滔々と。起動実験、草々にて。
空は青かった。雲ひとつない、なんて、地球が地球である限り不可能じゃないかと思っていたのだけど、どうやらそうでもないらしい。僕が見上げるその空に、白んだそれは一切見当たらなかった。どこまでも均等に、ただひたすら青。さしもの僕でも感銘を受けずにはいられない。
上空から目をはずし、今度は目線を真っ直ぐ前に向ける。こちらは緑。どこまでも草原が広がっていた。草原の終わりには三百六十度例外なく木々が茂っていて、なるほど、森の中の広場と形容したくなるのもうなずける。誰が言ったのかは知らないけど。
さて、そんな青と緑しか存在しない世界。なんか赤坂姉妹しかいないみたいでぞっとしないけど、まあ、くだらない駄洒落は置いておいて、だだっ広い草原である。
「先輩、東南東、セット完了しました」
草原の丁度中心になるようにとある三角錐を設置していると、同じく東南東に設置を頼んだ蒼ちゃんが戻ってきた。普段通りの制服でも、こないだ見たパジャマでもなく、私服姿である。真っ白なワンピースは、落ち着いた蒼ちゃんの雰囲気に中々似合っていた。
「うん、ありがとう。他の三人の首尾も見に行こうか」
「はい」
言って、僕らはそれぞれ違う方角に出向いている研究部面々を集め、それでようやく準備を完了させた。
何の準備か。ずばり、この間組んでいた気象予報装置の起動実験である。ここは例によって三笠家所有の広大な山奥にある私有地で、僕らは夏休みの一日を使ってここに実験に来ていたのだった。
全員が見守っていることを確かめて、僕はメインの三角錐と繋いだノートパソコンのエンターキーを押しこむ。ピ、と電子音が鳴って、それぞれの設置場所から小型衛星が飛び出した。次元空間に対する思想と知識はあまりないし、今回の実験が成功してくれると、僕としては目標に続くとても大きな一歩になるんだけど。結果はとりあえず、四時間は後の夕方だ。
それまで、暇つぶしだ。
「美稲、お茶持ってきてくれてるよね」
「ん」
僕が促すと、美稲は人数分の紙コップと大きめの魔法瓶を取り出して僕らに紅茶をまわしてくれた。ふむ、用意周到だ。
「ちょっと休んで、そしたら遊んでようか。時間は無駄に有り余ってるんだし」
「そうね。丁度良く、ここにバットとグローブとボールがあるわ」
「普通に野球道具って言えばいいと思う」
三笠さ……あきねっちの捻くれようは僕ですらかくやと言うほどだった。ていうか、心の中で三笠さんって言いかけただけで並々ならぬ殺気を感じるのはなぜだろう。超能力者? いや、それは大いに結構だけど、読心術だけはやめてほしい。おめおめと思考にも浸れない。
「じゃあ野球やろうよ、顕正くん」
「はいはい、あとでね。今の内にピッチャーだけ決めとこうか?」
「いらないわ」
とみか……あきねっち。なんで?
「ノックで十分よ。男の貴方が圧倒的優位に立つのは面白くないし、そのあたり、私が特別ルールを考えてあるから」
僕も大した運動神経を持ち合わせちゃいないんだけど、まあいい。「それで、そのルールってのは?」
「ええ。バッター……つまりノックするのが三人で、獲るのが一人」
「待て、読めたぞ。その一人を僕に仕立て上げる気だろ。せめて二人にしてください」
「無理よ、グローブ一つしか持ってきてないから」
「用意周到!?」
最初からそのつもりだったらしい。本当にこの人は、なんか色々壊れてる。
「失礼ね、捻るわよ」
「君以上に捻ることなんかできな……捻る!? 人体をか!?」
怖いこと考えるなぁこの人は本当にっ!
いざという時のために生命補助装置あたりを作っておくべきか。最大の敵は身内にありとか、嫌過ぎる。
「野球は却下! 人数も道具も足りないみたいだしっ」
「そ、まあいいけど」
あっさり引き下がるあきねっち。それはそれで怪しいんだけど。
「顕正、なら、鬼ごっこ」
ならば、と、さっきまで黙っていた美稲が挙手する。鬼ごっことはまた、懐かしいものを。確かにここは広いし、悪くは無いかもしれない。
「美稲にしてはまともな案だな。じゃあ、そうする?」
「待って顕正」
「何」
「一つルールがあって」
またルールか。駄目だ、研究部員のこと、絶対まともなルールじゃない。
「顕正は男しか狙っちゃだめ」
「僕永遠に鬼じゃないか!」
そのルールだと鬼ごっこが成り立たなくなる! しかし美稲、お前だけはいつでも僕の味方でいてくれていると思ったのに……。
「だって、顕正、そうすると他の子狙うじゃない」
「……」
独占欲って、僕のイメージでは女の子から言われるとうれしいはずなんだけどな。いや嬉しいんだけど、状況が状況、僕が誰かと付き合うようなことがあったら僕は美稲に殺されるのかもしれない。いや、無いけど。
「鬼ごっこも、却下だ……」
このメンバーで話がまとまるはずが無かった。これは僕の采配ミスなのだろうか。
「あ、それじゃ、顕正くん」
と、今度は緑。……不安要素しか見当らなかった。
「草原だからって、やることはいつも通りでいいんじゃないかな?」
……? 緑の言葉に理解が追い付かず、僕は首をかしげる。美稲と蒼ちゃんも同じ風に怪訝そうな表情をしたが、あきねっちだけは得心したように頷き、
「そうね、どうせ最終的にそう落ち着くでしょうし。このまま、不毛な会話を続けましょうか」
ああ、なるほど。
考えるまでも無かった。どうせこのまま何をするか話し合い続けたところで、決まらずに時間が来るだろう。だったら、何を話していても一緒だ。と、そういうこと。
「まあ、僕らはそれでいいんだよね」
つぶやく。誰に言ったわけでもないけど、皆黙ってうなずいていた。
いいさ、じゃあ、僕らは不毛な時間を過ごそう。
ちょっと停滞気味なテンションでした。作者が。
実験結果が出て一段落したら、多分また前回のようなギャグ方面に戻ると思います。恋愛? ……まあ、要所要所に。
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