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留。誘発。

準備は速やかに行われた。敵の場所は、流石に山神が掴んでいる。いくら避けておきたいと言え、血縁ある人物に対して実家を教えないわけには、彼らにしたっていかないだろう。そうでなくても、調べはついているし。

山神 竜太。彼は、何を思って本家に敵対するのだろう。やり方が気に食わない、殺しに嫌気がさしている、それは分かる。でも、それだけで。『たったそれだけ』で彼は、他でも無い家族を潰せるのだろうか。

僕の崩壊に殺しは無い。僕がこの手で直接相手を死に追いやることは、まず間違いなく無い。そうなると、今回、山神は自分の家族を、生きてはいるものの何もかもを失った、抜け殻のような余生を生きざるを得ない状況までに、追い込むことになるのだ。殺し屋にとってはきっと、殺すほうが数百倍楽な事だろう。血に対する遺恨を考えても、きっと。

「なぁ、山神」

「……言うなよ親友」

口を開いたそばから機先を制され、僕は黙りこむ。どちらにしろ、かける言葉なんて用意していなかったが。

「萩野」

「ん?」

今度は山神から呼びかけられて、彼の方に目線をやった。何を考えているのか読めない表情を浮かべ、凄惨に、笑う。

「天才を、見せてやろうぜ」

ぶっ『ツブ』す。と、山神は言った。


「てめぇあの威勢は何処行きやがったぁぁぁぁぁっ!!」

「るっせぇもっと速く走れってんだ萩野ぉっ!」

どどどどどどど。背中を追いたてるような爆音とともに、僕らは、実際、追い立てられていた。何だそれ。なんだよこれ。

「君んちはカラクリ屋敷かっ!?」

「知っらねぇよっ。何年ぶりの実家だと思ってんだ!」

石。大石。まん丸に鑢がけされた巨大な岩石が、まさしく僕らの背中を、ものすごい急角度で転がっていた。速い。人間の逃げ切れるスピードじゃない。未だ追いつかれていないのは、きっと偏に、火事場の馬鹿力のなせる技だろう。それも、いつまでもつか。

「おい親友、なんか発明持ってきてねぇのか、なんたらビーム砲とか、けったいな奴!」

「ねぇよっ! あの辺いじったらここを乗り越えても後々明音さんに殺される!」

彼女は私物を、取り分け他人から得た(強奪した)ものに無断で触れられるのを酷く嫌うのです。

「ちっ」

舌打ちして、八十度くらい有りそうな坂道を、全力疾走の速度のままに、山神は振り返った。この辺り、本当に人外能力者である。僕なんてほとんど落ちてる感じなのに。八十度の坂って何だよ。

「失せろ」

音は無かった。ただ、山神の呟きが聞こえただけ。次の瞬間には、後ろからがなり立てていた巨大な音が、完全に止んでいた。振り返れないから、状況を視認は出来ないけど。「おい、止まれ」隣に並びなおしてきた山神の指示に従って、必死に足に力を込めて歩幅を緩める。靴が摩擦ですり減る感触が、嫌に明確に伝わってきた。

「ったく、今日は予備そんなに持ってきてねぇぞ……?」

ぼやきながら坂の上を見上げるその視線の先には、壁に刺さったナイフに動きを止められた岩が映っていた。なるほど、咄嗟にしてはこの上なく素晴らしい判断力である。全力で走りながら、それも坂を振り返って、壁に垂直にナイフを刺す能力については、単純に感服と言うしかないし。つくづくチートくさい奴だ。

「助かったよ、山神」

「当然だ。俺が味方にいてデッドエンドはありえねぇよ」

「懐かしいセリフだなぁ。ん、じゃあ、進もうか」

「おう、ちょっと待て」

「うん?」

折角意気込む僕の機先を削ぐ形で山神が制止をかける。なんだよ空気読めよとジト目を送る僕を無視するように、山神は言った。

「この先は焼却炉だし、退路には大岩だぜ?」

その通りだった。脱出経路が、この通路にはそもそも存在しない。このまま坂を下れば待っているのは火炎地獄だし、上って戻る選択肢は、そもそも存在しない。かと言って、そこは流石山神家。壁際に脱出経路があるなんて都合のいいことも、無いようだった。これって家の人間がミスって罠を発動したら死ぬよね。

「そんなへまする奴は本家にいらねぇんだってのが方針だよ」

「なるほど、君はヘボなわけだ」

「歯ぁ抜ける覚悟できてるか?」

「まぁでも」

懐からペンチを取り出す短気でヘボな山神を今度は僕が無視して、話を続ける。山神がいればデッドエンドは無く、その代り、僕がいれば。

「詰みは無いからね」

「ああ? なんかあんのかよ」

「任せな」

腰に巻き付けていたポーチから、僕はわっか状の装置を取り出した。ブレスレットサイズのそれを、壁に貼り付ける。

「何だこれ?」

「あ、覗き込んだら危な――――」

「うおおおおおおっ!?」

僕が忠告し終える僅か前に、人間離れした速度でしゃがみこんだ山神の頭上から広がるように、超高熱の光が発生した。いつか実験した天気予報装置の応用版で、太陽光線を、擬似的に発生させるものである。太陽は熱いのです。

みるみる内に、わっかを張った反対側の壁が無くなっていく。しばらくすると、開いていった穴の向こうから人工の光が漏れてきたので、僕は装置を留めて、山神を促した。

「さ、行こうぜ親友」

「その前に謝罪を要求するぜ馬鹿野郎」

「いいや、溶けて死んだら僕が処理することになるんだから、軽率な行動をした君がむしろ責められるべきだ」

「てめぇやろうってのか?」

「やだね。行こう」

適当に誤魔化して、聞えよがしに舌打ちした山神も、結局は僕の跡を着いてくる。この辺り、さばさばしてる上にやりやすい。男友達の少ない僕にとって、コイツの存在は実は結構ありがたみがあるのだ。まぁでも、如何せん、馬鹿だからなぁ。

「さて。敵さんだぜ」

「少なくとも君にとっては全員、親族なんだろうけどね」

「血縁なんざぁ、不要になっちまったら他人よりも敵だよ」

「真理だな」

会話を交わした直後には、山神の姿は僕の隣からかき消えていた。本家の廊下に戻ったそばから、中々手厚い歓迎ムードである。素人の僕は、精々死なないようにふるまうとでもするかな。

「しゃがめ、親友」

「っ!?」

ぞっとする程冷たい声が聞こえて、刹那の間も空けず、僕の直前までいた空間を、山神の投擲した無骨なデザインのナイフが飛んでいった。咄嗟に態勢を整えて振り向くと、足元に散らばるのは赤の、血。

腕に刺さっているようだった。良かった、これなら死にはすまい。

「気をつけろよ山神。誰も殺すんじゃねぇぞ」

「わぁってるよ。……っと、済んだぜ。しかしよ、親友。あの娘、俺らが着いた頃にはどうなってるか知れねぇぜ? 拷問受けてる最中だったりして、手前我慢できんのかよ」

「ルールには特例があるもんなんだよ」

「融通は利くってか。いや、我慢が利かねぇってだけだな」

「うるさい。……最悪なのは、人質にとられた場合だよ」

「やるぜぇ、あいつらは。常套手段だ」

「……だろうね」

ふっと息を吐いて、先を急ぐ。山神が作り上げた気絶した人間の敷き詰められる床を抜けて、屋敷の奥へ奥へ。

確かな問題として、僕らが着いた時の蒼ちゃんの状況というのが、一番だった。山神の言うとおり拷問されているかもしれないし、もしかしたら、洗脳されて留学の意思を持たされているかもしれない。彼女自身、留学の話はだませーる君によって忘れさせられているはずだが、どんな手を使っても、と、山神は言う。

「しつこいようだがな、やるんだよ、奴らは」

最後まで苦々しげに、彼は言った。僕には、山神の気など、到底知れたもんじゃないけど。

「さぁ、この先だぜ、最奥は」

豪奢な、巨大な門。家の中にまで門を建てるのかと戦慄するが、そんな場合でも無いだろう。思うのは、ただ一つ。

無事でいてくれよ、蒼ちゃん。


およそ人外の力を込めて、山神が鉄の門扉を蹴り開ける。こちら側より明るい光に一瞬眼が眩んで、視界を取り戻した僕の網膜に、その光景は映り込んできた。

山神の準レギュラー化が騒がれております。作者の脳内会議で。如何なものでしょうかね……。動かしやすいというのが、裏事情であり全てなのですが(笑)


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