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鳴き声。一掃、終末。

僕とすぅちゃんのしでかした事象について、大まかに、順を追って説明しよう。


まずはすぅちゃんが、天香具山のメインサーバーに回線をつなぐ。データの類を僕が全面的にいじって、バックアップを潰して、根幹から崩壊させる。全国展開している天香具山系列の企業を、社会に影響が出ないところだけ切り取ってぶち壊し、実質、天香具山を支えるのは世界のニ十パーセントを担う食品事業だけになった。基本株式会社で、僕がこの手で株を大暴落させたのだから、崩れるのは当然だった。


わずか五行で語れるこれが、最終的なことの顛末だった。呆気なく。僕とすぅちゃんが組んだのだから実力的には相応で至極当然の結末だけど、些かこれは、見境なかったかなとも思う。天香具山家は今後すぅちゃんが家に戻るまでは失業者の手当と自身にかかる負債の返済で大わらわだろう。少しだけ心が痛んだふりをしておいた。

「で、すぅちゃん。君の憂さ晴らしと言うか、反抗は終わったわけだけど、どうする? すぐに家に帰って建て直す?」

「嫌」

「即答かよ」

「うん」

そうですか。何を言っても無駄なのは自明の理なので、僕は口を閉じた。どうせどこに住むのか、などと聞いても「ここ」一択だろうし、僕としても、両親としても彼女がここに住まうのを拒む理由は無いので、まあ、そうなるのだろう。空いていた時間を埋め合わせるのだと考えれば、彼女と暮らすのも悪くはない。健全な読者諸賢のために一応明らかにしておくが、勿論のこと、すぅちゃんと僕は別室だ。


さて、さっきは最終的なことの顛末とか言ったけど、それは、あくまですぅちゃんの話だった。僕はまだ、というか、まだまだ終わっていない。むしろここからが本番と言えた。

どう謝ろうか、彼女たちに。

美稲はあの後でも普通に家に来てすぅちゃんと若干にらみ合っていたし(その件に関しては僕は一切触れないことにした。恐い美稲なんて初めてみる)、蒼ちゃんに関しては、あの子の事だ、単純に一言謝れば済むだろう。物わかりが良いから。

緑は正直なところおバカさんなので、もしかしたら今の状況すら察してなく、ただ明音さんの言葉に従っているだけかもしれない。最初から説明する必要がありそうだ。

明音さんが最難関。でも、きっと彼女も、罵倒はしても最終的には許してくれるだろう。罵倒はしてもっ。


僕が甘くて、浅はかで作ってしまった研究部の溝は、これでなんとか落ち着きそうだった。


僕の作った溝。研究部は僕の居場所で、同時に、『僕が与えた』彼女たちの居場所でもあった。ぬるま湯歓迎、言うなればこたつのような空気ができていたせいで、僕はそのことを忘れていたのかもしれない。彼女たちは僕を信頼して研究部にいたんだ。彼女たちを無視してすぅちゃんと言う、ある意味僕にとってのネックになる人物をその空間に連れ込んだのだから、そりゃあ怒るだろう。

あの日を最後に途絶えた明音さんからのメールの最期の一通はこう締められていた。

『そこはあなたの簡易ベッドじゃない』

……例えは最悪で、でも、理解はできた。理解できたけどやっぱり例えが最悪だった。もうちょっと何かないのかよ。


さて、それじゃあ、僕が「誠意」ってのを見せる時なのかな、彼女たちにさ。

難易度の高そうな人から謝罪していくことにした。明音さんが筆頭だ。ていうか、あの人を例えば最期にまわしたとすると、『そう、あなたは私ごとき後回しにしたところで簡単に籠絡できると判断したわけね、不愉快だわ、死になさい』くらい言いかねない。我ながらリアリティのある予測が出てきたのは、彼女の罵詈雑言に僕が慣れかけている証拠なのだろうか。嫌過ぎる。僕は繊細なんだよ。


鳥の鳴き声が聞こえて、僕はそちらに目をやった。すぅちゃんが、あたり前のように籠を出ていた。出れるんだ、それ。自分の意思で。

翡翠(かわせみ)は僕の肩に飛び乗ってくる。カイン。昔、僕が救った鳥だった。当時家族よりも大事だった女の子と同じ名前の生命を見殺しにできるほど、僕は達観しちゃいなかったわけだ。

「あらくん、ありがとう」

「気にしないでいいよ」

「ううん、ありがとう」

「どういたしまして」

交わす言葉は少ないし、回りくどいけど、でもこれが社交辞令で、解りあってるはずの、僕たちの挨拶だった。


気付く。僕は気付く。なんて、僕は傲慢なんだろう。強欲なんだろう。失った人をそのまま取り戻して、その代償に失った人を、また取り戻そうとしている。全部つかもうとしている。

でもさ、いいだろ?

全員ハッピーじゃないハッピーエンドなんて、僕は知らないんだから。

大分無理ありますがすぅちゃん編終了です。次回からはとりあえず一人一人仲直り的なことをしていく予定です。はてさて、ギャグパートは戻ってくるのか。


それでは、今回はこれにて失礼させていただきます。


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