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逃げ口上。奇、日常。

世界を崩壊させれば美稲が助かるなんて保障は、どこにだって無かった。でも、僕の崩壊ならば、それが可能であることを知っている。知は全てで、知だけは、誰にも嘘をつかない。

事実は事実である。そんなことは、自我を持った時点で誰もかれもが知る決定事項である。


学校の地下に精製した巨大な装置。地球の核に影響を及ぼす波動を流し込み、この世の摂理自体を捻じ曲げる。世界の全てから諍いが消え、病が消え、喜怒哀楽より怒哀が失せ、基盤となる摂理は寿命における生と死だけ。平和なんて言葉も消えてしまうくらい平坦な世界こそが、崩壊の先に見える世界であった。僕は利己的な目的で、それを行うはずだった。義務だと脳に信じ込ませることで、それが正しい事だと思い込んでいた。世界崩壊こそが悲願で、それさえ出来れば、僕の存在意義など他に必要は無いと。

その通りなのだ。

美稲という女の子を救い、そのついでとでも言うべき気軽さで全ての世界を救う。それこそが僕の崩壊で、慢心的な言い方をすれば、救済。

ルールを描き変える崩壊によって、僕はこの世界を救おうとしている。英雄なんて、おこがましい呼び名を受け付けないため、僕の行うそれは、崩壊と言う形をとっているのだ。

そしてそれは、もう直に達成される。

学校の地下に、巨大な装置がある。僕が去年一年間かけて作り上げたもので、電源の確保は、僕の腕時計に仕込まれたスイッチによってこの街全土の電力をかっぱらうことによって補う。装置の冷却機関だけが問題だったのだけれど、それはこないだ解決した。待つのは、ただ冬だけだった。

気付いて良かったなと思う。目的を達したところで、その目的自体を忘れていたらなんの意味も無いから。最後にみるのは、美稲の顔にしようか、なんて。そんな事を考えてみる。

誰にも邪魔はさせない。彼女らを極力傷つけないために、研究部は切り捨てる。深い関わりを捨てて、ただそこにあるだけの、慣れ合いだけの居場所に。最初に切り捨てた明音さんは、きっと気付いているだろう。気付いて、気付いたからこそ、僕に協力してくれるだろう。だから僕は今日も、部室に向かう。赤坂姉妹は、来るのかな。彼女らに告げるのは、崩壊の一週間前が妥当だろう。まだ、早い。時期を見極めるのも崩壊の一手。それくらい分かっていた。



実験室には、明音さんは居なかった。昨日の今日だからかなという思考と、単に来てないだけという思考と、両方が生まれ出る。どちらでもいい。明音さんのことだ、絶対に戻ってくるだろう。僕は弱すぎるけど、彼女は強過ぎるから。あの程度でいなくなるような人じゃない。

けしてその代りってわけではまず無く、実験室には赤坂姉妹がいた。二人がそろっているのを、なんだか久しぶりにみる気がする。

「やぁ、二人とも」

「あ、こんにちは、顕正くん」

「こんにちは、先輩」

軽く挨拶を交わし、僕は定位置の席に着いた。ふぅと息をつき、手持無沙汰に工具をいじった。最終目標である崩壊の目処が立った以上、これ以上なんの研究も、僕には必要無いのだ。それ以外にやる事が無いっていうのは、如何ともしがたい事実なんだけども。

「先輩、最近発明してませんよね」

と、あちらも暇だったのか蒼ちゃんが声をかけてきた。「そうだねぇ」と曖昧に言葉を濁す。どう説明したものか、良くわからなかった。目標を成したからって、他にも研究材料はありそうなものだけど。

「あれだよ、蒼。倦怠期!」

「絶対意味違うからね緑」

誰が夫婦だ。そりゃあ確かに、中学生の頃は発明が友達! とか何とか言ってた事もあるけど。それですら友達どまりである。そういう問題では、きっと無い。

「えー。じゃあ、変態期?」

「響きだけでモノを言うんじゃない!」

何だよ変態期。確かに「お前変態だろ」と聞かれたときに自信を持って否定するだけの気概は持ち合わせてないけどさ。

「ジュラ紀?」

「白亜紀でも無いからね」

突っ込みはせずに機先を制す。駄目だこの子、アタマワルイ。

「失敬な。憤慨孤独だね」

「え、何その斬新な四字熟語」

「一人怒ってるって意味じゃないの?」

「寡聞にして聞いたこと無いよ。それを言うなら天涯孤独だ」

「ああ、変態孤独」

「君はどうしても僕を陥れたいのか!?」

「変態はいつも孤独って意味なんだけどね」

「誰が説明しろと言った!」

何なんだろう。前は結構デレ期だったのに、一周してまたただの先輩に戻ったのか?

や、ただの先輩に対する態度としては、これは間違いなく最低だけど。

「ふ、甘いね、顕正くん」

首を傾げる僕に、緑はほくそ笑みつつ告げる。


「だから、倦怠期なんだよ」


「っ!! ……なわけあるか」

「ちぇー」

うまい事言ったつもりだったんだろうか。全く、甘いにも程があるね。

「違うよ、誤魔化そうと思ってたの、舐めた発言しまくったから」

「自覚ありかよ!」

「そりゃあ目は見えてますよ」

「視覚じゃねぇ」

「廊下に立ってなさい!」

「え? ああ、遅刻か。分かりにくいな。それも違うっ」

「只今午後、三時、四十分です」

「時刻な」

「アイツ実は、バイ何だぜ」

「密告? 後、僕を指差すな」

僕はバイじゃねぇよ。

「まぁ、レッドカードってとこだよね」

「話の流れを無視し過ぎだろ毎度。……失格か」

「うん。突っ込み役失格!」

「上手く繋げられた!?」

僕の完敗だった。いや、意味わからないけど。

ふと見ると、蒼ちゃんは呆れた風にこちらを眺めていて。緑は、やはり楽しそうで。僕も、やっぱり、楽しくて。手放しのがこんなにも惜しい。

だから、せめて。精一杯まで。

奇妙な日常の帰結。まだ結構、続きます。


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