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鳴き声。翠色の囀り。

※どうしてか知らないけどR15になってしまいました。ご注意ください。

天香具山 翡翠について僕が知っていることは、以下の通りである。

まず一つ、先に知っておいてほしいのは、彼女の名前だ。数十代続く由緒ある天香具山家は、個人に着けられる名すら決まっており、三歳を過ぎて自我を確立するまでは男女構わず『かぐや』と呼ばれ、三度目の誕生日を迎え、厳正に受け継がれてきた時代錯誤もいいところのとんでもない試験を受けたその成績で、ようやくそのランクにあった名を着けられることになる。

天香具山家に受け継がれてきた名は、五つのランクに分かれ最低レベルから順に『(すずめ)』、『(からす)』、『(つばめ)』、『孔雀(くじゃく)』、『翡翠(ひすい)』となっている。男女構わず、鳥の名をそのまま着けられることになるのだが、その中でも、翡翠はずば抜けて才能のある人間にしか与えられず、長い歴史の中でその名を冠したのは唯一、天香具山家初代党首だけだと言う。

そんな、最早同じ時代の、同じ国の人間とは思えないような方法で名前を得たのが、彼女、天香具山 翡翠なのだ。

翡翠。つまり彼女は、初代しか冠することの叶わなかった最高位の名を持っているということ。その才能は類を見ないどころかかつて無いほどの規模であり、五歳にしてアメリカで大学博士号過程を終え日本に帰国後、それまで衰える一方だった天香具山の家を、たった一人で、八歳までに一大企業にまでせしめたほどである。正直言って、同じ人類とは到底思えない程の躍進ぶりだった。僕は当時、彼女がまだ『かぐや』の名を着けられていた二歳のころから従兄として彼女の存在を知っていたが、彼女が三歳を迎え、翡翠の名を得てからは、その強大さに圧倒され続けた覚えがある。とにかく、彼女は別格そのものだった。小さな僕には、幼き僕には、彼女が大学を終えて帰国してきた時七歳だった僕には、彼女の威光は眩し過ぎた。目がくらむ、程度ではとても無い。目が、潰れる。

年に一、二度会うかどうかだったただの親戚たる僕は、なぜだか、ずっと彼女に慕われていた。大人顔負けの語彙を自由自在に操る翡翠の話に僕がついていけるはずもなく、饒舌に語る彼女の話を適当に聞き流しているだけだったのに、どうしてか、僕ら家族が天香具山家と会うとき、翡翠は僕のそばにいた。

小学校に入っても、それは変わることなく、どころか、ますますもって、彼女は僕に近づくようになった。というのも、彼女が親にかけあって、僕と同じ小学校に入学してきたのだ。どんな特例を認めさせたのかは知る由もないが、三つ下の学年のはずの彼女は僕と同じ教室にいて、授業中から放課後まで、ほぼ全ての時を僕の隣で過ごしていた。光るエメラルドの髪に同色の眼、異常なまでに整った顔立ちの翡翠が目立たないわけは、当然ない。僕は疎まれ、いつでも一人、いや、二人だった。

僕は彼女が好きだったし、彼女もまた、あけすけに僕に好意を向けてくれていたので、別に、そのことについてどうということは、全く無い。

無かったのに。


四年生になるころ、僕の、科学者としての才能が頭角を現してきていた。理科と算数のテストでは、まるで勉強もしていないのに軽く満点を取るようになり、それから、インターネットや機械類にも手を出すようになった。必然、僕がそれに没頭するには隣をついてくる彼女の存在は邪魔であり、その上、彼女はすでに大学課程を終えているほどの脳を持っているのだ、僕が知りたいことぐらい、全部知っていた。そのどうしようもない事実が、ようやくやりたい事を見つけた僕の劣等感を増幅させていったのは、きっと、やはりどうしようもないことだったのだと思う。僕は徐々に彼女を遠ざけるようになり、勉学の面では異常なまでの能力を発揮する翡翠も、幼き頃からろくな人間関係を築いていなかったため、困惑し、目に見えて落ち込んでいった。結局僕は両親に頼み込んで転校し、彼女は、持ち前の才から不明をなくそうと、自分の年齢に合った学年に降りて行った。


ここで、僕と翡翠の関係は、完全に断たれたはずだったのだ。途切れきれていなかったその糸がまた強さを取り戻したのは、僕が中学で一人、研究部を立ち上げて活動していたころだった。

その時、眠っていた才能を開花させて翡翠をも超える研究成果を出し始めていた僕は、偶然、これは本当に全くの偶然で、とある裏業界の情報を入手していた。

簡潔に記すならば、それは『天香具山 翡翠暗殺計画』に他ならなかった。全世界に、財閥として解体されるぎりぎりの規模で巧妙に展開していった天香具山家は、当然、幾らかの企業には良く思われていなかった。してそこは外国の強さ、本物の殺し屋に依頼が行き、翡翠が狙われることになったのだ。


その計画は、呆気なく崩壊した。僕が、この手で、初めて崩壊させたのが、それだった。


純然たる破壊。混然たる崩壊。当然たる死。全てにおいて、その時、僕は破壊を尽くしていた。翡翠を救い、僕の才能と実績を見込んだ天香具山の現党首より婚約者に定められ、なし崩しに。それで済んで入れば、あるいは、僕は世界の崩壊なんて、考えなかったのかもしれない。


それもまた、必然と言えば、それまでの事だった。

僕は、明らかに幻滅を覚えていた。幼い自分に圧倒的な姿を見せつけていた翡翠。僕の願望を、僕のやりたい事の事ごとくを、まるで至極当然のようにこなしていった、妬みや憎しみすら覚えさせていた翡翠。そんな強大極まりない存在が、劣等種だった僕に、たった狭義の世界ながらも、超えられてしまったのだ。その時点で、彼女は僕にとって絶対では無くなっていた。

そこで止まってくれていれば、と、今更ながら、僕は思わずにはいられない。なぜそうなったのか。なぜ止められなかったのか。僕は、僕ならば、僕が余計な気を起こさなければ、彼女は、痛みなど知らずに生きて行けたのに。


彼女は暴漢に襲われた。最後まで、奪われはしなかったものの、滅茶苦茶に、ぐちゃぐちゃに、犯された。犯人は、当時、高校一年の僕に発明の依頼をしてきていた男だった。

翡翠は、僕を怨んじゃいなかった。僕に怒りを向けることすらしなかった。一言も、愚痴すらこぼさなかった。「大変だったよ」と、弱弱しい笑顔で、精一杯の虚勢で、一言。ふつうの。女の子にしか見えなかった。

僕が、壊れた。


崩壊を望んだ。平和的な、否、完全な崩壊ではなく、単純な、誰の目にも明らかな崩壊を、僕は望んでいた。暴力的な兵器を持って物理的に壊し、殺す。発狂電波を流し、精神から壊し、殺す。世界から、あらゆる全てを、何もかもを破壊しつくしたかった。


僕を止めたのは明音さんで、僕を助けてくれたのは美稲だった。美稲とは、翡翠が丁度アメリカにいるときに親しくなり、以降、翡翠といないとき、僕は彼女と過ごしていた。

終わってみれば、被害なんて一つも無かった。翡翠が傷ついて、僕が傷つけて、二人に助けられた事実だけが、残った。

僕は、完全な世界の崩壊を、望むようになった。


翡翠と僕の関係性は、だから、もう一人の幼馴染たる美稲よりも深く、そして、研究部の誰よりも強く結びついていた。

例の事件についての見舞い以降、一度も顔を合わせていなかった翡翠が僕の元を訪れたのは、何でも無い日常だった、八月の中旬の事である。

作風完全崩壊の暗黒回。暗い過去でもないと世界崩壊願望はおかしいとは言え、流石にやり過ぎた感がなくもないです(笑)

多分テスト週間な作者の精神も関係してるんじゃないかと。論外。


というわけで、翡翠ちゃんの説明でした。美稲やあきねっちとの過去話はしばし置いておいて、翡翠参加の理由を次回、書いていきたいと思います。


それでは、よろしければ感想評価等よろしくお願いします。

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