さめざめと。いきつく場所。
緑にシャワーを貸している間、僕は眉を寄せて険しい表情のすぅちゃんに詰め寄られていた。
「あらくん、他の女の臭いがする」
「ほんとに君と美稲は同じようなことばかり言うね」
「一緒にしないで。あらくん、他の女の臭いがする」
「緑とデートに行ってたんだから、そりゃそうだろう」
「違う」
すぅちゃんはさらにジト目で僕を睨んできた。表情は相変わらず人類の見本そのものである。
「キスしたでしょ」
「君は超能力者かっ!」
誤魔化すことすら忘れて僕は盛大に突っ込む。何、何なのすぅちゃん。匂いなのか? それとも勘なのか? どちらにしても人外にも程がある技能だった。
「匂い、かな。勘もあるけど。僕の嗅覚は犬の二倍だから」
本当に人間じゃないらしかった。天才は五感まで異常なのか?
「うん。第六感もあるよ」
「聞いてねぇ」
思考も筒抜けらしい。すぅちゃんにかかれば徳川の埋蔵金すらあっさり見つけられる気がしてきた。
「ん? あれなら、」
「言わなくていい! 社会が歪む!」
ご存じだそうだ。この子が言語を知った時点で全ての謎は無いに等しいらしかった。
「それはいいから。それで、キスしたの?」
「んー、まあ、色々あってさ。すぅちゃんにも協力してもらっちゃってね。ありがとう、助かったよ」
「んーん。お礼にキスしてくれればそれでいいよ」
「……」
「……」
目を閉じて何かを待つしぐさ。いや、しませんよ?
「……ちっ」
「おい待て、君は舌打ちするようなキャラだったか?」
「うん?」
すっとぼける。その所作すら堂に入ってるみたいで、うん、すぅちゃんにはそもそもアイデンティティなんて概念は通用しないのかもしれない。舌打ちが様になる人間はヤの字の職の方だけだと思っていたのに。つくづく人の現実をかき乱してくれる。全く、でも、悪くない。
と、すぅちゃんが急に立ち上がって僕の部屋を出て行った。何事かと思っていると、十秒くらいたって、シャワーを終えたらしい緑がノックしてくる。聴覚も異常なんだっけか、彼女は。
「顕正くん、シャワー、ありがとうございましたっ」
大分さっぱりした風に、緑が笑う。快活、と表現出来る彼女の笑顔がそこには戻ってきていた。良かったと、素直にそう思う。
「む、顕正くん」
「何」
「他の女の臭いがする」
「僕はもう突っ込まない」
なんなんだ、研究部って。
母親が持ってきてくれた麦茶のグラスを傾けて、僕は息をついた。結局のところ、僕の遅刻から始まり、デートは中途半端に終わってしまった。申し訳ない気持ちと共に、もう少しうまく立ち回れていたのではと悔恨の波が押し寄せてくる。僕のそんな表情を読みとったのか、緑はくすりと笑った。
「気にしないでいいですよ、あたし楽しかったし」
「そう言ってくれると救われるよ。けど、」
「だって、これで最後なんかじゃないですよね?」
少々の期待と、僕の返事に対する不安のこもった問いかけ。答えは一つだけ、もう出てる。
「あたり前だろ」
これが虚言でも、真実でも、今は関係ないことで。僕が、緑とまた過ごしたいと思っているのだから、この返答に偽りは含まれていなかった。それでいい。それ以上を望むことはしない。
僕は、とっくに満たされているのだ。研究部に。彼女らの存在に。だから、いつだって。
いつでも、この幸福を手放す『覚悟』だけは、持っている。
歪。
僕はとっくに気付いていた。長く続くものはあっても、永久ではありえないことに。
それの意味するところも、勿論分かっていて。
でも、僕は分かりたくなかった。でも、分かっているのだから。
始まりだって訪れたのだ。終わりだって、いつでも。
普通に続きを書くと見せかけて、まさかの後半謎文章。勿論のこと伏線になります。
さて、話変わって世界崩壊(ryも、実は着実に終わりには近付いていっているのです。夏には、もしくは終幕を見るかもしれません。最後までお付き合い頂ければ幸いです。そして願わくば、その後も。
まだ先の話ではありますが。
それでは、感想評価等よろしくお願いします。




