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ゆるりと。色々、多彩。

赤と黄色と青とがあって。赤と黄色で橙で、黄色と青で緑で、青と赤で紫で。濃淡を変えればさらに色は多彩になって、僕らの世界を色付けていく。鮮やかに、艶やかに、目の前の景色を彩っていく。

美しい景観で、それは鉄筋コンクリートに囲まれた町であっても、変わりは無い。色は多彩に無限であるのだ。

素敵滅法で、たくさんな世界。



「お兄ちゃん、あれ綺麗だよ」

にこやかに告げる紫ちゃんの指差す先に目を遣ると、そっちの方向には大量のビー玉が敷き詰められた一角のある店があった。曇り空故に太陽の光を浴びての輝きこそ持ってはいないものの、人目では数えようもつかないような量を整理して敷かれたビー玉の絨毯は、たしかにそれだけで圧巻な様を見せつけている。あれは確かに目を惹くなぁ。

「そうだね」

答えて、紫ちゃんの表情を見る。普段触れることのない幼くて邪気の無い笑顔は、日頃植え付けられた恐怖だとか(無論のこと主に明音さんの手による)の負の感情の一切を洗い流してくれるようにも見えた。美しいな、と思う。なまじモデル業に就いている美人さんより、こう言う笑みの方が綺麗に映るものなのだ、多分。

「あ」

「どうしたの?」

紫ちゃんが声をあげて、僕は彼女の見つめる方向に顔を向けた。たくさんの人が、フリーマーケットに出された品を物色している。「あ」今度は僕が声を上げる番だった。紫ちゃんが見ているものがなんなのかは分からないけど、僕の目線の先に居るのは、間違いない、蒼ちゃんだ。彼女も来ていたのか。

「おーい、蒼ちゃん」

折角なので声をかけてみようと口をひらくが、蒼ちゃんは呼ばれた事には気付いたようだがどの方向から誰に呼ばれたのか判断がつかないらしく、辺りを見回している。と、しばらく目線が泳いで、蒼ちゃんの顔がこちら側に固定された。気付いたかなと思っていると、少し険しい表情で小走りに駆け寄ってくる。あれ、なんか不機嫌?

「紫っ」

「おねーちゃん」

「えっ」

蒼ちゃんが厳しい声を出して、それに答えて紫ちゃんが彼女を姉と呼び、僕は状況を一瞬判断しかねて間抜けな声をあげた。即座に思考に移る。結論を導き出すまでも無く、答えは目の前だった。

「て、あれ? 先輩、なんでいるんですか? それも紫と一緒に」

「奇遇だね蒼ちゃん。なるほどなるほど、赤坂家の末っ子だったわけだね、紫ちゃんは。迷子みたいだったから一緒に探していたんだよ、ね?」

「うん。ねぇねぇ、お兄ちゃんとお姉ちゃん、友達なの?」

今度は僕の代わりに紫ちゃんが首を傾げる。探していた姉とそれに付き合っていた男が知り合いと聞けば、そりゃ驚くだろう。しかし、世界。広い広いと思っていると狭さを見せつけてくるなぁ。自然に次ぐ超自然もあった事だし、地球というのはもしかしたら大分捻くれた性格をしているのかもしれない。

紫ちゃんの問いに頷いて、僕は握っていた彼女の手を放した。背中を押して、蒼ちゃんの方へ。

「ありがとうございます、先輩。急にいなくなって、三人で探してたんですよ」

「ということは、緑も紅花ちゃんもいるわけだ」

「はい。電話するのでちょっとすいません」

「うん」

僕に断ってから蒼ちゃんが携帯電話を取り出し、電話帳を呼び出して耳に当てた。すぐに繋がったのか姉妹どちらかとの会話がはじまって、僕は手持ちぶたさに周囲を見回す。

フリーマーケットにはたくさんの人間が訪れていて、しかし、この僕の視界には収まりきらない程の人間の波も、少し上の目線から見れば、まだまだ、大したことの無い量なのだ。やっぱり広いのだ、世界は。この通り、狭いこともあるようだけど。

「お兄ちゃん、あっち、ほら、風船だよ」

と、紫ちゃんが僕の服の裾を引いて電話する蒼ちゃんの向こうを指していた。僕はそれに、これ以上ないくらいにこやかに答える。

「うん、貰いに行かないからね」

「えー」

だって捨てるじゃん君。

「捨てないよ、お空に帰してあげるんだよ。飛びたがってるでしょ?」

「あー……」

なるほど、その価値観は、僕くらいの年齢の人間には理解できない、幼さゆえの、また美しさがあるような気がした。ここでガスが抜けた後の風船が如何にしてゴミと果てるかを説明するのは無粋というものだろう。幼いうちは、幼いように。

「おっけー、行こう、紫ちゃん」

「うんっ」

さっきとは違って一個十円で売り出していた風船を、紫ちゃんがポケットから取り出した硬貨で一思いに十個買う。これからは、財布を持ち歩く習慣をつけようか。

「ばいばい、風船さんたち」

呟いて、紫ちゃんは売り子の御兄さんから受け取ったそばから、全ての風船を解き放った。唖然とするお兄さんには同情の余地しか見当らないが、悪いけど無視しして紫ちゃんの手を引く。店の前から去って、僕たちは笑いあった。

「すごいね、お兄ちゃん」

「すごいね、紫ちゃん」

頷き合って、紫ちゃんは、握った僕の手に力を込めてきた。やんわりと、痛くないように返す。元の場所に戻るとやはり唖然とした蒼ちゃんに迎えられるが、それでも僕たちは笑みを絶やさなかった。

こんなのも、結構じゃないか。

「先輩……」

後輩からの痛い視線も、この時ばかりは、気にならなかった。正確に言うなれば気にしたくなかっただけど、それくらいには、低い視点も悪くないから。

「はぁ。じゃあ、二人と合流するんで、行きましょう、先輩。ほら、紫も」

「うんっ」

「はいはい」

蒼ちゃんに付き従う形で、手は放さないで二人、並んで歩く。何の気なしに出かけた所で、ちっちゃくて素敵な友達に会えたみたいだ。


こんなのも、悪くない。


合流場所に向かう道中、目移りしまくる紫ちゃんに付き合っているうちにまた蒼ちゃんとはぐれて迷子に舞い戻ったのは、だから、ここでは余談としておこうと思う。悪くないけど、前は気にした方が良いかもしれない。

というわけで赤坂家の四女さんでした。紅花ちゃんをお忘れの方は緑誘拐の話を読み返してください、はい。照れ屋ちゃんな彼女です。


それでは、感想評価等戴ければ幸いです。

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