寸劇。参加。
PV数10000超、ユニークユーザー数2000超となりました。
初の連載作品でこの結果、つきましては感謝の念以外持ち得ません。ありがとうございます。
今後ともよろしくしてやってください。
「我らが研究部は、十月に行われる文化祭に全力を挙げて参加、総合評価で栄光ある一位を獲得することを固く誓う!!」
始業式を終えて、夏に深めた結束を象徴するように全員集まっている研究部室にて、部長たる僕は熱く宣言した。
静寂。
皆一様に呆れた表情で僕を見ている。どうにも反応が悪いな。
「我らが研究部は――――」
「それは分かったから」
明音さんに嘆息と共に制され、僕は口をつぐむ。分かったんだったら反応してくれたっていいじゃないか。こんなところだけ結束を見せれらても僕だけ対応に困るじゃないか。
「……文化祭に参加することについて一応は文句ないわ。でも、顕正、どうして急にそう、熱くなっているのかしら?」
「よくぞ聞いてくれました!」
明音さんの問いにここぞとばかりに声を上げる僕。他の部員たちは皆蔑むような目でにらんできたけど、痛くないとも、うん。
そこから僕は、崇高なる目的を言って聞かせた。文化祭に参加して部内の絆を再確認云々。学校行事に参加することによって生徒である自覚を云々。仲間で力を合わせ、上を目指すことによって競争性を高める云々。優勝した団体には今年度中、校長が所有している学校から徒歩三分の共同住宅を無料で貸し出す云々、ついでに部費も貰える云々。
「はぁ、つまるところ、先輩。商品に目が眩んだと」
蒼ちゃんが非常に手痛い一撃をお見舞いしてくれた。しかし、ここで引いてなるものか!
「それは邪推というものだよ蒼ちゃん。僕がこの度、文化祭なんていう軟弱なものへの参加を表明したのは他でもない。学校内の共通認識レベルで奇人変人扱いされている僕らの株を上げることで、そして、今日、さっき! 教室にて僕らの活動を鼻で笑ったクラス委員長に報いるためだ!!」
「乗るわ、顕正」
「あたしもっ」
「私も」
「そういうことなら、まぁ」
あれ? 皆目に異様な輝きを持って僕の提案に賛同の姿勢を見せた。乗ってくれたのは嬉しいけど、特に明音さん、笑顔が怖いよ。
「研究部を馬鹿にしたのでしょう? ふっ、報復なんて言葉がぬるいわ。入っても風邪を引くような風呂に浸かってもなんの意味も無いでしょう? どうせなら全身火傷するくらいの熱湯を使わなきゃ。復讐よ、顕正」
……ヤバイ、変なスイッチ入れちゃったかもしれない。
据わった目で怪しく笑う明音さんから目をそらすと、他メンバーも、なんでか同じような雰囲気を纏って笑みをこぼしていた。恐いよ、研究部。
でも、腹が立っているのは僕も一緒だ。研究部の強さ、見せつけてやろうじゃないか。
会議は難航していた。参加が決まって、次は何をするか、なんだけど。キャラの濃過ぎる面子がこの場合は災いして、出てくる案がなんというか、混沌としている。
「ファンシーグッズの販売でいいでしょう」
と明音さん。止めてくれ、外で死人が出る。
「じゃあ発明品を使った寸劇とかっ」
と緑。それは部員、このパターンだとどうせ僕だろうけど、内部に死人が出る。
「科学調合した味噌おにぎり」
美稲。ノーコメント。あえて言うなら、味噌おにぎり好きだな、君。
「それっぽい薬品とか売っておけば儲かるのでは? 即効性のプロテインとか」
作れますよね? と蒼ちゃん。君だけはまともだと思っていたのに。作れるには作れるけど。
駄目だこれ。なんていうか、駄目すぎる。秩序が無い。ここは部長たる僕が良い案を出してまとめなくては。しばしの思考。そして、閃いた。我ながら素晴らし過ぎると舌を巻かざるを得ないその案とは。
「よし、研究発表会をやろう」
「「「「つまらなそうだから却下」」」」
……。涙は男の勲章さ。
不貞腐れたわけじゃ絶対無いけど、僕は憮然と部員を睨む。
「皆さ、もっとちゃんと、優勝を狙えるような案を出してくれないと」
「研究発表会なんてアイデアを出した男の発言とは思えないわねぇ」
睨み返してくるは勿論のこと明音さん。なんてことを言うんだ。研究発表、楽しいと思うんだけど。
「先輩みたいな人は楽しめるんでしょうけど。どっちかっていうと先輩の研究に興味を持つのは企業とか、専門家とかでしょ」
「うーん……」
それはごもっとも。確かに、僕レベルの研究だと一般素人は何を言っているのか分からないかもしれない。でも、それじゃあ、どうすればいいんだろう。
「売り上げがあればいいんだよね……」
ぼそりと呟いた緑が一瞬見遣ったのは実験室の一角に鎮座する小形のアンテナ型装置、「だませーる」。それはなんていうか、詐欺だと思う。作った人間が言うのはなんだけど。
時間は進むだけ進んで、難航のままに夕刻が訪れる。かれこれ昼間から四時間近く、この調子だ。さて、それでは、そのころには眠りかけていた美稲によるまさかの妙案を紹介しよう。
「普通に、危なくない発明を売っちゃえばいいんじゃない?」
「……あー」
沈黙。会議は既に堕落しきっていて、妙案というか、普通に考えれば当然至極というか、そんな彼女の案は、なんというか、渡りに船。
「それ、普通にいいんじゃないでしょうか」
蒼ちゃんの釈然としない一言によって、僕ら研究部の出し物は決定した。
考えてみる。反省点、なんて言うのもおこがましいくらい当然の帰結なんだけど、研究部は、僕が作った発明は、その辺で市販されているあれそれこれどれよりは一線を画した機能を持つものばかりだ。そもそも、比べるまでも無いというか。スペックの段階で他の団体とはまるで違う場所にいた。宣伝さえちゃんとやっておけば、この内容で売れないわけが無い。
というわけで、決定。
無駄な時間というのも、確かにあるのだな、と、身にしみて思った。
というわけで、文化祭参加決定。しばらく後になります。
夏も過ぎ日常の再来。というか、学業の復活。普通の駄弁り合いを是非楽しんで頂ければと思います。その前に明音さんのデートもあったっけか。
それでは、感想評価等頂ければ幸いです。