赤坂妹。淀む空。
ついにユニークユーザー数500突破。皆さまに感謝です。
その時、僕は大きな失敗を犯した。
いや、そもそも、僕が生まれたこと自体、この惑星の失敗ではあるのだけれど。
その失敗たる僕は、そして、また失敗を重ねる。
五月。皐月。の、中旬。
夏である現在みたいな殺人級の暑さもなければ、少し前の梅雨の如き湿気もまだ無い、過ごしやすいとは言い難いものの、それなりに気候に気を使わず生活できる、そんな時期。
「なんだってんだよ、くそ」
自重もなく、毒づく。周囲には誰もいないので、こらえる必要もないんだけど。手元には、ついさっき原型もとどめないくらいに大破した、『修整専用ドライバー』がある。このドライバーは壊れた機械のみに使用でき、その状況下でのみかなりの有用性を発揮するものである。
そして、この僕が作ったそのドライバーを、完膚なきまでにぶっ壊したマシンは、依然として僕の目の前で、扇風機みたいな駆動音を唸らせながら稼動している。いや、厳密にいえば、この機械は、暴走している。
『ダストイレイザー君』と名付けられたそれは、当然の如く僕の発明の一つである。用途はその名の通り掃除で、プロペラで浮遊する円盤の腹部から、埃や汚れを粒子レベルに分解する幾何学光線を発生させるものなのだけど。
そのダストイレイザ―君が、研究室に紛れ込んでいた蟻を消滅させたことから、この事件は始まる。
初期設定の段階で、この機械は生命を持つものは避けて稼動するはずなのに、狙って蟻を消したのだ。これは故障で間違いない。修復を狙って先のドライバーを持って近づいた結果が、今のこれである。
あの野郎、いや、生命ないから野郎って言うのは間違いない気がしないでもないけど、でもあの野郎、むしろ動くものを率先して狙う方向性に変えたらしい。製作者に牙を剥くのは感情を持ったアンドロイドだけにしてくれ。
兎角、早急にこの暴走殺戮マシンをなんとかしなくては。
なるたけ動きを察せられないようにじりじりと、這うようにして研究室の床を移動する。ズッっと、制服の擦れる音だけで、ダストイレイザー君は反応してくれた。我ながらどうしようもないくらいに高性能だ。
「ちっ」
舌打ちして、今度は一気に走る。ダストイレイザー君は律義に『ゴミ』以外を避けながら僕に向かってくるので、蛇口等の備品が多い研究室なら直進はできず、逃げるのも幾分か容易くなる。
と、そこで気づく。蛇口だ!
進路変更、破壊に特化した発明品の数々が眠る倉庫に向かう前に、手近な蛇口をひねって水を流す。動くものに機敏に反応するんだったら、狙いを僕から外せばいい。その後も道中ありったけの蛇口を開いて、ついでに割れなさそうなものを投げて、かなりの迂回の末に倉庫前にたどり着く。このくらいしないと直進じゃなくても追いつかれるんだから恐ろしい。
僕は倉庫から一番上にあるものを取り出して、ダストイレイザー君に向ける。銃の形をとっていたそれを、躊躇いなく発砲した。
カチッと、何か気軽にスイッチでも押したような音。と、共に、轟音。
目も開けていられない程の光がおさまるのを待ってからダストイレイザー君のいた方を見やると、哀れ、円盤は跡形もなく、粉々に粉砕されていた。あれに壊されたドライバー以上の惨状である。因果応報だな。
……。
「ははっ」
笑ってみるが、駄目か、やっぱり乾いた笑みになる。畜生。倉庫の扉にもたれ掛かるようにして座り込んだ僕の思考に浮かんでくるのは、その二文字ばかりだ。畜生、畜生、畜生。
何が駄目だったんだ。何を失敗した? どこに暴走の余地があったというんだ?
世界崩壊を目論む僕が、そんな愚かで小さな失敗をして許されると思ってるのか?
僕の腕で、人知れず発動の時を待ち続ける最終兵器を見つめる。悔恨の念が、脳を支配する。
なんなんだよ、ほんと。
なんで僕が、こんなに弱らなくちゃいけない?
もういい、だったら、僕の力を、違った形で現わすしかない。
こんな世界、すぐにでもコワせるんだ。
いつもの机の前に座って、僕はそれの準備に取り掛かった。
五月晴れ、なんて言葉が嘘のように、窓の向こうの空は灰に染まっていた。
顕正はやっぱり酷くもろくて、とても弱い人間ですね。そんな奴に世界が壊せるのか。そんな信念で目的を達してしまっていいのか。
考えてないんですがね、作者←
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