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新学期。始業、十全。

 教室に入ってきた担任教師が僕の顔を見るなり露骨に嫌な顔をするのは中学の頃からのもはや恒例行事で、まぁそれに関しては、ひとえにいろいろな意味であらゆる方面に名高い僕の宿命のようなものだから、眉を顰めるまだ若い女性教師ににっこり笑顔を返してあげた。厳しいことで有名な学年主任のベテラン爺さんか人気の高い爽やかイケメンお兄さんあたりが来るかもと思っていたけれど、両者とも逃げてまだ就任二年目そこらのこの人に押し付けたらしい。かわいそうに、笑顔の僕と目が合うなり彼女はびくりと視線を逸らして、少し足早に教卓についた。別に脅かすつもりはないんだけどなぁ、なんて、明音さんあたりに言ったら鼻で笑われそうだ。

「ねぇ、顕正、この女、どの程度脅せば出席ごまかしてくれるかしら」

「あはは、明音さん、わざわざ担任を脅しつけたりしなくても、もう僕はそっちの話はつけてるよ」

 まったく、明音さんはやっぱりラジカルだなぁ、野蛮なのは良くないよ。そうねうふふ。快活に笑い合う僕らに、何故だろう、担任は怯えたような目を向ける。

「まぁ、せっかく貴方が前の席にいるんだから、好きな男の背中を見つめて授業時間をやり過ごすっていうのは、青春っぽくて良いかもしれないわね」

「そうだね、せっかく君が後ろにいるわけだし……。席替えまではちゃんと出席しようか」

 同じクラスになれるようにってあれだけ願ったさっきまでの僕も、結果として出来レースだったとは言え、その方が報われるだろうし。

 終始僕らを気にしていたかわいそうな担任がホームルームもそこそこに教室を出て行って、始業式までしばしの間、僕たちは暇な時間を得る。椅子に横に掛けるようにして後ろを向くと、そこには僕の後ろの座席につくことになったばかりの秋音さんがいた。さっきから話しているわけだし、当たり前だ。

「あぁ、去年は無かった光景だ。ちょっと感慨深いものがあるね」

「えぇ、退屈で死にそうだった教室での時間が、これでだいぶ楽しくなるわ」

「……珍しく素直に可愛いことを言うね……」

「ふふ、貴方、わりとこういうのに弱いでしょう?」

 ぐあ。にまっと悪戯っぽい微笑みに脳が揺れる。笑みの種類まで使いこなしているあたり、完璧にあざとい。

「くっ、そう簡単に僕を落とせると思うなよ」

「あら、もうとっくに落ちているものかと思ってたわね」

 まぁ、そうなんだけどさぁ。圧倒的劣勢に呻いていると、戻ってきた担任が始業式のため体育館に向かうよう指示を出した。救われたような釈然としないような、軽く息をついて立ち上がった僕の無警戒な右頬に、そっと触れる柔らかな感触があった。

 ゆっくり離れる明音さんの顔を見て、頬にくちづけされたことを悟る。あぁ、やばい、僕は今、間違いなく赤面している。

「一年、よろしくね、顕正」

 そう言って優雅に……優雅そうに見せかけて微笑む彼女の顔にも、多分僕と同じくらいに赤みが差していて、これだから、敵わないなぁ、まったく。

 後方のドアから教室を出がてら、いつの間にやら登校していたらしい山上の手刀が「見せつけてんじゃねぇよ、リア充が」の言葉と共に僕のみぞおちに突き刺さった。

 リア充って、こいつも大概表の文化に染まってきたものである。忌々しいことに、楽しくなりそうだな、新学年。

 最終投稿日を見て天を仰ぎました。大変お久しぶりです。彼らの一年は果たして私にとっての何年なのか、青春時代が長くて羨ましい限りです(違う


 今年中にもう一回以上は更新したいところです(白目)、今回もありがとうございました。


 草々。

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