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蓼食わず。虫食わず。

力とは何だろう。

愛か、憎しみか、もしくは単純に肉体の筋力か。

突き詰めていけば真理にたどり着くだなんて、そんな簡単なことを言うつもりはないけれど、強さには、力には、どこかにゴールがあると思う。人によってそれぞれ、違う結末だとしても。それでも、たどり着ける場所があるなら、たどり着くことができるなら、僕は。

「顕正くーん、何やってんの?」

僕は、そこにたどり着きたいと、思うんだ。

「顕正くーん?」

僕は、そこを目指したいと、おも「おうい、けーんせーくーん」だぁもう五月蠅いなっ!

「なんだよ、僕今忙しいんだけど」

「おお、なんだか名前で呼ぶようになってから急に態度がゾンザイになったね」

気のせいだよ、慣れだ慣れ。

「ふぅん。で、何やってるの?」

「……どうでもいい、どうでもいいんだけどさ、緑。しかしいくら名前呼びを、君付けを許したからって君こそ僕に対する態度がゾンザイじゃない?」

「変わってませんよ、あたし。前からこうだったでしょ?」

「言われてみたらそんな気がするから厄介だね。確かに、緑から僕に対する敬意を感じていたのはかろうじて『先輩』がついてた時ぐらいだったかもしれない」

というかこの後輩、そもそも敬意と言うよりは遠慮の感情で『先輩』をつけてたみたいだけど。

「んー。一応立場上肯定はしませんけどね」

それは肯定と同義だと思うんだよ。

「それはそうと、最初の質問に答えてよ。何やってるの?」

「研究」

「そうじゃなくて」

「発明」

「……顕正くんは人の態度に文句言える立場に無いと思う」

流石に呆れたらしい。狙い通りだ。いや、嘘。

僕は手元で組合せていた四角錐の装置を、緑に見える位置に持っていった。

「単純な装置だよ、気象予報。気象のコントロールによる世界崩壊が可能かどうか調べようと思ってね。まずは百パーセントの予報装置を作ろうかと」

「へぇ。それって、出来るの? 現実的に」

「うん。現存の天気予報だって空の様子を見て予報しているんだ。それをより高度な計算でもって導きだせばいいんだけど。それだとスパコンが必要になるからね、流石にそこまでの準備は高校では無理ってことで……『本当の意味で』予報をできるようにプログラミングしてるんだ」

「本当の意味?」

「端的に言えば、未来予知だね」

全世界の空模様を把握して、タイムマシンの如く数時間数日先の様子を探る。僕の専門たる科学的根拠は一切関係なしになるけど、僕の発明は大体自然の摂理なんてぶち抜いているから今更問題にもなりはしない。非現実に、ファンタジーであるほど僕の発明は意味をなすのだ。

「ふぅん。ちょっと興味無いなぁ。飲み物買ってくる、顕正くん何がいい?」

難しくて理解できなかったらしい。もしくは、馬鹿らしくて、か。彼女も頭は良いみたいだから後者なのかもしれない。にしても、緑はあらゆる意味で自由過ぎた。勝手に絡んできて、こっちが応対し始めたら離れて行く。小さな子どもとさして変わらない。

「ドクペ」

「はいよー」

僕の依頼を聞いて、緑は研究室を出て行った。ドクターペッパー。名称からして科学者たる僕が飲まないわけにはいかない。おいしくないけど。それに、この高校の自販機にも、ついでに購買にも存在しないけど。イジメジャナイヨーシツケダヨー。

さて、話し相手が消えて暇になった。僕は何の気なしに部室内を見回す。お気に入りの『発明墓場(僕の駄作置き場だが、ハライタタ光線銃を始め、三笠さんご執心のファンシーぐっずが眠っている)』を観察している三笠さんと、目があった。気づいた彼女が声をかけてくる。

「山羊の」

「メェ~。なんだい三笠さん。僕は萩野だよ」

「そうだっけ。まあいいや、『三笠さん』って、『お母さん』と響きが似てると思わない?」

「全く思わない」

「甘いわね、羊の。二文字目の『か』と語尾の『さん』が被ってるわ」

「羊じゃねぇよ、最早響きすらあってないじゃないか。それと、三文字目の『さ』と『あ』は母音が一緒だね」

不毛な会話だった。羊だけに、狩られ終わって不毛。あんましうまく無いな。

「さっき緑ちゃんにパシらせていたようだけど」

「パシらせるとは人聞き悪いな」

「そうかしら? パトラッシュさせてって意味よ」

「ゴメン僕の脳では君のボケを処理しきれないんだ」

なんだよパトラッシュさせてって。動詞なのかパトラッシュ。パトラッシュる?

「パトラッシュるっていうのは、そうね、考えればわかるんじゃない? あのワンコロの最期を知っていれば、だけど」

「後輩を殺す気なのかっ!」

しかも凍死だ。中々たちが悪い。三笠さん、やはり恐ろしい人だった。金持ってやつはどこか壊れているものなんだろうか。いや、たとえ僕の邪推があたっていたとしても三笠さんは別格だろうけど。

「失礼ね。首締めたいくらい」

「一々逐一始終万事バイオレンスだね君はっ!」

「バイオレンスだなんて、いやらしい。萩野はいつからそんなエロエロになっちゃったのかしら。発情期?」

「僕にはバイオレンスって単語のいやらしさが理解できないよっ。それと、僕は自分がエロく無いといい張ることはしないが、せめて発情期はやめてくれ! 普通に思春期だよ僕はっ!」

ああもう。突っ込みが長くなっちゃったじゃないか。

「はっ、めんどくさい男ね」

「もういやだ!」

僕撃沈。きっと今の数秒間、僕は世界一可哀想な子だっただろう。僕の客観が惨めを伝えてきていた。主観はとうに地に埋まっている。

「何よ、冗談じゃない。そんな落ち込まれると私が悪いことをしたみたいに見えるから止めてくれる? とっても遺憾だわ」

せめて自分が悪いことくらいは自覚しておいてほしいところだけどね。言わないけど。これ以上傷を増やしたくない。僕の心はもう修復不能なくらいに傷ついた。

「萩野程度の人間の所為で私が嫌な奴に見られるなんて、うわ、想像してみたらほんとに最悪ね。萩野、責任とりなさい」

「あんまりだ!」

言いがかりにもほどがあった。て言うか、何も言わなくても僕に安息は無いみたいだった。

「三笠さんなんて大嫌いだよ……」

「ん、それは困るわね。ごめんなさい、もうあんまりしません、許してください」

全然しないでほしい。

「それは無理よ。私の生きがいが減るじゃない」

「人を傷つける生きがいなんて捨ててほしいよ僕は」

自分が標的なのだから尚更だ。三笠さん、底知れない悪魔である。

「むぅ。仕方ないわね、じゃあ、言い訳するわ。あれよ、好きな子にはつい意地悪したくなっちゃう、醤油学生男子の心境」

「一番の突っ込みどころはあえて無視させてもらうけど、君は女の子なんだから小学生男子の心境を語るのはやめなさい」

なんだよ醤油学生って、てのは、心の中だけで突っ込むことにした。

なんで僕は朝から、気心知れた部活動の仲間に苛められているのだろう。皆僕の事が嫌いなのだろうか。緑と美稲は好きだって公言してくれてるはずなんだけどなぁ。あ、緑の告白は返事しなくていいんだろうか。何も聞かれないけど。後で聞いてみよう。

「相変わらず、冷めてるわね、そういうところは。まあ、私は萩野のこと嫌いじゃないわ。むしろ、ニ択なら微妙の方を選ぶくらいだわ」

「なんでそこのニ択が『嫌い』と『微妙』なんだ!?」

「勘違いしないで。『微妙』と、『劣悪』よ」

「劣悪!?」

「だから、微妙の方を選んだんじゃない。仕方ないわね、そこまで言うなら、言ってあげる。私は好きよ、萩野の事」

「それはどうも。流れの中で、そんな心底いやそうな顔で言われても嬉しくないけど、嬉しいよ、三笠さん」

「どういたしました?」

「なんでそこで疑問形なのさ」


全く無駄な会話をして、僕らはそれで楽しいみたいだった。こういうとき、僕はたまに思ってしまうんだ。世界を崩壊させる必要なんて、無いんじゃないかって。そういうわけにはいかないことだって、分かってるはずなのに。

三笠さんは意地悪な笑みを浮かべて僕を見据えていて。

美稲は、今日も休みで。

緑は、あの性格だから、多分外までドクペを探しに行っていて。

蒼ちゃんは、そこの机で無防備に眠っていて。


僕は、ここで、こんなにも楽しかった。ああ、もう、発明が進まないじゃないか。

現時点でできる限りの日常です。

歴代最長ここにあり。日常の会話文は、興にのるとどんどん指が進んでしまいます。楽しいなぁ、執筆。


くだらない駄洒落を織り交ぜつつつまらない日常の一風景を書いてみましたが、まわりから見てバカっぽくても、つまらなくても、当事者にとってそれが楽しいと思える日常は、やはり大事なものだと思うのです。

こんな馬鹿らしい掛け合いを実はメインで書きたい今作なのですが、ゆるゆるだらだらなこの雰囲気に付き合ってやってもいいって人は、是非とも、今後も彼らの日常を追ってみてください。


それでは、感想評価等、よろしければ。

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