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しずくのいちご牛乳  作者: ぷらぷらぷらす
34/55

第34話 マイスター

ゆうくんは、いつものようにいちご牛乳をしずくとあいりの前に出した。


しずくはグラスを手に取ると、くるりと回して匂いを嗅ぐ。まず最初に視覚的に楽しんでから香りを確かめるのが、しずくのいちご牛乳を飲むときのマナーだった。


「んっ……?」


少し眉をひそめる。


「ゆうくん、このいちご牛乳、ちょっと変だよ。いつもと違う。」


ゆうくんは、しずくの様子を見て、小さく笑った。


「しずく、合格だよ。」


「やっぱりそうだよね。おかしいと思った。」


それを聞いていたあいりが目を丸くする。


「え?どういうこと?」


しずくはグラスの中身を迷いなく流しに捨てながら、淡々と答えた。


「これ、ゆうくんが作ったものじゃない。まがいものだよ。こんなの飲み物じゃないよ。」


あいりは驚きとともに戦慄する。


「えぇ!? そんなことまでわかんの!? 化け物じゃん!」


「私のいちご牛乳だけ、偽物だったんだよ。粘つき具合、ゼリーの動き、震え方が違う。ゆうくんのいちご牛乳と比べると、一瞬でわかるよ。」


「えっ……じゃあ、私のは?」


「あいりのは本物。さっきの動きから見て、間違いないよ。」


「よ、よかった……」


ほっと胸を撫でおろしながらも、あいりは言葉を失った。

しずく、どこまでいちご牛乳に向き合ってるの……?


しずくは眉を寄せながら、流しの中の液体を見つめる。


「それにしても、ゆうくんひどいよね。こんなの飲ませるなんて、腐ったものを食べさせるようなもんだよ。生ゴミだよ。」


あいりは心の中で、いやこれも十分腐った味してるけどな……と思ったが、あえて口にはしなかった。


「ごめんごめん、これも試験の一つだったんだ。でも、しずくはちゃんと見抜いた。だから合格だよ。」


しずくは少し考え込んだあと、ふと疑問を口にする。


「前から思ってたんだけど、そのランクってどういう基準なの?」


「どれだけいちご牛乳と心を通わせて、理解できるかって感じかな。しずくは、僕のいちご牛乳を見た目や匂いだけで判別できるレベルだし、もうマイスターだよ。ここまで達成できる人なんて、ほとんどいないんだよ。」


しずくはゆうくんの言葉を聞いて、静かに微笑む。

私は世界で一番、ゆうくんのいちご牛乳を理解している。

誰よりも、深く、強く、真剣に――。


「その上のランクもあるの?」


「うん、エターナルっていうんだけど、誰一人として到達したことがない。僕も、さすがにそこまではわからないんだ。」


「へぇ、なんかすごそう。」


あいりはぽかんとした顔で2人のやりとりを見ていた。

いや、なんかもう次元が違うんだけど……。


しずくはふと、自分の食生活を思い返して口を開く。


「最近、ご飯よりいちご牛乳を飲んでるほうが多くなってるかも。カロリー、大丈夫かな?」


ずてんっ!!

あいりは机につっぷした。


「しずく、お前、もういちご牛乳で生活してるのかよ……」


「え? そうかな? 1日2リットルの水分が必要って言うし、料理とかお菓子にも使うし、それくらい飲まなきゃ足りなくない?」



こてんっ!!


「2リットル!? それはさすがにヤバいでしょ!」


「あいりさっきからなにやってんの?別にいいじゃん。ゆうくんのいちご牛乳だよ?」


「もうダメだ……完全に中毒だよ……」


ゆうくんは笑いながら、しずくの方を見た。


「まあ、しずくの欲しがる量に合わせて成分調整してるから、ほぼ完全栄養食みたいなもんだよ。」


「ほんと!? じゃあ、2リットルもらっていい?」


「うん、いいよ。」


「わーい! ゆうくん、ありがとう!」


あいりは両手で頭を抱えた。


「……もう知らん。」


そんなあいりをよそに、ゆうくんが思い出したように言う。


「あ、そうだ。いちご牛乳の入浴剤、作ったんだ。」


「えっ、入浴剤?」


「うん。栄養豊富だから、お肌がツルツルになるんだよ。飲んでも問題ないしね。」


あいりは絶句した。


これに、浸かる……?


いや、肌ツルツルにはちょっと興味あるけど……

生チョコの悲劇が頭をよぎる。

とりあえず、しずくの様子を見てからだな。


「へぇ、しずくよかったね。」


「うん、じゃあ今日一緒に入ろうよ!」


「えっ!? いや、私はいいかな!! ほら、一人でリラックスしたいじゃん!? 私はまた今度……!」


「えー、そう?」


しずくは上機嫌で入浴剤を抱えた。


あいりはしずくの背中を見ながら、そっとつぶやく。


「……これ、マジで大丈夫なの?」



挿絵(By みてみん)

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