したたかつよく。ハライタタ光線銃。
誤解を招かないよう先んじてここに記しておく。
僕は未来から来たタヌキみたいなネコ型ロボットでは無い。断じて無い。
「三笠さん。それ危ないよ」
そういうわけで、僕は研究室の片隅に放置されていた発明品の一つ、名称ハライタタ光線銃を手にとって眺める彼女に声をかけた。三笠さんの顔がこちらに向き、眠たそうな目で僕を見返す。
「……問題ない。安全装置はついてる」
着けたんだよ僕が。そしてそれはハリボテに等しい。
「そう。なら直して」
「え。でもそれ使い道ないよ?」
「効力を試すのは研究者として当然の業でしょう?」
それを言われると確かにそうなので、さして反論もせずに彼女から銃を受け取る。どうにも奇怪なデザインの銃を一通り眺めて、僕は思わずため息をつく。銃身の裏にファンシーとか書いてあった。深緑と赤、水色のコントラストの何処がファンシーなのか。毒々しいだけじゃないか。製作者を呼べ、抗議してやる。ああ、僕か。僕だ。
ひと月ほど前の僕の感性を盛大に疑いながら、僕は早速実験室の隅にまとめてある器具を手に取った。そろそろ過去の黒歴史を抹消するべく本気でタイムマシンの作成に着手してみようか。
とりあえず、今は光線銃だ。どうせだからデザインも一新してやろう。一度形を崩し、外側をばらす。手際良く新たに姿を与えてやってから、色をつける。
数分も立たないうちに、毒々しかった銃は赤を基調としたマトモなデザインに変貌した。流石僕である。天才とはこういう力の事を言うのだ。崇めよ。
「できたの?」
気がつくと横から三笠さんが僕の手元を覗き込んできていた。比較的近い距離に若干どぎまぎしながらも、首肯して今しがた出来上がったばかりの銃を手渡す。
三笠さんはしばし光線銃を、色々な角度から見ていたが、何を思い立ったのかおもむろに油性マジックを取り出して、銃身の裏に何事か書き込む。
「前のほうが可愛かった」
そう呟いて、三笠さんはマジックを置いた。銃身の裏には、予想通りと言うべきか、「ファンシー」の文字が躍っていた。三笠さんの仕業だったのか。どおりで僕にしては綺麗な字だと思った。
て、そうじゃない。何を書いてるんだこの人は。というか、前のほうが可愛かっただなんて、僕は彼女の趣味を疑わずにはいられない。さっきまでの僕の反省を返せ。
「さて」
不意に、彼女が銃をドアのほうに向けた。何をする気だろうと思っていると、彼女は信じられないことに躊躇いなくその引き鉄を。
「ちょっと待っ――――」
ヒュッっと一筋、極細の光線が光ったかと思った次の瞬間には。
僕が改造に改造を重ねた耐熱性のドアが、半分ほど溶解して無残な姿をさらしていた。
「へぇ。すごい威力。やるね、萩野」
「やるねじゃないでしょ!? 我ながら確かに恐ろしいほどの威力で科学者としては万々歳だけど、でも待った! こんな恐ろしいものをなんで躊躇いなく撃つのかな君は!? 今のタイミングで誰か来てたらどうするつもりだったのさ!!」
「さあ。死んでたんじゃない? そいつ」
さあじゃねぇよ。死んでたんじゃないじゃねぇよ。その場合君が犯人ですよ三笠さん。
「作ったのは萩野だからきっと萩野も逮捕だね」
「そういう問題じゃないんだってば」
げんなりとして突っ込む僕を見事なまでにスルーして、三笠さんは自分の通学鞄を手に取った。
「何処に行くのさ」
「帰る」
だからちょっと待てっておい。この惨状を僕に一体どうしろというのだろう。
僕の制止をやっぱり華麗にスルーして、結局彼女は実験室を出て行ってしまった。残された僕はと言えば廊下を通りかかった教師に見咎められて指導室へ直行である。この世はなんとも不条理だった。
ハライタタ光線銃についてはこれ以上思い出したくもない。読者諸賢としては名前と効果が驚きすぎて目から海蛇が出てくるほどに違うじゃないかとの突っ込みを入れたいものとお見受けするが、残念無念、僕の発明に一々その類の突っ込みを入れていたらキリがない。諦めて世界の不条理を君も一緒に受け止めるんだ。
三笠さんはあの通り、趣味嗜好の変わった、ついでに思考行動も奇怪な愉快痛快な少女である。たまに痛いだけになるが、それは愛嬌ということで許すしか道はない。でないときっと僕が死ぬ。
さて、指導室にて校長含む教師精鋭陣にこってり小一時間ほど絞られた僕がようの事解放されて実験室に戻ると、総下校時刻まであと30分程度しかないというのに、机の一つに僕のではない鞄を見つけた。室内を見回しても人影が見えないことから、実験室から繋がっている奥の部屋、準備室にいるものと推測できるが、だとすれば、きっと彼女だろう。
丁度いい、それじゃあ、残り3人の内の1人について、ここらで紹介しておくことにしようか。
というわけで更新です。今のところいいリズムで書けてますが、いつまで保てるのやら。
そして保つ代償とでも言いたいのかと文句を垂れたいくらいの低クオリティ。日を追うごとに文章がひどくなっていっている気がするのは気のせいだと信じたいところです。長い目で見てやってください。いや、今だ読み続けてくれている方はもうすでに菩薩並みの精神をお持ちか。
よろしければ感想批評等よろしくお願いします。