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お礼参り。迎春、かくし事。

椅子を寄せ合って丸くなっていた。いつかの会議と似通った態勢である。いつかって、記憶に新しいことだけど。

部屋の照明は落とされ、その上明音さんが暗幕のカーテンを何処からか(多分演劇部あたりからだろう)調達してきているので真っ暗な室内である。ライターの火がゆらめいては次々と色取り取りの、誕生日のケーキにさすような蝋燭を灯してゆく。火が増える度に明音さんの白い手が浮き上がるようで、何とも言えない不気味さを醸し出していた。手が不気味だなんて、言葉にすれば「失礼ね」レベルの思考である。

「さ、準備完了よ。蝋燭五本。話が終わるたびに一本ずつ、語り手が吹き消して行くってルールで。まぁ、百物語の縮小版ってやつよ」

「五物語か。二十分の一と考えると酷くしょぼくれて聞こえるよね」

「あら、貴方がそういうのだったら百物語に変更しても良いのよ」

「さぁ、僕の話からだっけ!」

五物語で充分だ。それぞれの目の前に置かれた蝋燭の火で各々の表情が窺える。美稲は動じず、蒼ちゃんは暗がりでも分かるくらいに顔を青ざめていて、緑は強気な表情を作ってはいるが目元がうるんでいた。明音さんについては面白そうに笑むだけ、余裕の体だ。

わざとらしく咳払いをして、もう一度全員の顔を見渡してから、僕はふっと息を吐いて語り始めた。さらっと語ってすっきり終わらせよう。それに限る。


 これは僕が一人、暗い夜の部室に侵入していた時の話である。いつもの席で机に向かい、新しい発明品を作っていたんだ。作業は滞りなく進んだ。僕は自分の才能に恐怖した。どうしてこうも、僕は天才なのだろうか! そして発明は済んだ。機材を片付け、僕は一度、部室を見渡したんだ。暗い部室で、宿直にばれないように電気は最低限、自作の『ピンポイントライト』だけだったから、机やいす、壁の輪郭が浮かび上がるくらいで他には何も見えない……。そして僕は、見慣れた部室に視線を巡らせて、とある一点、丁度あそこの棚を観たところで驚愕に目を見開いた! なんとそこには……っ。


「そこには、僕の作った発明品の数々がしまわれていたんだ。恐ろしいほどの才能が詰まったとんでもない発明品がこんなにも! ああ、あの恐怖と言ったら無かったよ……」

〆の一言を終えて、僕は目の前に揺れる蝋燭の一本を吹き消した。風を受けて火は一瞬大きく膨らみ、薄い煙を上げて無くなる。さて、周りの反応を窺ってみよう。

「……顕正くんはつまり、怖がりの私に気を使った内容を選んでくれたんですねヤサシイナー」

と緑。

「先輩、……えっと……」

と蒼ちゃん。

「顕正、死んだ方が良いわ」

これは美稲。

「……むしろ恐ろしいくらいの才能だわ。完敗というか、ええ、私が悪かったわ。ごめんなさい」

と明音さん。

「……あれ?」

評価低くねぇ? 僕の珠玉の一発なんだけど? 緑の眼がさっきまでと違う理由で死んでいた。蒼ちゃんは見たまんま反応に困っていた。あの美稲が僕に死を勧めた。そして何故か明音さんが僕に謝っていた。彼女がここまで申し訳なさそうな顔をしたことがかつてあっただろうか。

つまり、その、なんだ。

「僕の優勝だな」

「「「「それは無いわ(です)」」」」


こうして有耶無耶の内に、恐い話大会は流れたのである。前回とほとんど同じ展開になっている気がしないではないが、僕としては納得いかないことしきりである。

で、

「なんで結局初詣なんだ……?」

「決まってるじゃないですか、先輩の一人負けだからですよ」

何時になく辛辣な蒼ちゃん。至極当然とでも言いたげな口調である。やっぱり心外だ。

「ごちゃごちゃ言ってないでお参りしたらどうです? そうですね、『もっとちゃんとお話出来るようになりたい』とか良いんじゃないですか?」

「僕の話術は神頼みでもしなきゃどうしようもないと!?」

「自覚なかったんですか?」

「……」

ちょっと泣きそうだった。劣勢極まりないのでいつの間にか絵馬を書いている緑に話題を振ることにする。

「緑、何書いてるの」

「決まってるじゃないですか、恋愛成就です。顕正くんを物にするにはちょっと障害が多過ぎるから、神頼みして、排除」

「それは恋愛成就じゃ無くて害敵排除だ」

何処にも共通点なんてねぇよ。とか言いつつ、言い分としては変に納得出来ているところがあった。確かに美稲や明音さんを出し抜くのはこの上なく難しいかもしれない。神にでもできるかどうか。

「顕正くんは何を願ったの?」

「ん? 僕? 何言ってるんだよ緑、僕の祖母が神なんだよ? 別の神なんかに祈りをささげるわけないじゃないか」

「……あ、それ、こないだの一件で無くなったと思ってたんですけど、相変わらず狂信的なんですね」

「何言ってんだよ。確かにあの御方は僕のおばあちゃんだけど、簡単な話、僕のおばあちゃんが神だったんだ。まぁ僕自身、神がかり的な才能を持っているし、母さんも昔から神様だし、当然っちゃあ当然なんだけどね」

「……、あ、はい、そうですね」

最近死んだ目の多い緑である。心配だ。

「そうだ、美稲は何を祈ったの」

「顕正を手篭めに」

「緑よりはるかに直接的だな」

「と思ったけど、自分でやるから、顕正のお母様を少しでいいから弱体化して欲しいと願った」

「うん、それは僕も願いたい」

あの人の神性は異常なのだ。おばあちゃん直伝とか、そんな感じ。詳しくは語りたくも無い。あれと結婚した親父は親父でどうにかしてると思う。

「私には聞かないのかしら」

「……。不安しかないんだけど」

「そんなことないわ、失礼ね」

「……じゃあ、参考までに。なんてお願いしたの」

「……『ずっと一緒に』。それくらいしか思いつかなかったわ」

「「「……」」」

他メンバーから圧倒的な威圧のオーラが感じられた。僕が赤面した所為だと思う。この人は、なんでこう、覚醒した美稲すら凌ぐ巧妙さなのだろう。

「あ、違うのよ顕正。確かに貴方ともずっと一緒がいいけどね、私は、この研究部でずっといたいの」

『!!』

研究部総出で赤面大会だった。まさか明音さんの口からそんな言葉が出るとは。というか、少し照れくさそうな彼女の表情が反則だった。何もかも計算づくなんじゃないかと勘繰らなければ惚れても仕方ない程である。

……とは言え、彼女の言いたい事も分かるのだ。特に僕は、僕が初めて、自分の居場所を感じられた場所だから。皆の好意に甘えているだけかもしれないけれど、でも、出来るだけ、一日でも長く。世界崩壊を願う人間とはとても思えない心情だ。

だからと言うわけでもないけれど。神に願わぬ代わりに、僕が自分で、僕自身の手で、自らの願いをかなえることを、再び強く、決意する。僕は、僕の願いは、ひと時も変わらぬ僕の願いは。

「顕正くん、このままじゃ三笠先輩の一人勝ちっ。そんなの絶対許すわけにはいかないから、だから今から家に来なさい! この私がお手製のお節を食べさせてあげるから!」

「え、緑の作る物って食べれるの?」

「失礼な! 料理は蒼より上手いんだよ!」

「えっ」

「なんでそんな絶望的な目で私を見るんですかっ? 緑の方が上手いってだけで私も別にへたってわけじゃあ……。もう、こうなったら緑! 連行しよう!」

「あいさー!」

「……抜け駆けは許さない、赤坂姉妹」

「ふん、この形勢を逆転出来るほどの料理が出てくるのなら見ものだけどね。私もお邪魔するわ」

「……こうなるよなぁ、やっぱり」

研究部らしい、のだ。うん。

年が変わっても、変わらぬ僕の居場所があった。終わらせたくないと、願う。切に、願う。

お久しぶりになります。ほんとにゆったりペースが板につきつつあります。調べてみると今年に入ってまだ二十話あまり。一話完結は番外的に掲載した四月馬鹿のみになってます。ううむ。


次回は一話完結で、さくっと読める話を予定してます。……どうなるかは分かりませんが。


それでは、よろしければ次回もお付き合いください。


草々。

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