六畳一間。味噌おにぎり。
準備室へのドアを開いて部屋に踏み入れると、なんとも香ばしい匂いが鼻をついた。これは……味噌?
およそ六畳の敷地面積を持つ準備室から、味噌の匂い。薬品の臭いならばともかく、なぜ調理器具もないこの部屋にいて芳しい香りがするのか甚だ疑問である。
否、答えなんて明確だ。
「オーケー、美稲、とりあえずその味噌おにぎりを片付けてこの部屋から出て行くんだ」
なるべく平坦に冷ややかな声で批難する。準備室の隅、人一人通るのが限界くらいの狭さの道に座り込んで弁当を広げる馬鹿が、そこにはいた。アルミホイルに包まれたおにぎりが、ざっと見ただけでもまだ4つは転がっている。どれだけ食べるつもりなんだ、こんな時間に。
「イジメ、かっこ悪いよ顕正」
「馬鹿言うんじゃないよ。こんな薬臭いところで、ってのはまあいいとして、神聖な部室で何を食ってるんだよ君は」
「見てわからないの? 味噌おにぎり」
「わかるよそこは。聞いてるのは、なんで準備室に座り込んで弁当を食べているのかってこと」
げんなりして僕が聞くと、美稲はああ、と一言呟いてから、
「実験室は広すぎるでしょ?」
思わずため息が出た。
紹介が遅れたね。地べたに当然のように制服のスカートのまま座り込む茶髪長髪の(見た目だけ)美人の名は二瓶 美稲。名前で呼び合ってるところからも推測できるように、かなり古い仲だ。所謂幼馴染ってやつ。僕としては一言、腐れ縁で片付けておきたい関係なのだけど、当の美稲は僕に面と向かって「好き」だなんて宣言しやがったのだからどうしようもない。僕が幼馴染の、昔から比較的仲の良かった女の子を邪険に扱えるかと言うとそんなわけないので、こうして話し相手をしてやってはいるのだけれど。ちなみに、付き合ってやるつもりは毛頭ない。どうせ世界は滅びるのだ。……20年後に。
とかく、そんな腐れ縁の美稲だが、頭はいいのだが素行が問題すぎる。今だって膝上およそ5センチ弱のスカートだと言うのに無防備に脚を崩して座り込んでいるし、普段から、こいつは身なりにも身の振り方にも全く気を使わない。何の脈絡もなく休み時間に急に「顕正。好き」だなんて告白してきたのだから、美稲の変人具合は相当なものだった。変態と言わないところに僕の優しさを感じとってほしい。
さて。
「ほら、制服汚れるだろ、立てって」
言いつつ、僕は美稲の腕をひいて無理矢理立ちあがらせる。散乱している味噌おにぎりをビニール袋に回収して、そのまま彼女の手を引いて準備室の外へ。
結果として連れ出されたくせに、美稲はと言うと無言でお尻をはらっていた。なんともマイペースな奴である。きっとこいつは羨ましいくらいに何も考えていない。断言できる。
「おにぎり」
ぼそっと呟いた美稲に、またもワザトらしくため息をつきながら、ビニール袋を渡してやる。無邪気に顔を綻ばせて袋に手を突っ込むと、彼女はアルミホイルを二つ掴んで一方を僕に差し出してきた。
「上げる」
「……ありがたく頂戴するよ」
手を出して受け取ると、彼女はうん、とうれしそうに頷いた。貰ったのは僕なんだけどな。
全く、これだからこの腐れ縁を断ち切れないんだ。彼女は、笑顔だけは妙に魅力的だから。
惚気らしき文が続いてしまって申し訳ないのだけど、つまり、二瓶美稲は、こう言う人間だった。
味噌おにぎり、美味しいなあ、これ。
なんというボケ老人。この二人の絡みはきっと今後もこの調子。書いてて眠くなってきました。
そんなこんなでグダグダやってく小説です。
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