舐めてみて?」
しずくが、突然 指先を差し出してくる。
「はぁ!? ちょっと、何……!?」
拒否しようとした瞬間、すっと 指が愛理の口元に滑り込んだ。
「……ッ!?」
つい、ぺろっ となめてしまう。
――甘い。
えっ、甘い!?!?
「……うそでしょ……?」
「えへへ~、私ね、どうやら いちご牛乳の味 がするみたい!」
しずくは 天使のような笑顔 で言う。
「お風呂に入るとね、ふわぁって甘い香りが広がるの! なんか、お湯もほんのり甘くなるんだよね! すごいよねぇ、ゆうくんのいちご牛乳って!」
「……もう、いちご牛乳の化身だったよ。」
私の 理解の範疇を超えた存在 が、目の前にいた。
それでも、しずくは 無邪気に微笑む。
「ねぇ、愛理。これって、すごく幸せなことだよね?」
……もう、私は何も言えない。