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山神。醜悪。

視界に飛び込んできた風景に、既に僕の中で堪えようのない怒りがこみ上げているのを、何処か他人事のように感じていた。

吐き出す。怒号。怒号怒号怒号怒号怒号。

「何やってんだてめぇらぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!」

「待てっ、おい、萩野!」

思い切り踏み込んで、わき上がる衝動そのままに拳を固めた腕を、すんでの所で山神の手が掴んだ。均衡して、かけだす寸前の僕の身体が止まる。離せ、離せよ。思いきり睨みつけようと山神を向いて、しかし、そこで僕の頭は急速に冷えていった。

コイツのこんな表情を、僕は初めてみる。

歯を食いしばらんばかりの、僕と同じ、怒りの。

「落ち着いた、離せ、親友」

「おう。なら良いんだ」

ふっと息を吐いて、改めて、僕は視線を前に遣った。

山神家の人間なんだろう、とても殺し屋には見えない黒のスーツに身を包んだ男が二人。その男たちの真ん中に、大仰な椅子が一つ。そして、その椅子に。

ああ、ああ。あああああ。まっっったくだ。まっっっっったくもって、馬鹿らしい。馬鹿げている。何なんだよ、おい。ふざけるんじゃねぇぞ。

一度収まっていた怒りが、再び脳天を突いてくる。怒髪天を突く。髪は逆上がらないけれど、この怒りは、この感情は、とっくに天を突きぬけている。

「蒼ちゃん、死んで無いよな?」

問いかけに、男達は答えなかった。勿論、蒼ちゃんも答えない。椅子に座り込んだまま動かない、ボロボロの、蒼ちゃんは。当然のように、動かない。動かないまま、動かない。

「例外だ、竜太」

「……だよな、顕正」

結論は、出すまでも無く決まっていた。別解なんて存在しない。こんなの。こんなふざけた現実なんぞ。


「「かっ裂いてやる」」


「君は秩序を受け入れた事があるかね? あるまいよ。一度でもその存在に触れた人間であれば、ここまでこうも、完璧に無視しきれるものじゃないからね、秩序ってやつは。生まれ落ちた瞬間からそれを本能に叩きこまれ、自らの意志を持って犯す。つまり、殺す。人間の作った秩序をぶち壊す。殺す。それが山神の掟だ。そこにいる我が息子は、本能に秩序を持つ事を拒否し、逆にその本能を使って、最初の殺しを犯したんだ。わかるか? 竜太は生まれたその瞬間から、山神でありながら山神では無いのだよ」

蒼ちゃん以上に動かなくなったスーツの男を壁際に蹴り飛ばすと同時に、そんな声が聞こえてきた。聞き覚えのあるらしい声音に、山神の顔が憎悪に染まる。やっと出てきたようだった。

大ボスにして、黒幕。山神家の現党首にして、つまり、山神 竜太の、父。山神 龍臣(たつおみ)

中々分かってるタイミングでの登場じゃないか。雑魚は片付いた。御姫様の安否は知れない。全く、悪役にも堂が入っている。

「久しいじゃねぇか、なあ、クソ親父」

迎える山神の声は、今までに無いほどに殺気だっていた。この空気は、まずい。山神の、竜太の実力は僕も知る処であるし、彼のその力は、本来ならば僕がいくらどんな手を尽くしたところでまるで相手にならない程に、殺しという分野では長けているものだ。しかし。僕と竜太がその事実を知っているとともに、彼の父龍臣さんも、同時にそれを理解しているのである。それも、きっと、あらゆるデータで持って、僕ら以上に。客観は突き詰めれば、主観など遥か遠く凌駕する。

そして、正攻法で竜太に敵う人類は、きっといない。それも、彼は分かっているだろう。彼も、龍臣さんも。

重ねて、思う。まずい。

「止まれ、山神!」

「――――っ!?」

瞬間、僕の動体視力の限界ギリギリの速度で、竜太が駆けた。それを制止する僕の声は僅かに遅く。

「愚かだな。それでも貴様は山神のつもりか? 竜太」

次に僕が視界にとらえたのは、彼の動きを読み切った龍臣さんが発動した装置によって壁に叩きつけられる竜太の姿だった。何が動いた? 咄嗟に周囲を見渡してしまうほどに、その一瞬はあまりに一瞬だった。何が起こって、何が竜太を吹っ飛ばしたのか、僕には一切把握できていない。まずい。どこまでも重ねて、まずい。今の、たったの一撃で、竜太は直ぐに起き上がれない程のダメージを負ったようだった。ようやくほうほうの体で身体を起こし、壁に寄り掛かって引きずるように立ち上がる。僕を窺う竜太の眼には、紛れようも無い焦燥が浮かんでいた。

どうする? どうすれば、この状況を打開できる? そもそも今のは何なんだ?

「飛べ、山神!」

「くっそ!」

僕の掛け声に最早反射だけで反応し、竜太が力の限り地面を蹴る。途端には今しがた居た箇所の壁が吹き飛んでいて、これに彼が巻き込まれていたことを考えると、ぞっとしない。ダメだ、思考が追いつかない。龍臣さんは何をしかけて、何で壁を吹き飛ばしたのか。何で竜太を吹っ飛ばしたのか。

――――駄目だ。

「山神!」

「……ちっ」

叫んで眼を合わせると、なんとか意思の疎通に成功したらしく、お互い一挙動に、元来た道に走り込む。この場で戦うのは、どう考えても不利だった。相手の土俵、しかも、ここは多分、竜太の無力化を前提に作られている。

「どうすんだよ、親友!」

「分かるか! 取りあえず話を聞かせろ、まだあそこには蒼ちゃんがいるんだ、このまま帰れねぇんだよ!」

「わぁってる! ……取りあえず、作戦会議だな」

未練がましく振り返った先に龍臣さんの静かな笑みが見えて、僕は下唇を噛み締めて足を動かした。少し、血の味が混じった。

このままじゃ終われない。終わるわけにはいかない。彼女に、これ以上、何だってさせてやるもんか。

「……山神」

「ああ?」

「悪い、少し時間をくれ」

「……好きにしな」

了解を得て、ふっと天井を仰ぐ。深呼吸を繰り返し、頭に正常に血が巡るのを感じた。


よし。

「もっかい、行くぞ、山神」

「いけるんだろうなぁ」

「ったり前だ」


なまってたのは僕だった。竜太を無力化されて、なら僕は何をするべきか。ぼうっと、いつまでも見てる場合じゃないだろう。

もう一度、崩壊の日へ。今度は、彼女達の為に。

蒼ちゃんの、為に。

更新です。多分あと一つ二つでこの騒動は収束するものと思われます。山神家怖い。


と、総ユニークユーザー数10000人超を記念しまして、活動報告の方でも宣伝させていただいたのですが、今作のキャラクター人気アンケートみたいなものを作成してみました。嬉しさ余って調子のってる感じです、はい。

結果を多分、100話辺りに影響させてみようかなぁなんて考えているので、よろしければ投票頂ければと思います。下記のURLを、お手数ですがコピーしてください。

http://enq-maker.com/2-6bNXU


それでは、いよいよ三桁話の大台に乗ろうとしています。いつ終わるのか、日を重ねるごとに曖昧になってる気もしますが(笑)


よろしければ感想、評価等頂ければ幸いです。

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