鳴き声。籠の中。
明音さん。変なもの好きで、ドSで、捻くれてて。芯が強くて、実は、おおらかで。僕のそばに、彼女はいない。
美稲。世間ずれしてて、意味わかんなくて。僕の事を好いてくれて、いつでも、今だって、僕のそばにいてくれる。
緑。明るくて、おせっかいで、ちょっと五月蠅くて。彼女も僕を好いてくれていて、そして、少し怖がりで、さびしがりやで。今は、僕のそばにいない。
蒼ちゃん。冷静で、でも、実は感情豊かで。素直じゃないけど、彼女はいつも強かった。彼女も、今は、いない。
すぅちゃん。僕の個人に対する記憶や思いの大半は、彼女が締めていた。彼女がいなくなることは、同時に僕の大半が空っぽになることに等しかった。だから僕は実際、空っぽで、壊れていて。
それを救ってくれたのは、他でもない、研究部の皆で。
皆は、そして、もう、いない。
別れの原因は僕で、だから、取り戻すのも僕の役割だった。こんな役割、望まれたって分けてやるものか。僕がやる。僕にしかできないし、明音さんは、ちゃんと言ったはずだ。言葉にはしなくても、言ったはずだ。お前がやれと。
だからやる。だから、僕は。彼女たちと対等に並べる人間になれるよう、戦う。すぅちゃんを、以前どうしようもなく救えなかったすぅちゃんを、完膚なきまでに助けてやる。
そしたら今度こそ、すぅちゃんを、彼女たちにも紹介しようか。僕の幼馴染としてではなく、婚約者としてではもちろんなく、ただ、新しい仲間として、さ。
僕と鳥籠少女ことすぅちゃんは、僕の部屋にいた。作戦会議っていうか、僕が現状を把握するために他ならない。彼女が何に追われ、どう逃げているのかを知らないことには、どうにも対策なんて出来ようがないのだ。
「それですぅちゃん、敵は? またどっかの組織に喧嘩ふっかけたの?」
また、というのは、以前もまるで日常の一コマのように裏のよろしくない組織を潰していたからで。前科があり過ぎて特定が難しいのは純粋に困りものだ。この子も色々とずれている。
「組織だね」
「やっぱりか、で、どこ?」
「天香具山」
「へぇ、……」
当然のように答えるので、僕も普通に反応してしまった。じゃない、どういうことだ? 天香具山って言ったか?
実家に喧嘩ふっかけたのかこの天才少女……。
「それ、まじ?」
「うん。マジばなマジばな」
「略語なんてどこで覚えたんだ。……勿論正当な理由があってなんだろうな」
ここまで来ると僕の態度も一変せざるを得なかった。あの大組織相手にまわしてなんでこうも冷静なんだよ君は。
「あるよ、理由」
「当然だ。無いのに喧嘩ふっかけられてたまるか」
「あらくん、言葉遣いが汚いよ」
「誰の所為だよっ!」
「カルシウム不足が原因と見えるわ」
「違うよ! 鳥籠女の所為に他ならないよ!」
「どこの国の妖怪?」
「お前だ!」
非常に扱いずらい子だった、すぅちゃん。そういえば、僕の思い通りに事が進んだことなんて一度もなかった気がする。この子が関係する事象に限っては。
「お父さま……あの能無しがね、私とあらくんの婚約を解くって言ってたの」
「今君は生みの親を能無しと呼んだか?」
「私を産んだのはお母様よ。あの能無しは、所詮孔雀どまりじゃない」
「そうだけどさ……。そこはすぅちゃんが別格なだけだよ」
世間的にみて、孔雀さん、すぅちゃんの父親は決して能無しではない。むしろ、業界では大分高い知名度と能力を誇っていると言っていい。どう考えてもおかしいのはすぅちゃんの能力値なのだ。
「んー、まあいいや。婚約の破棄? でも今更そんなこと言うまでも」
「あるのっ」
「……。どうしてさ」
「結婚したいからだよ、あらくんと」
「ほんと僕の周りには極端な人しかいないよな……」
はっきりし過ぎだ。対処に困るんだよね、そういうの。でも、すぅちゃんが僕の事好いてたのは実は大昔から知ってたことだし……数年会わなくても変わってないのが驚きだけど、その程度の誤差だ。そっか、あのおっさん、ついに書面上の破棄に出たか。
確かに、僕はすぅちゃんを守り切れなかったけど。
でも、孔雀さん。すぅちゃんが望んでるんだよ。貴方の今の立場を作り上げたのは、貴方の娘でしょうが。それを怒らせてどうする。それに、僕だってすぅちゃんのことは好きなんだよ。同時に、研究部の面々も好きだけど。だから基本、僕はすぅちゃんの味方になる。
「おぅけぃ、自体は大まかに把握した。めんどくさいことこの上ない敵だけど、うん、なんとかするよ」
「ほんとう?」
「ああ、僕に任せろ。崩壊は、専門分野だ」
彼女の実家を事実上崩壊させてしまうことになるけど、まあ、すぅちゃんがいれば、僕がいくらぶち壊したところで数年あれば元通りになるだろう。気にしてあげない。
相応の力を持っているのなら、僕は相応の力を持って排除する。
「私も手伝うよ」
「ん? ありがとう、じゃあ、天香具山家のメインサーバーに繋げる? 僕がやってもいいけど、滅茶苦茶跡が残るからさ」
さて、崩壊の時間だ。
彼らが籠の中で黙っているわけがないのです。それに、作者としてもとっととギャグパートに戻りたいんだ!←
というわけで、今回も楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、感想評価等いただければ幸いです。