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叫ぶ深緑。素顔、有体のまま。

らしい、なんて言葉は、本来他人はおろか、自分自身ですら定義できようもない、漠然とした、意味を持たない言葉だ。ここで言いきってしまうのは僕「らしく」ないところだが、でも、この度は、あえて断言をしておこうと思う。

なぜなら、これは、そういう類の。


赤坂 緑の、素顔の話だからだ。



ありのまま、なんて言葉を使ってしまうと易く聞こえてしまうのは否めないが、僕の知らなかった彼女の姿を、知らなかった僕の側から見るのならば、それは確かに、彼女の素顔、ありのままの姿だったのかもしれない。勿論、事実は調べようもないことなんだけど。

蒼ちゃんが風邪で寝込んだという翌日、めんどくさいから行かないという美稲(美稲は僕が行こうとも、部活だけは行かないことがある)を置いて一人で部室に入ると、案の定、三笠さんも来ていないようで、昨日と同じく赤坂姉だけが椅子に座って暇を持て余しているようだった。どうやら、蒼ちゃんはまだ全快していないらしい。

「やあ、赤坂姉。蒼ちゃんはやっぱり風邪?」

「あ、先輩、おはよー。うん、蒼ってば、余計に風邪こじらせちゃって。あたしがやるって言ったのに、家事手伝おうとするから」

なるほど、僕のイメージする最近の蒼ちゃんだと、確かに無理してでも家事を手伝おうとするのかもしれない。でなくても、僕なら赤坂姉にやってもらおうとは思わない。思えない。

「あ、今失礼なこと考えたでしょ?」

「なんのことかなあはは。と適当に誤魔化してはみるけど、ほんと、そういうときの女性の勘ってやつは、的中率が恐ろしいよね」

「図星ですかっ」

ぺし、と、肩を軽く叩かれる。この子は相手が先輩だろうと後輩だろうと容赦なくコミュニケーションをとってくる。無口な(最近は化けの皮が剥がれてきたけど)蒼ちゃんとはまるで正反対とも言えるキャラだった。同じ環境で、どうやったらこんなに性格の違う人間が出来上がるのだろうか。甚だ疑問だ。

「あ、また失礼なことを――――」

「言えば毎回あたるもんじゃない! 人を疑うのは最も恥ずべき冒涜だと昔友のために走りぬいた男が言ったのを君は知らないのか!?」

「き、急にどうしたんですか先輩!? なんかキャラ変わってますよ!? 顔、顔が劇画風にっ!」

図星だからだった。僕はとても失礼な人間だった。失礼極まりなかった。姉にも妹にも、等しく失礼なお下劣野郎だった。

「そこまで言ってないです」

「心を読まないでくれますか?」

ついつい丁寧語が口をつく。全く、愉快にもほどがある。その代り話は進まないが。

「ふむ、治っていないんだったら、そっか、村雨様の出番か。今日あたり、お見舞いに行かせてもらってもいいかな?」

僕の問いに、赤坂姉は間を空けず頷く。

「勿論っ。蒼も喜ぶと思うよ!」

それは光栄。ただ、本来なら村雨様は使いたくなかったんだよなぁ。使用するたびに寿命が二千分の一秒減るから。僕の発明にしては中々程度の低い出来だった。

僕の作る発明品つけられた名前には、それぞれランク付けのようなものが、無意識になされている。ことに、中学を出てしばらくしてから気づいた。

例えばハライタタ光線銃のような例外もあるにはあるが、僕は基本、自分の発明には「ちゃん」「くん」「殿」等の愛称をつけることがある。愛称の定義は今ここに崩壊した。

それで僕の場合は、その愛称が仰々しく、他人行儀であるほど、その発明が駄作だということに繋がる。だませーる君はだから僕の中では最上級で、この村雨様は、あまり由とはしがたい発明だった。基本僕の発明にリスクなんて伴ってはいけないのだ。

閑話休題。どうでもいいにもほどがある。程度があるってことは、ちゃんと守らなきゃいけないってことだ。それもまた、何か間違ってる気がしないでもないけど。いや、するのだけれど。

「それじゃ、今から行こっか、先輩」

「は? 部活は?」

僕の困惑をよそに、赤坂姉は「どうせやることないでしょ」と僕の手をつかんで歩きだす。失敬な、僕には世界の崩壊を進めるという格式高い入用が……考えるまでもなく、二の次にして問題ない用事だった。

「わかったよ、じゃあ行こう」

赤坂姉の手を邪険にならない程度に振りほどいて、僕は体の主導権を取り戻す。


この後僕が見ることになるのは別人のような、いや、まさしく別人そのものな赤坂姉の姿で、そして、この後僕が知ることになるのは、それこそ、素顔と呼ぶべきの。それこそ、ありのまま、有体そのままと言うべきの、彼女のまぎれもない、本当だった。


赤坂の、「青」の姉は何故「緑」か。

そこに意味は、もしくは、あるいは、あったのかもしれない。あったのかも、しれなかった。

二十話め突入です。読者の皆様には感謝の限りを伝えたい所存であります。


さて赤坂姉、緑の話になっております。彼女の場合は、今回は過去は見送って、時間軸を現在において綴っていくつもりです。はてさて、顕正の知らない、顕正を助けた時の緑とは全く別の彼女。一体どうなるのでしょうか。勿論、作者も知りません。え。


それでは、感想評価等、よろしければお願いいたします。


追記。

外伝の方も執筆中ですが、あちらは一度紙の方に書いてからの投稿になるのでこちらほど早くというわけにはいかないのをご了承ください。

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