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四月馬鹿。馬鹿ばっか。

今回の話は、十二月にまで遡って頑張ってる僕の親友であり宿敵であるところの山上を完膚なきまでに放置して四月まですっ飛んだ、四月馬鹿の宴を行いたいがためだけの特別編であることを、先んじて注釈しておこうと思う。って、前書きで書けよ、作者。


四月一日=エイプリルフールと、何時だったか何処かの誰かが言ったらしいが、いや、らしいというけど、そもそも僕はエイプリルフールの馴れ初めすら知らない朴念仁(誤用)であるわけで、結局何が言いたいかと言えば、つまりワタヌキだか何だか知らないが、四月で無くとも年中馬鹿丸出しな僕らが四月馬鹿だからと言って特別馬鹿なことをしようと言ったって、それは所詮いつもの馬鹿とほとんど何ら変わりのないものにしかならないと言うことである。

「顕正くん顕正くん、一応指摘しておきますと、エイプリルフールって馬鹿なことをする行事じゃないからね」

「え、違うの。ってうわ、緑に指摘された」

「……顕正って、実は馬鹿よね」

「何を言いやがるか美稲」

「そうよ二瓶さん。顕正は実は馬鹿なんかじゃないわ」

「申し訳ないけどその先に続く言葉は言って欲しく無いなぁ明音さん!」

「顕正は、実に馬鹿なのよ」

「やっぱり言いやがった!」

押すな押すなのお笑い芸人じゃあるまいし。まぁ、明音さんの場合は押せと言っても押すなと言っても、結局当時自分がやりたいと思った方を選択するんだろうから関係ないけども。言うなと言ったところで、既に言う事に決定している事柄は彼女の中で不変なのだ。多分。

「ところで顕正、実際にエイプリルフールを実践するとして、どういう風にと言うのは勿論、一体誰を騙すのかしら」

「そんなの、今居ない蒼ちゃんに決まってるじゃないか」

「うわぁゲドーだ」

「そういうなら緑、その手に掲げているカンぺを片せよ」

黒のマーカーででかでかと『蒼にしましょう』である。双子の姉、遠慮が無い。

「ん、じゃあまぁ、果てなく外道だとは思うけれど、彼女が来る前に企画しちゃおうか、僕達の四月馬鹿を」

「おお、やたら恰好良いフレーズだけどどっかで聞いたことあるような感じだよね」

「うん、検索フォームにかけたら出てきそうだ」

そういうわけで。蒼ちゃんを除く僕ら四人は、知恵の限りを絞って(無駄極まりない)イジメの計画と間違われても文句の言いようも無い企画を練り始めたのだった。


魔窟と見紛うような紫の部屋の片づけの所為で、新年度初の部活動に、私は絶賛遅刻していた。全くもう、どうして決められたルールに従えないのかなって、ああ、でも、年末年始にかけて、どころか去年の夏にも同様に、それ以前に春先に出会った頃から犯罪行為まっしぐらな先輩に出会ってしまった私が言えたことじゃあないかな。あまつさえ、惚れちゃってるんだから、尚更。気が休まらないはずなのに、一緒に居ると安心すると言うか、なんだか我ながら恋する乙女的な思考だった。まさしく、恋するティーンエイジャーそのまんまなんだけどね。

さて、では、想い人の所に急ごうかな。特別理由なんてないけれど、考えてたら会いたくなってくるのだ。何て言うか、そういう人なのかもしれないなと、ちょっとだけ思う。考え過ぎ、いえいえ、惚れた弱みってやつです。なんでもかんでも良く見えてきちゃう。

化学実験室のドアの前に立って、不思議と静かなドアの向こうに首を傾げる。もしかして、先輩一人なんだろうかと考えてみて、だとすると、想いもしない幸運だ。いやいや、先に行った緑が居ないはずが無いし、そうなると、二人で良い雰囲気にとかなんとか。

やめだやめだ。先輩がそうそう簡単に誰かひとりを選出しないことはちゃんと全員把握してる事である。ああ、でも、『もしかして』。何時の間にか緑イッタクに決めてしまっているのかもしれない。『もしかして』、緑では無くて二瓶先輩で、緑はその事実を既に突きつけられて、帰ってしまったのかもしれない。『もしかして』、三笠先輩の可能性も、また。

もしもを考え始めると、どうにも行き止りの無いことなんて分かっているから、いい加減なところで切り上げて、ようやっと私は引き戸に手をかける。立てつけの悪いドアを少しばかりの勢いをつけて一気に弾くと、ガタガタと音を立てて、教室の中身が私の視界に晒された。

「あ、蒼ちゃん、よっ」

「遅くなりました、って、あれ? 誰も来てないんですか?」

挨拶をしてくれる先輩に、僅かな期待を込めて尋ねる。日頃の行いを特別良くした覚えも無いけれど、どうしたことか、先輩は「そうだよ」とあっさり頷いた。

え。動揺する。緑、何処行ったのよ。

「他の人たちはどうしたんですか」

「ん? 緑はさっき来てたけど、何か商店街の方に用があるとかでさっき帰ったよ。明音さんは不明で、美稲は眠いんだってさ」

「……三笠先輩の不明って言うのもあれですけど、二瓶先輩だけ、なんだかやけにメルヘンに聞こえますよね」

「あいつの存在自体かなりメルヘンがかってるからな」

「怒られますよ」

「いねーもん」

「ですね」

笑い合う。不思議と幸福な空気に包まれて、どことなく幸せな気持ちでいると、しかし、今度は何処で日頃の行いを間違えたのか、急に先輩の表情が曇る。いや、日頃の行いを間違えたとか、そんなでは説明しきれないような、これは、予感。

「ねぇ、蒼ちゃん」

「なんですか、先輩、改まって」

「うん。……丁度良かった。誰かと言えば、君に一番最初に話しておきたかったから」

底冷えするような感覚を覚える。ちょっと待ってください、ちょっと。

「卒業したら、すぅちゃんと結婚することになったよ」

「え」

「……ゴメン。何て言うか、君にはさんざん注意されてたのに、でも、やっぱり僕、すぅちゃんが一番、好きらしい。好きなんて、そんな感情は違うな、愛してるんだよ、僕は、彼女を」

「ちょ、っと、待ってください、ちょっと」

頭が真っ白になる。何言ってるんですか、先輩。


「何だかんだ、すぅちゃんと話していると気が一番気楽でいられる自分に気付いたんだ。彼女は僕と何処までも対等で、何処までも上で、何処までも下だから。つり合いが取れていると言えば、分かりやすいのかな」

僕は語る。シナリオ通りに。しっかし明音さん、恐ろしい筋書きを考えるものである。緑と美稲は一応会議に参加していたけれど、子供だましも良い所の下らない案ばかりだった。とはいえ、これはなぁ。容赦ない人だ。

「待って下さいってば、先輩。何なんですか、あれですか、約束通り殴ればいいんですか」

僕が迷った時は、言うところの血迷った時は、君が矯正してくれと、僕は確かにこの子に言った覚えがある。ううん、酷な話だ。

「うん、殴ってくれると、有難いかな」

「……っ」

ざっくり、本気で傷ついた顔をする蒼ちゃん。ヤバいって、これ以上はヤバいって僕が。っ、ぅ、目じりに涙の浮くのを確認してしまう。大仰に動いてばれないように計らって、奥の準備室に隠れている明音さんにアイコンタクトを送る。『中止! これ中止!』

『続行よ』

容赦ねぇ。

「……蒼ちゃん、だから、ゴメンね」

「……ぅ、ぁ、なん、で……」

泣き崩れてしまった。力無く膝が折れて、床にへたり込む。手のひらで顔を蔽い隠して、殺しきれない嗚咽を漏らしながら、蒼ちゃんは泣きじゃくった。うああああああ、駄目だって、ほんとこれダウトーーーーー!!

「す、ストップ! 蒼ちゃんストップ!!」

「ふぇっ、ぅくっ、……なん、です……?」

「う、嘘だから! 嘘でしたから! これ、エイプリルフール! 四月馬鹿!! お祭り!!」

「……………………」

「……………………」

ちらと眼を遣ると、『あーあばらしちまったか』とでも言いたげな三人の顔。悪魔どもめ……っ。

「うそ、ですか」

「……はい、嘘です」

「死ねば良いのに」

「ごめんなさい」

本気で怖かった。憎しみの籠った「死ねば良いのに」だった。土下座を考慮に入れるくらいだった。

「土下座? ああ、それも良いですね」

「ひぃっ!?」

「……。先輩」

「何でしょう」

「すっごい傷つきました」

「死んで詫びようか」

「ストップストップ、最後まで聞いてください」

「聞きますとも聞きますとも。でもあれ? ちょっと待って、蒼ちゃん、泣き止むの早くね」

「泣きっぱなしの方が良かったって言うんですか」

「滅相も無い」

「ですよね。それで、先輩」

「はい」

「この傷は、結構埋まらないと思うんです」

「……はい」

あ、これこそ待った、なんか良く無い予感がするぜ。……何て言うんだろう、オチが読めた、的な。

「埋めるには、逆方向に強い気持ちが、ですから、所謂愛が必要だと思うんです」

「はい」

『愛』って口にする時若干照れたっぽい蒼ちゃん萌えー、とか、ああ、もう、僕が詰んでる。

「デート、してくれますよね?」

「是非も無し」

「なんですか其の口調……。それとほら、その、キスとかも、してくれますよね?」

「……是非も無し」

肯定+肯定。否定なんて出来ようものか。いや、もう、そのくらいで済むなら安いものっす。なんだこれ、僕完全に三下じゃん。

「なら、許します」

にこりと、台詞と共に向けられた彼女の笑顔はとても魅力的で可愛らしかったから、三下でもいいやと、ちょっと思った僕が居た。というか、居たんだけれど。

「ダウト、ダウトよ赤坂妹。それはフェアじゃないわ。だったら私ともデートしなさいよ、顕正」

「そうだよ顕正くん! アンフェアだ!」

「顕正、特別扱いはしないって言った」

「それこそアンフェアだ! 元はと言えば四月馬鹿自体君らの発案だろうが!」

「いやぁ、ノリノリに相応しい素晴らしい演技でしたよねぇ三笠先輩?」

「そうね、果てして外道は誰だったのかしらね、二瓶さん?」

「ええ。でも、まさか顕正が女の子を本気で泣かせるような企画にノリ気になんて成るわけ無いわ。ねぇ赤坂姉?」

「僕が悪かった!!」

にべもなし。無さ過ぎる。ほんとにもう、色々と。片無しだ。片方の片で無く、一欠片の片。なんにもなし。読めたって、もう、オチと言うか、策謀と言うか。これは四月馬鹿じゃない、ただの陰謀だ。

「ごめんなさい、先輩」

「というわけで、顕正くん」

「うん、顕正」

「そういうことね。……顕正」

はい。まぁ、そうですよね。


嘘でした――――、と。


さて、何処から何処まで、嘘になるのかな、なんて。

強いて言うなら、言わなくても蒼ちゃん回。そういうわけじゃ、ないはずなんですけどね。


というわけで、えいぷりるふーるでした。山上編の続きは近いうちに。


それでは、楽しんで頂けたのなら幸いです。嘘じゃないです。もちろん。

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