躻ヶ島。足跡、浜辺にて。
愉快痛快爽快欣快。『快』は数あれど、僕はやはり崩壊に尽きる。
ただしこの場合は、単純に、僕の秩序の崩壊だけど。
合宿2日目、浜辺……否、三笠家プライベートビーチにて。
一言で、誰の目にも明らかに、表現しよう。
「……眼福なり、だね」
まあ、そういうことである。僕はと言えば別荘の庭にて日差し避けのパラソルを開いて、浜辺や海を遊びまわる少女達を眺めているだけなのだけれども、いや、蛇足だったね。
今の状況、僕の話なんざどうだっていい。
僕だって男のはしくれだ、現状を、彼女らの水着姿ってやつを、微力ながら描写しようじゃないか。
まずは三笠さん。
彼女は普段の傾向通り、というか、これは正直残念なことに三笠さんの感性というか美的センスは果てしなく最悪なのだけど。今回もそれは如何なく発揮されているようで、あたりさわりのない、むしろスタイルの良い彼女が着けることによって一般のそれより抜きんでた魅力を生み出す普通のビキニなのだが、色がやはり奇特である。最早、残念過ぎて危篤と言っても過言ではない。日本語的に過言にもほどがあった。
深緑と深紅のストライプって。三笠さん、もしかして深緑が好きなのだろうか。
が、それでも、だ。三笠 明音という、非常にスペックの高い人間が着けているというだけで、ともすればスイカ柄とも言えてしまうような残念なビキニでさえ、どうにも現わしがたい魅力を発しているのだった。美少女はその辺、とても卑怯だと僕は常々思う。
次、美稲。
美稲の方はセンスも申し分なく、それにやっぱりコイツも元が良いため、普通の赤いビキニ姿なのに妙に映える。彼女については、これ以上描写のしようもないだろう。さっきから僕に意見を求めてくるのだ。あんまし近づかれると僕の煩悩とか煩悩とかが刺激されるからやめてほしいんだけど。
「顕正、これ、どう?」
「ああうん、可愛いよ、普通に」
「ふつうって何」
あ、少し怒った。誤魔化しだよ、照れ隠しだよ、察しろ。
「ふつうって何」
「だぁもう。分かったよ。可愛いよ、似合ってるよ美稲。君が着て可愛くないものなんて世の中には……あまりないよ」
あるにはあるに、やっぱり決まっていた。断言はできないよね。
「ん、ありがと、顕正」
その辺分かっていたのか、それとも後半聞いてなかったのか美稲は満足したようで、軽い足取りで砂浜へとまた走って行った。名残惜しくなんかないよ。これは本当、だって僕の煩悩とか煩悩とかがね。
まあいい、次行こう、次。赤坂姉である。
彼女はなんというか、性格に合った、少しフリルのついた、少なすぎる僕の語彙で表すなれば子どもっぽい、やはりビキニだった。名前に合わせたのかは知らないが薄い黄緑色だ。
うん、今更ながら、この研究部の面子に水着姿が似合わない人間がいるわけ無いじゃないか、僕以外。
ので、当然のこと、赤坂妹こと蒼ちゃんも、群青っぽいパレオ姿はとても映えていた。
僕ハーレムじゃん、あっはっは。
……。
……いや、分かったよ、説明するよ。
さっきは蛇足だと言ったけれど、実際、僕の状況が一番異質だった。異質、と言いきってしまうには情けない上に恰好悪いから撤回させていただくとして、では僕の状況。
日差しを避けるように立てたパラソル。それはいい。ただ、その下で美稲と、ほんの少し前に話していた僕なのだが、そう、彼女がここに戻ってきていた理由は、僕に水着の感想を求めるだけではない。
端的に言って、熱中症及び心労で倒れた僕の介護だった。
我ながらに情けない。浜辺でぼうっと、昨日の事やら、今日の帰りの運転のことを考えていると、なんだか目線が定まらなくなったのである。
運動不足も要因の一つなんだろうなぁ。急に山道を、二度も歩いたから足だって筋肉痛だし。
異質なんて言葉は全く当てはまらなかった。むしろ虚ろと言った方が正しいかもしれない。僕の存在が、虚ろ。躻ヶ島だけにね。うまくねぇよ。
全快はほど遠く、運転だって心配しかない。けど、まあ。
「せんぱーい! 起きたんならこっち来て、遊び倒そうよ!」
快活な赤坂姉の声に誘われて、僕はもたれ掛かっていた椅子を立った。
無事に帰ったとして明日、いや下手したら明後日までも、僕は動けない、どころか寝過ごすかもしれないけど。
それでも、今この合宿を楽しめなきゃ、それは嘘ってもんだろう?
脈絡は無い。脈絡なんかいらない。僕らはだって、研究部である。
死ぬほど走りまわって、僕らは空がオレンジに染まるまではしゃぎ続けた。
躻ヶ島編もうじき終了です。
水着描写ばかりで行とってるじゃないかというお言葉には残念ながらお答えできませんが。
あえて言おう、俺は水着より制服に萌える!!←
聞いてないですね。聞かれてないですもん。
というわけで、自己紹介以外でようやく話の節目を迎える本作です。
まだまだ続けるつもりなので、是非とも応援よろしくお願いします。
よろしければ感想評価等お待ちしております。