海には潮風。嫉み妬まし。
夏で、夏休み+何をしようか研究部。=……海?
そんな数式がこの世に存在するのか否かは別として。
連日の茹だるような熱気(主にグラウンドの運動部から)や、室内に閉じこもる不健康感というか、閉塞的なストレスと言うか、そういう要因が重なった結果の、方程式だった。xの正体や如何に。
思いついたものは提案しなければ意味がないので、研究を中断し、思い思いに過ごす面々に声をかける。目につくところにいない美稲はとりあえずスルーだ。
「研究部の夏合宿、海に行こう」
「いいんじゃないの」
二つ返事で了承したのは三笠さんである。そもそも彼女が僕の意見に反対したことは無い。どうでもいいようだ。それに、最近の暑さには彼女自身辟易していたようなので丁度いい提案なのだろう。
「海行きたいですっ!」
元気なのはいつでも赤坂姉だけである。ちなみに、これまた予想外、赤坂姉妹の姉が緑で蒼は妹である。人はみかけには寄らず、双子も印象が全てとは限らない模様。勉強になった。なんてこともない。
「私は嫌」
無表情な眉を少しだけ下げて言うのは赤坂妹。どうやら相当の出不精らしく、夏はクーラーの効いた自室から出てこないというのは姉の情報だ。ほんとうに対照的な姉妹である。もう少し共通点があってもいいんじゃないかな。
さて、しかし多数決は現在了承側が優勢である。蒼もそれは理解しているのか、残る美稲のいる準備室へと視線をやった。だが、無駄だ。
わざわざ僕が準備室まで呼びに行ってやると、美稲はとりあえず無言で僕の後から実験室に移った。言い出しっぺの僕の票は無効として、これで同数票か勝ち越しだ。でも。さっきも言ったが、無駄だ。美稲には聞く必要すらなかった。なぜなら。
「美稲、研究部で海に行こうと思うんだけど、行く?」
「行く」
この通りである。赤坂妹が不満そうにさらに眉をしかめた。無表情の皮は日に日に薄くなっていく。
そもそも、美稲が僕の意見に反発するはずがないのだ。昔からそうで、理由を聞けば、例外なくこの一言である。
『顕正がいくなら』
中学生の時、クラスで遊びに行くのに僕が風邪で不参加って理由で欠席した女だ。どうやら未だにそのルールは生きているらしい。僕のどこに惚れているというのか。世界から疑問が尽きることはなさそうだ。
「じゃあ、いつなら都合をつけられるか、全員言ってくれる?」
「いつでも」
「いつでもっ!」
「……緑に同じ」
「顕正に合わせる」
なんて主体性のない。ていうか、やっぱり皆暇人じゃないか。なんで首を横に振ったんだよ赤坂妹。
「だって海でしょう?暑いじゃない、人多いじゃない」
暑いのはここにいても一緒だと思うんだけど。人ごみが嫌いなのは仕方がないとして。僕だって好きじゃないし、だからこそ打開策だって考えてある。
「三笠さん、プライベートビーチ持ってたよね」
「ああ、あそこ。分かった、許可貰っとく」
そういうわけだ。なんと三笠さん、「三笠食品」の社長令嬢らしく、とてつもない金持ちだったりする。この人が将来会社を告げるかどうかは不明だけど。変人だし。
「それじゃあ、明後日、9時に駅前集合。折角だから別荘借りるとして、1泊2日だね」
異論は出なかった。夏で、やっぱり、夏休みは海だよね。女子部員の水着が見たいなんて疚しい思いは、これっぽっちしかない。あるにはあるに決まってる。僕だって男子だ。
何故か早速遠出。実験室を出ることになるとは、作者自身驚きです。なんという成り行き。ノンプロットの恐ろしさです。
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