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明音。緑。蒼。

日々、彼が出来そこないのピエロのように過ごすのを眺めていた。正直なところ、『あの』宣言を受けた時、膝が崩れ落ちそうになる感覚に襲われた。でも、きっと彼が誰より先に私を切り捨てたのは私の『強さ』に縋っての事だと理解し、だからこそ、耐えた。

本当なら、泣きたいのに。貴方の思うほど、私だって強くないのに。忘れたの? 私だって、貴方に恋する一人の女なのよ。

言ってやりたいことは全て言ってはならない事で、それを言ってしまえば、弱い彼は縋ることすら諦めて私を切り捨てる。嫌、それだけは、耐えられない。縋ってくれていると言うのならば、私はそれに甘えよう。一緒に居たいから。せめて最期の時まで。終わりが近い事だって、私は知っている。


一つだけ、気付いていた。顕正の言葉。

『アイツのほうが、大事だったんだ』

惚れた腫れたの話であれば、あそこは『好きなんだ』で表現すべきだったはず。実際、彼は私を『好き』と言った。二瓶さんほど大事でなくとも、好きだと言った。好意。手放したくないと言う、傲慢な好意。顕正は弱い。私だって、弱い。二瓶さんは気付いた上で、その選択をした彼を受け入れるだろう。でもそれは解決にはならない。赤坂姉妹は、きっと私ほど強くないから。

強さを持った、これは私の義務だ。

いつかのデートで彼から貰ったマグカップを眺める。本棚の、写真立ての隣に飾ってあるそれは、クラスメイトの誰に見せても毒々しいものを見るような目をすることだろう。知るか。趣味だし、それは、私の宝物だ。莫迦にするやつは許さないし、いらない。

どうしてアイツに惚れたんだろう。考えてみる。少しだけ考えて、すぐに諦めた。分かるわけないじゃない、あいつは、顕正は、そういう奴なんだから。

確認するように呟く。

好き。

顕正の事が、好き。

まだ、好きだ。ならば、動ける。彼の為に、今はこの苦しみに、痛みに、耐えて。


さぁ、一発くらい殴らせてもらおうかしら、ね?


約束はさせた。迷うことなんて、もう無い。


不思議と涙は出なかった。唐突に研究部を出て行った時、その理由を聞かずとも察した時、顕正くんの顔を見たら、不思議と泣く事が出来なかった。

「舐めてんのかちくしょー!」

叫ぶ。あたしは莫迦だけど、でも、それでも分かった。好きな人のことだもん、それは、解りたいもん。

今の顕正くんが惰性で、わざとらしく研究部を演じているのは分かってる。誰がどうなって、何のために彼がそれを演じているのかもわかってる。二瓶先輩の病気をなくすため。それと、私たちを、出来る限り傷つけずに、切り離すため。

顕正くんはあたしたちの事を、多分本当に好いてくれている。あたしだって好きだし、それに、蒼も、先輩たちもそうだろう。そして顕正くんは、だからこそ、二瓶先輩の事実から逃げるために作った研究部に後ろめたさを感じているんだと思う。自分のエゴで、あたしたちを集めて。それで、お互いに信頼しあってしまって。あたしたちと深く関わり過ぎたことを後悔して、後悔している事に、後悔してる。顕正くんは、きっとすごく繊細で弱い人なんだ。

だったら、がさつで図太いあたしが支えてあげなきゃね。自分で言うのもなんだけど。あたしは普段から感情を隠さないから、きっと、その分他の皆より楽をしてきたから。こんなときくらいは。全力で、皆の為に。顕正くんの為に。あたしの、恋の為に。

ゴメンね、顕正くん、二瓶先輩。

崩壊なんて、させてやるもんか。


渦巻いていた怒りはとうに落ち着いていた。私が留学の意を告げた時、先輩は確かに私の為に続けてくれると言ったのに。なんで自分から、そうやって、繋がりの糸を弱くするんだろう。二瓶先輩の体調が良くないのは勿論知っていた。けれど、だからと言って、研究部の成立自体が間違いだったからと言って、今まで過ごしてきた一年を、先輩方にとっては二年を、全くの無駄だったなんて言うのは許さない。先輩に出会えて私は本当に良かったと思うし、それは、他の皆も同じだろう。二瓶先輩だって、そんな形で選ばれたって嬉しくないはずだ。でも、二瓶先輩のこと、先輩が弱さで逃げたことを知っても、受け入れてしまうだろう。

そんなことはさせない。切り捨てられたくないし、切り捨てられてなんてやるもんか。どうせ私はあとひと月くらいの関係だけど、でも、だったら。最後くらい、綺麗に終わりたいじゃない。

悩むのなんてやめだ。彼が言ったんだから、背負い込むなって。だったら私は背負わない。先輩にも、背負わせない。つらくても、無理やり全員巻き込んで、引きずっていってやる。

少女達の逆襲(?)。顕正が勝手に決めた道があるように、彼女たちにも譲れない道があるようです。さて、どうなることやら。どうなるんでしょうね、本当に……(汗


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