表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しずくのいちご牛乳  作者: ぷらぷらぷらす
2/55

第2話 ほんの僅か

ゆうくんの部屋は、柔らかな光が差し込む静かな空間だった。窓の外では、風が穏やかに木々を揺らし、その音さえも心地よく感じる。

カウンターの上には、いつものように整然と並ぶグラス。


しずくは、そっと息を吐く。

この部屋の空気には、どこか落ち着くものがある。


けれど――


目の前に置かれたグラスを見ると、どうしても肩に力が入る。


「また飲むの?」


しずくは、少し警戒するように呟いた。

昨日のいちご牛乳の記憶が、まだ鮮明に残っている。


「今日は、ちょっとゆっくり味わってみてほしいんだ。」


ゆうくんは、しずくをまっすぐに見つめながら言う。彼の瞳には、ほんの少しの期待が込められていた。


「このいちご牛乳には、僕の思いがこもってるから。」


その言葉に、しずくの心が、ほんの少しだけ揺れた。


「思いがこもっている――」


昨日の強烈な苦味とえぐみ。

粘り気のある液体が舌に絡みつき、喉をゆっくりと滑り落ちていく感覚。


――正直、慣れる気がしない。


「……ゆうくん、これ、本当に慣れるの?」


しずくは正直な気持ちをぽつりと零す。

ゆうくんは、静かにグラスを差し出した。


「うん。しずくがちゃんと飲んでくれたら、きっと変わるよ。」


簡単には拒否できない。

しずくは、ゆっくりとグラスを手に取った。


昨日と同じ乳白色の液体が、ゆらゆらと揺れる。


わずかにピンクがかかったその液体は、光を受けて鈍く輝いていた。


グラスを傾けると、液体はとろりと動く。


――やっぱり、粘度がある。


ふわりと鼻をつく匂い。

発酵したような、ツンとした独特の香りが鼻腔を刺激する。


しずくは一度目を閉じた。


――大丈夫。少しずつなら、きっと飲めるはず。


そっと唇をグラスに寄せる。

ゆっくりと、一口。



---


瞬間、舌の上に広がるのは、昨日と変わらぬ強烈な苦味とえぐみ。


しかし――


ほんの僅かに、昨日とは違う感覚があった。


「あれ……?」


さらにもう一口。


――確かに、苦い。


喉の奥に絡みつくような苦味が広がり、すぐに顔をしかめる。でも、どこか違う気がする。


何が?


もう一口。


苦味とえぐみの向こう側を探るように。


――甘い?


そんなはずはない。

でも、確かに、一瞬だけ感じた。



もう一度、そっと口をつける。

今度は意識して、舌の上でゆっくり転がすように味わう。


苦い。やっぱり苦い。


でも――


その隙間に、ほんのりと、わずかに――

甘さが滲んでいた。



---


「……?」


しずくは、思わず目を閉じた。


その甘さは、まるで何かに包まれるような穏やかな感覚だった。

最初は気のせいかと思った。


でも、何度も味わううちに、それが確信に変わった。


ゆっくりと目を開けると、ゆうくんが静かにしずくを見つめている。


その瞳は、期待を込めながらも押し付けがましくなく、ただ見守るような温かさがあった。


――この甘さは。

何度も苦みを超えて探し続けたその味こそが

ゆうくんの思いの味なんだと、しずくは気づいた。


心臓が、少しだけ高鳴る。


しずくは最後の一口を飲み干し、静かにグラスを置いた。喉の奥にまだ残る苦みとえぐみが、しずくの表情をわずかに曇らせる。


しかし、それでも――

前回のような強い拒絶感はなかった。



「……飲み干したね。」


ゆうくんの声が、しずくの耳に優しく響いた。

彼の目は、しずくの反応を静かに待っている。


しずくはゆっくりと顔を上げた。


「うん、飲んだ。」


その言葉を口にすると、ふっと息を吐く。


まだ味には強い苦みが残っているけれど、

ほんの少しだけ、何かが変わった気がする。


あの微かな甘さが、心のどこかで温かく広がるような、そんな感じがしていた。


「……前よりは、少しだけ、飲みやすかった。」

しずくはその言葉を少し照れくさそうに口にした。


ゆうくんは嬉しそうに微笑み、頷いた。


「本当に?よかった。」


彼の笑顔を見ると、しずくはなんだか不思議な気持ちになった。


「ありがとう、しずく。」


その言葉に、しずくは思わず顔を上げた。


「え?」


「全部飲んでくれて、本当にありがとう。最初はきっと辛かったと思うけど、それでも飲んでくれて、すごく嬉しい。」


しずくは、照れくさそうに顔を赤らめた。


苦さやえぐみが残る口の中で、

それでも心の中にじんわりと温かさが広がっていくのを感じた。


――いちご牛乳の中に、確かに甘さがあった。


私にはこのいちご牛乳がただの飲み物ではない事に

気づいてきた。


「ゆうくん思いが込められてるのなら、私は...」

飲まなきゃと思うのだった。


挿絵(By みてみん)

いちご牛乳に耐えれるものだけがこの物語の真相にたどり着ける。


感想いただけるとありがたいです。

気に入ったら、「誰も私を語れない。」もよろしくね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ