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文化祭。リヴァイヴ。

我が校の文化祭には、通称があった。これがまたけったいな呼称で、その名をずばり「復活祭」。処刑されたのち生き返ったと言う某宗教の開祖様の伝説に似通った名称な気がするのだが、これにもやはり、けったいな理由があったりする。

昔々のその昔、そうとは言ってもこの学校が出来た頃也百年弱の昔なのだけれど、そのころに。開祖ならぬ開校者、水戸光圀公(恐ろしい事にこれが本名なのだそう)が今は建て替えられた旧校舎の完成を待たずして交通事故にて他界したそうだ。関係者は酷く悲しんで、ついでに工事業者は依頼を発注してきたその本人が無くなったため酷く困り果てて、現場もその周りも、更には学校に赴任が決まっていた新卒の教師たちに初年度入学生になる予定の生徒百人超あまりが混乱の淵にたたき落とされた。鎮まらない上に遺産がどうのこうのと揉める親族、その見るに堪えない凄惨極まりない場に、一つの奇跡が舞い降りた。それぞ初代校長にして死んだはずの開校者もとい初代理事長、水戸光圀本人である。

一人の根幹たる人物が戻ってきたことにより、混乱の最中にいた人は皆、歓喜の涙を流し光圀公を讃え称したのだった。ついでに謎も残したのだった。とさ。

なんてとんでもふざけたお話があって、我が校の文化祭は「復活祭」と名付けられるにいたったそうだ。一見荒唐無稽な作り話に思える一連の物語、これがまた、事実なのだと言う。結局開校から二十年、享年八十四歳にてこの世を去った光圀公の遺書によれば、あきれ返ったことに、最初から死んでなどいなかったのだと言う。そもそも事故にすら遭っておらず、親族や当事者が本人の遺体だと思っていたそれは全くの別人で、また違うところで嵐を巻き起こしたそう。はた迷惑なジジィもいたものだと、入学式にて現校長からこの話を拝聴した時は思ったものである。「復活」するまでの数日間は山篭りして熊と死闘を繰り広げていたと言うから救いようがない。熊に殺されろよと考えたのはきっと僕だけではないだろう。当時の混乱と混沌に翻弄された人々を思うと気の無い涙が頬を別に伝わない。そんな僕は冷血漢。


そんなこんなで、土曜。「復活祭」の初日である。



「……長い前置きだった」

「何か言った? 顕正」

「こっちの話。ほら美稲、そっちの発明店頭に並べといて」

「ん」

空、快晴。人足、上々。売上、最強。僕ら研究部が店を構える校庭の一角は、開催直後に校門の正面で自動的にデモンストレーションを開始した発明、「コノセイシュンヨイツマデモ」君(15cm×15cmの正方形で、キャッチした電波を中心部から出す光で立体ホログラム化する電話みたなものである)の効果で客足が他の団体を超越して独走し、開始後二時間の正午現時点で、すでに今日販売分の発明品が八割方流れ切った状態である。おかげで最初の三時間にシフトを割り当てられている僕と美稲、今はおよそ裏方で涼んでいるであろう明音さんは大忙しだった。店頭に配置されている僕と美稲には座る暇すらありやしない。美稲の方はまあいいとして、明音さんの方が僕より確実に、ビジュアル面で集客率がいいだろうのに、彼女は頑としてレジに立つのを良しとしなかったのはどうしたって遺憾である。畜生、この事態を予測してたなあの人。

(せわ)しいなぁ、親友」

「うるせぇよ悪友」

つーかなんでこんなところに居やがる、という突っ込みは一先ず飲み込んで、レジ前に現れた人影に挨拶を返してやる。

「忙しそうに見えるんなら声かけんなよ、山神」

「なんだよ、連れないねぇ」

久々に登場、殺し屋山神。しがない学園祭になんの御用でしょうか殺し屋風情が。

「最後悪口になってんぜ。いやぁ、こういう空気は俺ん世界じゃ味わえねぇから珍しい珍しい。しかしなんだ、こんなに一か所に集まって暑くねぇんかね?」

「暑いには暑いだろうよ、秋って言ってもまだ中盤だし。でもここ空調ついてるし」

無論手製の。

「おうおう、豪勢なこったなぁ。で、手前、いつまでここで働いてんだ?」

「後一時間もすれば終わるよ」

「そうかい、上々だなぁ。そいじゃあそのころにまた来てやるから、案内しやがれ」

「ふざけんな、なんで文化祭でむっさい男とご一緒しなきゃなんねぇんだよ」

「逆ナン狙えっぞ」

「一人でやってろ」

連れねぇなぁ、と、山神は適当に漏らすと僕の眼の前から、さしずめこの空間から姿を消した。相変わらず有り得ない身体能力だ。実は瞬間移動とか習得してるんじゃなかろうか。しかし、アイツも暇人だよなぁ。

「顕正、サボると困る」

「おっと、ゴメン」

美稲に少しばかり睨まれ、僕は肩を竦めて客を捌きにかかる。山神にかかれば違う意味であっさりと、この程度の人数なら捌けるのだろうが、いかんせん僕は彼じゃない。し、殺しをする気は毛頭ないから、結局のところ自力でちまちまとやっていくしかないのだろう。いい加減、事務的に応対するのにも慣れてきたところだった。

「赤坂姉妹、来たわよ二人とも」

明音さんが顔を出して、僕と美稲は同時に裏に引っ込んだ。後は今日分売り切るまで彼女たちの仕事である。このペースだと、あと三十分もいらなそうだけど。損な役回りだった。

「ね、顕正、一緒に回ろう」

「いいけど、友達が来てるんだ。それも一緒で良い?」

「うん、顕正が言うなら」

「はいよ。明音さんはどうする?」

「嫌よ、どうして私が混みに混んだ校内を歩かなきゃいけないわけ? 私専用の歩道を最低二メートル幅で作るっていうのなら付き合うけど、そうでないならここで寝るわ。自分のクラスにも用は無いし、この程度のお祭り、もう飽き飽きしているもの」

「そっか、それじゃあ戻ってくるときに何かしら買ってくるよ」

「お礼なんて言わないわよ」

「……期待してないよ」

「そう、じゃあキスしてあげるわ」

「望んで無いから!」

閑談もそこそこに、僕と美稲は裏口から店を出た。一気に、熱気あふれる校庭へ。九月も半ばだと言うのに、まだまだ暑い日が続いていた。

さてと、我が親友を迎えに行きますかね。

文化祭始まりましたー。まさかの山神再登場で、はたしてどうなる事やら。


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