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スィート・アンド・スパイシー。赤き眼光。

全てを取り戻そうと考えるのは、傲慢だろうか。何もかもを手にしようと思うのは、我儘だろうか。

かまうもんか。

全部欲しいから、何も失いたくないから。だから僕は。

どんな手を尽くしてでも、皆残らず、手に入れてやる。



あの日、蒼ちゃんの見舞いに来て以来、そして、緑の誘拐事件があって以来、つまり、緑が僕を好きになった直接の理由であろうあの日以来二度目、僕は赤坂家に足を踏み入れることになった。かわらず、目立ったところはさほど無い一般家屋。

「先輩、それは失礼と言うモノですよ」

「え?」

隣の緑に軽く睨まれて、僕は首を傾げる。ああ、家の事だろうか。でも、一般家屋とは言え赤坂家は7LDKの広い家に住んでいるのだから、この程度の言質で攻められる謂れは無い。

「違いますよ。まあ家は、結構お金持ちですけどね。お母さんのおかげで」

緑は憮然と答える。

「鈍いんですよ、顕正くんは。あのね、あたしが、確かにすっごく怖かったけど、あの事だけで人を好きになったりするような人間に見えます? 感謝と好意を間違えるほど莫迦じゃないですよ、見くびらないでください」

「ああ、」

なるほど、僕の失態だった。僕を好いてくれているという彼女に対する、中々の侮辱だったことだろう。

「ごめん」

「分かればいいんですよ。デートの時ちょこーっと奢ってくれちゃったりしたら許せちゃいます」

「うん、君は侮れないね本当に」

「恐縮です」

「誉めて無い」

「ちぇー」

唇を尖らせて、緑は先に玄関に入った。「あたしは誉めて伸びるタイプなのにー」とかぼやいている。無視。

「それじゃあ、覚悟、いいですか? 顕正くん」

靴を脱いで出してくれたスリッパに足を入れると、緑が急に真剣な表情を作って言った。これは、相当難関になること間違いなしだろう。でも、迷う余地は無い。

「あたり前だよ」

「あたしは出来てないです」

「はぁ?」

「ん、だって、これで蒼ちゃんと顕正くんが良い仲になっちゃったら困るじゃん」

「ねぇよ」

「そですか」

いたずらっぽく笑い、緑は気取った所作でうやうやしく頭を下げた。

「それでは、どうぞ、王子様」

意味わかんねぇよ。気を引き締めて、頷き返す。緑はくすりと笑うと、そのまま僕に背を向けて先を歩きはじめた。

許されようが許されまいが関係ない。蒼ちゃんが僕のそばから離れて行くのはつらいけど、でも、だからこそ。僕は、失わないように、精一杯の事をするさ。



「どうぞ」

ドアを少しだけ開けて緑と会話していたらしい蒼ちゃんが、その後ろに控えていた僕に目を向けて言った。赤く、鋭く細められた目に射られ、少し気が竦んだ。おいおい、なんて目をするんだこの子は。

「お邪魔するよ」

虚勢を返して微笑むと、僕は緑と入れ違いに蒼ちゃんの部屋に入った。「それじゃあ、あたしは下にいますから」と緑が部屋を出て行って、二人だけ残る。

「ドア、締めてください、先輩」

蒼ちゃんが、低く作った声で言う。正直、普段の冷静沈着な態度を見慣れているため、怒りを露わにした蒼ちゃんというのは、かなり迫力があった。普段の明音さんより怖い。でも、後輩相手に竦んでる場合じゃない。淡々と薦められたクッションに腰をおろして、僕は早速口を開――――

「先輩、どうして、約束を破ったんですか?」

こうとして、機先を獲られた。僕を睨む目が、相当怒りを含んでいるのに据わっては無い。それがまた、彼女の怖さを増大していた。この子は、こんな表情をしていても冷静だってことだ。思えば、確かに表情豊かになってきたとはいえ、彼女はそれでも、冷静な根幹の態度だけは崩さなかった。強過ぎるのだ、メンタルが。しかし、約束?

「忘れた、なんていうようでしたら、申し訳ありませんが先輩とする話なんて無いので、即刻お引き取りください」

眼光がさらに鋭さを増す。僕の心臓は最早視線だけでズタズタだった。駄目だ、思い出せ。いや、思いだすまでも無かった。このくらい、この夏の出来事くらい、僕は覚えている……。

「自分を見失うな、か……」

「そうですよ。どうして、間違ったんです? 先輩」

静かに、僕が息を継ぐタイミングを測ったかのように、蒼ちゃんが続ける。

「――――失望、しました」

彼女の言葉の痛さに耐えかねて思わず僕は顔をゆがめ、同時に、気付いた。失望の言葉を発する時、確かに、蒼ちゃんの表情が、微かにだが揺れたのだ。瞳が揺れ、眉が下がった。その変化に気づけるくらいには、僕は彼女と親しくなっていたらしい。そして、彼女がそんな顔をしてくれるというのなら、僕は、それに答えるだけだ。頭を下げることは、当然躊躇わない。

「ごめん、蒼ちゃん」

僕が頭を下げると、蒼ちゃんの表情の揺らぎが明確になった。苦しそうに眉を寄せ、悲痛な目で僕を見遣る。この子にこんな表情をさせているのは僕だ。その事実を、僕は正面から受け止めて、壊さなければならない。まあ、でも。

壊すのは、得意だ。

それに蒼ちゃんも、基本、良い人だから。


それでも。それでも蒼ちゃんは、簡単に僕を許すことはしなかった。僕はあまりに調子がいい、馬鹿な男で、彼女は、ぼくの愚かさを、決して許さなかったから。

やっとこさ蒼ちゃん再登場です。何章分いなかったんだろう……。


というわけで、次回もお楽しみにっ。してくれると嬉しいです(笑)


それでは、感想評価等よろしくお願いします。

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