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番外。其の伍。

有言実行ってのは、字面にすると中々、律儀で良い事に見えなくも無いのだが、これはあらゆる場合において共通しているのかも知れないが、有言の内容によってははた迷惑を被る人間が居る可能性も、その場合考える必要があると、そう思った。

何が言いたいかと言えば、普通に、夢姫の有言実行の所為で俺が迷惑を被っているのだった。終業式からむこう一週間弱。彼女は律儀(?)にも、本当に毎日俺を呼び出している。アイツの置かれている立場からしてそれは致し方ない事なのかもしれないのだが、断固文句を言っておきたいのが、呼び出される場所が毎度毎度、これこそ律儀に変わる事である。家に居れば良いじゃねぇか。なんで本屋だとか、駅だとか、ファミレスだとか、一々場所を変えて呼び出すのか。はたはた、ほとほと迷惑である。終業式の直後に顕正の野郎に小旅行に誘われたりもしたのだが、事情有りしで断る羽目にもなっていた。まぁ、別にそれは構わないが。あっちはあっちでよろしくやってんだろうよ。

果たして、大晦日のこの日、例の如く呼び出しを受けたのは朝も朝、普段登校するよりも早い時間で、其の場所と言うのは、俺達の学校から数駅行ったところの、この辺りでは一番大きな街だった。一応、呼び出しを受ける場所の傾向として、夢姫なりに考えてもいるのか、人通りの比較的多い場所がそれに選ばれる事が多い。夜中から早朝にかけての襲撃に備えて無い辺りが甘い所だが、そのあたりは毎日、別れた後に俺がちょっとばかし情報をかく乱してやってるので問題ない。最初の襲撃の相手の実力を鑑みても、さほど裏に精通した勢力では無いのではないかと、俺はふんでいた。今の所大きく外れても無さそうだ。ざまぁねぇな。

駅付近の自販機の、向かいにあるベンチに、夢姫は座っていた。どうしてか、今までもコイツのいる場所は細かく聞かずともすんなり発見できている。

「最近呼び出してから到着するまでの時間が遅い」

対面するや否や、即効で文句を言われた。額に浮かびかける青筋を理性で抑え込む。

「てめぇ、ウチからどんだけ離れてると思ってやがる」

「さぁ? 君んち知らんしね」

「こっからだと五駅分行ったところだよ」

「ふぅん、じゃあ、やっぱ遅いね」

そもそも俺は理性の持つ方じゃないんだぜ。直情型なんだぜ。

「てめぇなぁ、この一週間俺がどれだけ走り回ってると思ってやがる」

「知らんわよ、だって聞いてないもの。本当に迷惑だっていうのなら、別に来なくてもいいよ」

「今更それを言うのかよ」

「言うわよ、言ってなかったもの」

ため息をつく。つくづく疲れる奴だ。会話で使うエネルギー量は対顕正時に匹敵するほどかもしれない。面倒な知り合いしか出来ないのか、俺には。

「迷惑じゃ無いとは言わねぇが、それこそ、今更来なくていいとか言われても、気になって仕方ねぇよ」

「……ふぅん? 良い人やね、君」

「変な評価だな」

何となく黙り込む。嫌な沈黙では無かったが、いや、待て、そもそも俺は何のために呼ばれたんだ。

「いつも通りよ」

「それはつまり、用は無いって解釈で良いんだよな」

「あるじゃない、護衛よ、護衛」

「そうでしたね」

投げやりに返す。ああ、くそ。何が悲しくて大晦日にSPよろしく女一人に張り付いてなきゃいけないんだか。表舞台にやってきた暁にはガールフレンドの一人や二人作ってデートの一つ二つと思っていた時期があったと言うのに、間が悪いと言うよりは、運が無い。

「なんや、君、女の子に興味あったんだ」

「あたり前だろ。俺をなんだと思ってやがった」

「不能」

「頼むからもう少し慎みか恥じらいの気持ちを持ってくれ」

女性が気軽に投げる言葉じゃ無い。俺の女性幻想像が多分に含まれている可能性は否定できないが、それでもなんか嫌だ。顕正あたりなら賛同してくれるだろう。いや、あいつはあれでかなり女性運あるから期待はできねぇか。恨めしい限りだ。

「でも、へぇ、ふぅん? ……そうなんだ」

「なんだよ、立て続けに納得して」

「んーん、別に。よし、じゃあさ、今日はデートしよっか。クリスマスは大したことせんかったし、埋め合わせなんて間柄でも無いけど、大晦日デート」

「あぁ?」

「どうせ暇でしょ」

暇、というか、お前の護衛なんだがな――――。なんて、勿論言わない。デート。でぇとだ、でぇと。願っても無い響きじゃないか。相手が選ぶ余地も無く夢姫ってのは如何ともしがたい事実だが、これはこれで悪いく無い。夢姫も、顔面だけ見ればかなり見られるそれなのだ。それこそ研究部連中にも見劣りしない程度には。多分に俺の嗜好が入っているけどな。

「そんなら、行こ。呼び出しをこの街にして良かったね、ここならぶらつくだけでも退屈ってことは無いだろうし」

「そうなのか」

ここらで一番大きな街。それ以外の情報は、俺には一切インプットされていない。お遊戯にはまだまだ疎い人間なのだ。この機会にそのあたりも、少し学習出来るかもしれない。

 割と慣れているらしい夢姫の誘導に従って暫く街中を歩く。何か買い物をするでもなく、ひたすら街並みを見回るように散歩して、そろそろ昼時になった頃、彼女の勧める喫茶店に入るに至った。運ばれて来た料理に目をむく。なんだこれ、少なすぎやしねぇか。

「そんなもんよ。そもそもガッツリ食べる人が来るようなとこや無いしね。でも、女の子とデートするんやったら、余裕あるんだったらこういうところの方がええんとちゃう?」

「へぇ、そうなのか」

「ん、少なくとも私は。そんなに食べられる方でも無いし」

「ああ、お前少食そうだよな」

「山上はそんなにガタイの良いわけでもないのによく食べるよね」

「鍛え方が違うんだ」

「解答がちょっとずれてる」

他愛もない会話。こんなことばかり、もう二週間あまり、続けている訳だが。ふと、僅かに俯き気味な夢姫に気がついて、声をかけてみた。

「……なぁ、お前、どうするつもりなんだ」

「どう、って」

「何時までもこうしてるわけにはいかねぇだろ」

びくっと、彼女の肩が小さく跳ねる。分かってはいたんだろうな。当然か。

何時までもこうして。俺が守りについているのでは、状況が変わることは無い。夢姫は連中に狙われ続け、逃げ続ける。終わりは来ないだろう、特に、俺がこいつの傍についている間は。自称するのもおかしな話だが、裏業界からみて、俺を抱えていると言うのはほとんどチートに等しい意味を持っているのだ。手出しを考えるのが愚かしく思えるほど。だがそれも永遠では無い。夢姫の持っているカードがどれほど重要な意味を持っているのか知らんが、いづれにせよ、俺が何時までも、コイツを傍で守っている訳にはいかないのだ。相手方も何時しびれを切らしたっておかしくは無い。その時に、俺が単体で夢姫を守り切るのは、少しばかり難しいだろう。それこそ、四六時中コイツについて回りでもしない限り。実力はハイエンドだが、小細工には限界がある。得意分野は特異的で、それ以外は割と普通なのが俺の欠点だ。小細工専門の親友が居るにはいるが。奴に協力を仰ぐのは最終手段だ。今頃はまだ、田舎にいるんだろうしよ。

「話したほうが、良いかな」

「そりゃあ、その方が俺もやりようがあるしな」

「……父がね、私を追ってる組織の中核なの」

「そりゃまた、どうしようもねぇ話だな。で、お前は何したの」

「父の書斎からカードを奪って逃げたんよ。あの人のやってることを、私は知ってしまったから」

「やってることね。大概の予想はつくが、そういう場合、家族ってのは事情を知ってるもんなんだけどなぁ」

「母は父のやってることをほとんど知らなかったわ。だけど、私は後を継ぐように、父に色々教わっていたから。でも、深い所は知らんかった」

夢姫は父が悪行に走っているのを見て、継がされようとしていることを知って、それでも、良心を、家族に対する愛が上回った。どんな職をもっていても、良い家族は良い家族なのだ。それをただ悪と、切り捨てることは難しい。

「でもよ、知ってたんだったら、なんで今更カードとやらを奪ったんだ。家族をとったんなら、お前はこのまま親父のあとを継ぐ流れで正統だろうが」

「詐欺まがいの仕事は、それでもほとんどが君の言う裏稼業を対象にした行為だったの。良心の呵責って言うのが、振り切らなかったんよ」

私は悪い人間やから。不良やけん。夢姫は言う。成る程、確かに、それは不良だな。

間違っていると、俺の口からは絶対に言えなかった。誰を対象にしていたとて、詐欺まがいの行為と言うのは犯罪にあたる。第三者として見れば、例えば顕正以外の研究部員連中のような全う(少しばかり疑問符が入る余地はあるが)人間ならば其の所業に対し「悪だから否」と断ずることが出来るだろう。だが、それが愛する家族のことだとしたら。十数年と良い家族として過ごしてきて、漠然と悪いことをしていると認識していても、その行為をにべも無く弾劾し、家族を切り捨てることが、そう簡単に出来るだろうか。愛する家族は悪で、だから淘汰されるべきと、断ずることが出来るだろうか。

「振り切ったんだな、家族愛を含めた、『目を逸らせる』限度って奴が」

「だって」

ここまで色々と話してきて、夢姫は初めて泣きそうな声を挙げた。はかなげな、かなしげな、とても痛そうな。

「父は……あの人は、アイツはっ。――――人を殺したんよ……っ」

それを、知ってしもうたんよ、この間、母親も全然手をつけようとしない父の書斎の掃除をしていた時に。善良な一般市民の母は、もしかしたら感づいてたのかも知れん、父の職業を。そやからけして、父の留守中もあそこを覗こうとはしなかったのかも。私は知っていたから、知っていたから、掃除に入るのだって躊躇わなかった。そこは『許して』いたから。目を逸らし切れている範囲の悪事にしか手を染めて無いと、今思えば失笑ものの馬鹿な期待を持って。

机上のコンピュータに、そのディスプレイに表示されていた文面を、見てしまったらしい。部下からのメールで、『殺した』と。人名のあとに続く、『始末完了しました』との文面を。

抜き取ったカードは、夢姫が後継ぎとして教育される際に一番最初に教わっていたものらしい。組織の全てを担うデータは、代表の私がこのカードに纏めて保持している、と。商業柄、部下であっても完全に信用下に置くことの出来なかった夢姫の父は、唯一信頼し、後まで任せるつもりだった娘に最重要案件を教えこんだらしい。殺人の事実に堪え切れなくなった夢姫は、そのカードを抜き取って、逃げた。

「安心しとったんやと思う。あの人も、家の中では、母と私のことは、信用しとったんやと思う。やけん、一番大事なものは、常に家の中にあった……」

それを奪って逃走したことで、家族は壊れたのだと言う。母は帰宅しない娘を心配して父に相談し、裏切りを知った父は部下を使って娘の捜索を始め、事が家庭内に起こった今、母も、今まで気づかないふりをしてきた父の職を、知った。娘である夢姫の失踪の理由に気がついた。

「壊したのは私や。でも、だって、しょおが無いやん……」

目を逸らしてきた事実から、逸らしきれなくなった。折り合いをつけてやってきていた幸せの家族は崩壊した。なるほど。

どうしようもねぇな、これは。

「夢姫」

「……なんよ」

「今の話、俺が聞いちまったからには、俺がお前を守り切ったと判断するために必要な行為が分かっちまったってことになるんだが」

「……」

受身の必要が無くなった。やることが明白になったのだから。だが、それも理解したうえで、だから夢姫は今の今までおれに以上を説明するのを渋っていたのだろう。家族を切り捨て、捨て切る覚悟が無かったから。今だって、多分覚悟が出来たわけではない。話さずにはいられなくなっただけだろう。何時までだってかくしておけることではない。俺がいなければとっくに夢姫は親の組織にとらわれていただろうし、かと言って、俺に永遠に、根本を解決せずに守り通してもらうわけにもいかない。いずれにせよ、始まった時点でどちらかに転ぶのは明白だったのだ。せき止めていたダムが崩壊しただけ。

「覚悟、出来て無い」

「そうだろうよ」

「でも、する、から」

それでも大分、迷った末に。

「お願い。私を守って」

ああ、くそ。純粋な学園生活が遠のいていく。まっとうな日々が遠のいていく。でも、関わっちまったもんは仕方ねぇよなぁ。

折角の機会だ。足にこびりついていた泥を、今度こそ払い切るための機会。純粋でまっとうな日々を送るつもりなら。

今まで通りの俺じゃ駄目だ。なれないことを、してやろうじゃねぇか。

守り通す。そして、救う。守るだけでは、夢姫を救うことはできない。ならば。

勧善懲悪、柄にもない、正義のヒーローを演じてやろう。全部まるごとご都合主義のハッピーエンドを、勝ち取ってやろうじゃねぇの。

気がつけば連載開始のあの日から、早一年が過ぎていたみたいです。まさか365日以上、この話が完結をみないだなんて思ってもいませんでしたが。そんでもって、何時からか、日に日に、回を増すごとに質が下がっているとのご指摘をうけることもありましたがっ。

出来得る限り、読んで面白いと思われるものに仕立て上げて行く所存なので、今後とも、拙作にお付き合いいただければと思います。


つーとまずは番外を終わらせることからですよねっ←

今回やたらめったら長いです……。

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