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友、愛。明音さん。

明音さんは非常に強情な方でおわせられた。


なんて言うと、やっぱりまた滅茶苦茶に罵倒されるのだろうけど。というわけで、すぅちゃんの問題の、僕側の解決編だ。


明音さんの家には一度訪れたこともあって、簡単にたどり着けた。先にメールで予告を入れておいたので、きっと家にいるだろう。きっと。

意を決してチャイムを押しこむ。ピンポーンと、僕の意思を削ぐような軽い音が響き、そして、僕の意思を砕く、彼女の母親の声が後に続いた。

『ごめんなさいね~、明音、会いたくないって』

「えぇっ!?」

メールでは『わかった』って返してくれたのに? 今更どういうことさ。

『というのは冗談でね、あの子、出かけてるのよ~。直ぐ戻るはずだから、上がっててもらえる?』

「あ、……はい、お邪魔します」

え、いや、冗談って、オバサン? 初対面で、まさかのノリだった。あの朗らかな声の主から明音さんが生まれただなんて、この世には不思議がいっぱいだ。

「ほら~、こっちよこっちよ顕正くん」

「……、はい……」

玄関から顔を出した三笠母は、オバサンと言うには若すぎる容貌をしていて、何というか、見た目通りに幼そうだった。天真爛漫って言葉を大人に使う日が来るとは思わなかったよ。ていうか、顕正くんって。嫌じゃないけども。嫌じゃないけどもさっ。

「ささ、ここがあの子の部屋よー。くつろいでていいからね?」

簡単に明音さんの部屋まで通された。いいのかよ。よくないだろうなぁ……。コーヒー淹れてくるわ~なんてやはり朗らかに言う三笠母に軽く会釈して、入ったものは仕方ない、一通り、明音さんの部屋を見回す。

彼女の普段にふさわしく、どうしてもファンシーとは言い難い、毒々しい色のベッドや小物が整然と並べられていた。意外と部屋は片付いているみたいだ。置いてあるものはそのまんま置いておいて。

緑と紫のウサギのぬいぐるみなんて、僕の眼にはどう頑張ったところで可愛くは映ってくれなかった。無理無理、世界中探したところでここより毒々しい場所は他にないだろう。それが女子高生の部屋ならなおさらである。こないだ訪問した蒼ちゃんの部屋は大分質素な感じだったし、ううん、僕の周りの女の子たちは悉く僕のイメージを破壊してくれる。かろうじて美稲や緑は女の子女の子してそうだけど。それもどうだか。美稲の部屋には一応お邪魔したこともあるけど、小学生のころだし。あの頃は普通に可愛げな部屋に住んでいるようだったが……。

と、正面に目を戻した僕の視界に、二つの写真立てが映った。通常サイズの写真を一枚入れられるあれだ。これもやはりちょっと毒々しい色をしていたけど、それよりも、僕の眼を惹いたのは、その写真の中だった。一方は、何歳くらいだろうか、幼い明音さんがまだ無邪気だったらしい頃の笑顔を振りまいている。なるほど、この写真だけ見ると、彼女があの母の娘だと言うのにも頷けた。

そしてもう一枚。僕の眼はまだ狂っていないはずで、だとすれば、あの写真に写っているのは、間違いなく、――――


ガチャリ、と。

部屋のドアが開いて。咄嗟に僕が写真立てから目を離してそちらの方向をみると、ああ、もう、なんだこれ。案の定なんて言葉を使うにも出来過ぎている。コーヒーを持ってきてくれた三笠母……なんてことは勿論なく、彼女、明音さんはそこに立っていた。目ざとく、僕が見ていた視線の先のものを把握したらしい。いや、語弊があったかもしれない。正しく言い換えよう。

把握してしまっらたしい、だ。


「顕正……っ?」

一瞬で、頬を紅潮させる明音さん。珍しいなんてものじゃない、彼女がこんな表情を僕に見せたのは、間違いなく、これが初めてだろう。

「あ、……いや、それは、ちがっ……ぅ……」

狼狽して噛みまくる明音さん。でもごめん、その態度が、逆に墓穴だ。あれは、あの写真は、やっぱり、僕で正しいらしい。そして、この場合、写真立てに入れられたその写真の意味も。僕の推測は、どうやら完全に当たったらしい。て、いやいやいやいや、僕もそんな場合じゃないって。彼女が異常に取り乱してくれたおかげでなんていうか滅茶苦茶可愛いじゃねぇ落ち着け僕、些か、最低でも彼女よりは落ち着いている僕なのだが、しかしいかんせん、事が事だった。あの明音さんが、僕を、この場合。

「えぇと、明音さん……?」

「っ」

僕がおずおずと切りだすと、瞬間、ビクリと、明音さんの体が跳ね上がった。思い出したかのように歩を進め、棚に飾ってある写真立てを伏せようと手を伸ばす。と。

不運に不運は重なるようで。いや、この場合のこのハプニングを僕が不幸と呼んでいいのか、もしくは彼女の心情からしてこれが不幸なのかは分からないのだけど、なんて、逃げの表現は置いといて、つまり。棚に向かった明音さんは須らくして足を、あろうことか何もない床にひっかけ、そして、お約束。反射的に僕が彼女を支えようと腕を伸ばすと、偶然、否、ここまで作り込まれた偶然を僕は偶然と認めたくない――――必然、彼女の体は僕の方に倒れてきていて。

肺の空気を容赦なく半分以上攫って行く衝撃が僕の背を襲い、数瞬遅れて、明音さんの体が僕の上に落ちてきた。



友情と愛情は同居しないと言うが、この時、僕らの胸中にあったのは、はたしてどちらなのか。少なくとも、僕は自分の感情を、正確に理解していない自信があった。


せめて最期くらい、それらしく締めてみようと思う。後半に続く。

なんというベタパターン。何を隠そう、いや最初から隠す気なんて毛頭ないですが、はい、王道ってのはおもしろいから、万人受けしてきたから王道なのです。つまるところ作者は王道大好きですはい。


中間テストなる苦行からも解放され。それでは、感想評価等頂けると幸いです。

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