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合流。進行。

俺は今怒ってるみたいなんだよ、と、山上は言った。彼から生まれるものは殺気とか皮肉とか、そういう図抜けて救いようの無い感情ばかりだと思っていたから、これこそ僕も、意表をつかれたってものだけれど。明らかな怒気を孕んだ声色に苦笑する。

「ったく、助けてなんて殊勝なこと言うからいよいよ世界もオシマイかと思ったけど、柔らかくなったな、親友。女の子の為に怒るだなんて」

「いや、この状況だとその女自体に対して怒りを感じているわけなんだが……、まぁ、そうだわな。自覚はしてるよ、今の俺はふにゃふにゃだ」

はんぺんみたいなもんだ。皮肉気に笑うけれど、その例えは上手いのか。

「豆腐ほど脆くはねぇぞ」

「聞いてねぇよ」

さて、さて、余談も良いが本題である。説明下手なのか或いは事細かに説明した方が僕が動きやすいと判断したのか、若しくはただ、話の中に自慢の一つ二つも混ぜたかったのかは知らないけれど、やたらと長い説明だった。して、その最後。

「カードを切ったってことは、睡見さんはまだ無事である可能性が高いってことかな」

「それはまず間違いねぇな。夢姫を殺したらカードを表の警察に持ち込むって脅してある。奴らもそうそう動けやしないはずだ」

「裏の企業に表の警察をぶつけるって、意味あるの」

「あるんだよ、あのくらいの規模にまでなればな。大きな企業にすればするほど警察の目を誤魔化すのは難しくなるってのが定石だが、本来なら、ああいう連中は警察にだけは絶対嗅ぎつけられないように生きてるもんだから。誤魔化しようの無いネタを握ってる間は問題ない」

なるほどなるほど、表だった大組織の追跡を振り切るのは、裏の事業であればあるほど面倒なものだろうからね。合法的に武装する相手。現在の山上の敵みたいな奴らには鬼門かもしれない。

「それに、こないだ例のビル、爆発してっからな。一応もみ消したみたいだが、若干目をつけられてるのは間違いない。連中、今だけは警察に垂れこまれるわけにはいかねぇんだ」

「ほい、じゃあ、お姫様の安全は確保、と」

最重要案件は解決した。後は、相手方が痺れを切らしてお姫様に危害を加える前に、事を終える、と。

簡単に草案を立ててみたけど、如何せん相手方の居場所とか、不明瞭な点が多い。

「……場所は大丈夫だ、掴んである。交渉の時に特定した。だが相手の戦力がわからねぇ。あのビルにいたのが全員だとは思えねぇし、あのおっさんも割と用意周到だったしな。……俺が一度退けられる程度には」

「おいおい、それって相当ヤバくない?」

山上が退けられる程度って。話を聞いたところだと薬による体調不良とか、敵方にお姫様がついてたことによる精神的衰弱とか別の条件も重なってたそうだけど、それでもコイツは山上だ。裏社会最強の個体なのだ。相当数の組織を一手に潰してきたこの奇才なら、ある程度のマイナス要因があったところで、それこそ実戦では情報戦で言うすぅちゃんレベルのチート人材なのに。

「いや、ちげぇんだよ、顕正。実戦担当って奴は、所詮戦闘行為にしか能が無いんだ。何かを守りながら、とか、外から条件を足されると、容赦なく戦力ダウンにつながる。正しい意味で『弱み』を持つってことなんだよ」

「弱み、ね。……ふぅん」

山上の言葉に思わず含みのある返事を漏らす。案の定、嫌そうな顔をされた。違うって。

「お前に弱みなんてのが出来るとはね。『敵は己以外』みたいな感じだった山上にしちゃあ、上等過ぎて涙が出るよ僕は」

「結局喧嘩売ってる口調だな」

「だから誤解だって。……そういうことなら尚更、全力で手伝ってやらなきゃな」

「……はん、最初からそれだけ言ってりゃ良かったんだ」

憎まれ口をたたく。素直に感謝すればいいのに、面倒な奴だなぁ。

「手を打ってあるとはいえ何処まで保つかわからねぇ。動けんなら、今すぐにでも動こうぜ、親友」

「元よりそのつもりだよ。すぅちゃんにも協力を仰ぐ。準備が済んだら連絡するよ」

集合場所を山上家に決定して、話を終える。よくよく共闘の多い組み合わせだ。僕と山上と、すぅちゃんと。

この面子で負けるなんてことは、可能性の段階で、ありはしない。


早速すぅちゃんに連絡を取ると、発信音が一度鳴るよりも早く、向こうに繋がる音がした。相変わらず見透かしたような出方をする。

『やぁあらくん、珍しく一週間内ぶりだね、僕はとっても嬉しいな』

「状況の関係で僕はそう喜んでもいられないかな。ところですぅちゃん、今良いかい?」

『辞書で愚問って引いてみると良いよ、今のあらくんの質問がそのままそっくりのってるだろうから。それで、今日は何の用かな』

「話が早くて助かるよ。……山上の事なんだけどさ」

『うん、把握した。もうすぐ駅に着くから、あらくんも早く来なよ』

「……は?」

急に飛び跳ねた話題に首を傾げる。この子は、どこまで見透かしているのかわからない所為で、どこを話しているのかわからなくなる。

『だから、たつたを助けてあげたいんでしょう? それなら僕もこの機会に恩返しがてら協力したいから、彼の家の最寄り駅で待ってるよって言ったの』

「……」

え、なに、と言うと、僕からの電話を取った時点で、いや、もう駅に着くってことは電話をする以前から、僕が山上の件で動くことを彼女は知っていたと言うのだろうか。どんな超能力者だ、それ。

『違うよ違うよ、知っていたんじゃなくて、直感したの。もしかしたら、たつたが人生初の恋をして、その恋に自分なりのけじめをつけるためにあらくんを頼って、あらくんからその件で僕に協力を仰ぐ電話が来そうな気がしてただけ』

「君についてはもう何も突っ込まない!」

普通に生活してた内に、どんな勘が働けばその結論が出せるのだろう。無意識に未来予知なんかを習得してそうだ。

『そんなこと言いつつも、僕がこうするのを予測してて、もう既にここに向かって走り出してるあらくんでした』

「うるさい!」

信頼って、良いものです。十分後には落ち合って、そのままの足で山上の家に向かう。簡素なアパート。なんだかんだ、ここに来るのは初めてだ。

「よぉ、早かったな親友……。なんだ、天の字も来たのか」

「うん。随分とお久しぶりだね、たつた」

「おう。よろしく頼むぜ」

「任せなさい」

にっこりとほほ笑んで、僕を引きいれるようにしてすぅちゃんは山上の部屋に上がる。行動の一つ一つが、相変わらず人間離れした完璧さだった。

すぅちゃんの持っていた荷物から愛用しているらしいノートパソコンを取り出して、暫く、彼女のキーボードをたたく音だけが部屋に満ちていたが、そう長くも無い後に、視線を画面に固定したまま、すぅちゃんは口を開いた。

「さて、敵地の間取りとおおよその戦力は把握したけど、それじゃあ作戦を立てようか? あらくん、たつた」

「……親友、俺は偶に、いや常日頃から、コイツが恐いんだが」

「僕の幼馴染に何て事を言うんだ親友。すぅちゃんは気持ち悪いんだよ」

「二人とも、僕とて怒りの感情は持ち合わせてるからね?」

「「ごめんなさい」」

即謝る。怒ったすぅちゃんはやたらと恐い。全てにおいて人間の模範たる彼女は、怒りについても見本の如き表情、反応を示す。相手に自分の怒りを刻みつけるように、怒ることで対象に恐怖と申し訳なさを喚起するように。以前一度山上と喧嘩した時に見たアレは……正直、二度と見たくない。おばあちゃんを除いて、今まで見てきた何よりも恐ろしかった。

「それで、作戦だよ。立案するにあたって、まずはたつたの意見を聞きたいな」

「俺の意見?」

「そ。たつたが最終的にどうしたいのかによって立てる作戦は大分変ってくるからね」

「ああ……」

言い淀む。全く、あほらしい。何を迷うことがあるんだ? 普段あんなに恰好つけているくせに、自分のこととなると急に子どもになるようだった。

「お前にだけは言われたくねぇ……」

「違うよたつた。あらくんは迷ったりはしない。自分が絶対正しいと信じて疑わないから面倒なんだよ」

「おいこらそこの二人」

今度は僕が怒ってみるものの、二人とも知らん顔。だろうよ。それはともかくとして、どうするんだ、山上。

「どうする、か。……決まってんじゃねぇか」

「だよね」

すぅちゃんが同調する。待って、そこで説明止められたら僕は何もわかってねぇ。僕の心配が伝わったわけでは間違いなく無いだろうが、一拍置いて、山上は続きを口にした。


「アイツを、助ける。俺の想いとか、おっさんの事情とか、違うな、アイツの都合すらも関係ねぇ。アイツが嫌いな殺しを、アイツから徹底的に遠ざける。それだけが俺の望みだ」


きっぱりと。言い切った。……感慨深いね、全く。そんでもって、まったく、健気な奴だ。格好良い、ってより、可愛らしさを感じるね。

さて、と。すぅちゃんに目を遣り、頷き合う。最強チーム、始動だ。

顕正視点に戻りました。やっとです。むしろ懐かしくも感じます。そんでもってすぅちゃんも合流。

本文で彼女も言っていますが、大晦日に田舎から帰って(すぅちゃんと離れて)から、一週間もたってないんですよね、作中時間。恐ろしいローテンポ。や、山上の話の際に遡ってたりはしましたけれども。


それでは、ありがとうございました。次回もお会いできることを願って。

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