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恨みつらみ。伸び、縮み。

恨まれても仕方がないと思っていた。思っていただけで、実際に恨まれるのは、嫌だった。だから僕は卑怯にも矮小極まりない事に誤魔化しの言を連ねるし、それで、体良く誤魔化しきれてしまったりもする。昨夜、緑と蒼ちゃんと、それから明音さんにもそれぞれメールを送った。緑と蒼ちゃんには、謝罪の意を込めた文を。「少し気が動転していたんだ」なんて、それらしい言葉を並べ、明音さんに対しては、これ以上なく巫女戯た事に「体調でも悪いのか」「皆部室で待ってる」だなんて事を伝えて、それで、のうのうと眠りについたりしていた。僕はうそつきで、その上、逃亡者でもあるようだった。明音さんは、あの文面を見てまたあの綺麗な顔を歪めただろうか。僕を想い、僕の為を思って身を削り、泣いただろうか。それとも、呆れたか。コイツはもう駄目だと、一緒に過ごす価値の無い人間だと断じて、嘲笑ったか。答は、放課後になれば明確に分かる事だった。

どうにも、前者らしかった。うそつきの心臓が、少し縮んだ気がした。僕は、ただ耐える。彼女も、耐える。気付かないふりをしているだけであろう二人も、きっと、耐える。居心地の良い、此処を守るために。美稲は、大事を取って今日は学校を欠席していた。



秋も終わりが近づいているのか、鮮やかに色付いていた木々の葉は見る影も無いほどに落ち、素っ裸になった細々しい木は、見る者に肌寒さと寂しさを同居させる。中庭に鎮座する樹齢百年弱の大木でさえも、葉を失くして冷えはじめた風に震えているようだった。世界が、弱っていく季節が迫っている。この季節を抜けきるには、往々にして、皆、耐え忍ばなくてはならない。分かってはいるが、ただ、出来るか。

「あ、顕正くん」

詮無き事ばかり考えて思考に耽っていた僕を引きもどしたのは、緑だった。はっとしてそちらを見ると、どうやら来ているのはまだ彼女一人らしい。後の二人は来るだろうか。

「や、緑。早いね、一人?」

「うん。蒼ちゃんは今日掃除当番なんだって」

「そっか。サボればいいのに」

「おいおいそこの不良くん」

「何を隠そうこの僕も、絶賛サボり中だからね」

「突っ込みどころも無いくらい普通に最低ですね」

「あるよ、誰が『最』低だ。最もって漢字をそうそう多用するんじゃない」

「なんか屁理屈くさいですね。鷹がジレンマすよ」

「ごめん、せめて日本語で話して欲しいな。鷹がジレンマ感じるのかよ」

「ああ、違った、タマが焦れますよ」

「焦らすのはこっちだな。ねこじゃらしなんて良いと思う」

「むぅ、じゃあタガが外れますよ」

どんどん離れていってるんだけど。ちなみに当初はたかが知れると言おうとした。はずだ。緑の言葉は原型をなくすと止め処なく迷走するからな。

「瞑想? 私はヨガなんてやってませんよ」

「嫌違うから」

「じゃあ、並走?」

「目指せ完走フルマラソンってか」

「んー、山荘?」

「犯人はこの中に居るのでしょうか」

「間違いなく顕正くんだね」

「失礼な。ならば犠牲者は君だな」

「顕正くんに殺されるなら本望です」

「愛が重い!」

おちおち雪山山荘事件も起こせなさそうだった。恨まれずして憑かれそうだ。表題は『愛に憑かれた少年』で決定だね。何の話だ。

「もう、顕正くんが莫迦ばっかり言うから何の話してたか忘れちゃったじゃん」

「絶対君の所為だ」

「責任転嫁ー」

「わー、緑が四字熟語を正しく使えたよー。すごいすごーい」

「えへへー。……そりゃっ」

「ぐはっ」

殴られた。なんで。

「莫迦にし過ぎだよ」

「悪かったよ……」

緑の頭が。とか考えていたら睨まれた。くそ、超能力者だらけだな、この部活。特に読心術者の割合が多い。

「別に超能力なんて使ってないよ、あたし」

「じゃあなんだよ」

「顕正くんの事なら何でもわかるのです」

「……言ってろ」

早鐘を打ち出す心臓を抑えつつ、僕は吐き捨てる。緑の透き通る目が、全て見透かしているような気がして、落ち着きを失ってしまう。茶化しているだけのつもりだったのだろうが、腹に一物どころかいくつ持ってるか分からない僕には痛いセリフだった。無邪気に笑う、緑の表情が痛い。優し過ぎて、痛い。眩し過ぎて、痛い。

「どうしたの? 胸なんか押さえて」

「え、ああ。あれだよ、緑の笑顔が可愛すぎて苦しいんだよ」

「きもっ!」

「そこは君らしく素直に喜べよ……」

げんなりとして苦笑する。誤魔化せてるだろうか、気が気で無かった。緑は、変なところで鋭い。

「冬になるね」

ぽつりと、緑が言った。寂しげな雰囲気が、顔を見ずとも伝わってきた。寒くもなるね、と、明る気に言って見せるが、から周りにしか見えなかっただろう。ぎこちなく、緑は笑って、頷く。

「寂しくなるよね」

一瞬、確かに息が詰まるのを感じた。が、すぐに蒼ちゃんの留学の事だろうと思いなおす。姉妹なのだ、知っているだろう。そうだね、と応える僕の耳に、緑の呟きが届いた。

「嫌だなぁ」

僕も、嫌だよ。

言葉の可能性は無限大ですが、流石に無理をし過ぎな気がしないでもないです(笑)


それでは、感想評価等頂ければ幸いです。

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