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番外。其の弐。

俺はアイツほど無意味かつ無価値な戯言を並べ立てるに自信がないことを、先んじて注釈させてもらおう。まぁ、顕正は若干以上に弁が立ち過ぎるきらいがあるんだが、奴の場合むしろあれが無いと奴らしくないと言うか、これ自体既に無駄十割な気もするが。

話を進めようか。

不良少女(暫定)はきっと俺を睨み据えると、学校指定のスカートに手を伸ばし、ポケットから携帯端末を取り出した。端末、普通に電話だが。そいつは二つ折りになっているそれを慣れた所作で片手で開くと、数度の打鍵の電子音の後、表示された画面を俺に向けて突き出してきた。

「しらばっくれないでよ、これ、君達でしょ」

「……なんだぁ、こりゃ」

問い詰めるような女の声に、まるで引っかかるものの無い俺は首を捻る。そりゃあそうだ、そもそも俺はこの女生徒自体知りやしないんだからな。差し向けられた文章(どうやら受信メールの画面らしい)に目を通す。

『カードを持って学校を出ろ。一人でだ。見張りをつける、誤魔化せると思うな。』

絵文字だとかなんだとか言う奴の一つも無い、血なまぐさい、殺伐とした文面。ははぁん、なるほど、こいつぁ、触れちまってるな。

「しらばっくれるなって、言うてるのに。この見張りって君のことでしょ。……まさかうちの生徒とは思わなかったけど」

「ちょっと待て、俺はただ、不良らしくない不良を見かけたから興味が出ただけだっつの。つーか、勘弁しろよ、こちとらこないだソッチとは手を切ったばかりなんだからよ」

謂れのない責めに否定を返す。なんだってんだ、全く。未だわけもわかってなさそうな憎悪の視線で俺を見遣る視線から芯を逸らしつつ、一度女生徒の全体を見渡す。

膝裏まで届きそうなまでに長い黒髪を下の方で適当に結んで、制服は着崩さずにスカート丈も膝下。前髪を梳いて額に掛からないようにしているのも確認できた。優等生なのでは無く、周囲の目を気にしない奴なのだろう。機能性重視。この年の女と言ったら基本しゃれっ気に目覚めているものと思い込んでいた俺の偏見は見事に塗りつぶされちまったってわけか。いや、どうでもいい事だが。

ついでに言っておくと、さっきまでの応酬からは若干だが関西方面の方言のイントネーションが見られた。努めて標準語に適応しようとしているらしいのが窺える。

「何、観察してんの。ソッチって何。君一体何者なん」

反応の薄い俺にしびれを切らせたのか、女生徒は細めた眼を更に厳しくして言葉を重ねる。そうは言われてもやっぱり俺に心当たり何ざ無いのだが、しかし、見てしまった、あってしまったのだから、見捨ててはいさよならってのはどうにも後味が良くないな。……と、顕正の奴なら、言うんじゃねぇのかと。

思った。

思ったから。まぁ。

「なぁ、お前。名前は?」

「……こっちの質問には答えんのに、聞きたい事は聞くんだね。いいや、その反応からすると本当にコレには関係なさそうだし。色々、私が知らんこと、知ってそうだし」

「知ってるぜ、俺は。多分な」

睡見(まどろみ) 夢姫(ゆめき)。そっちは」

「山上だ。山上 辰己」

「山上ね。ふぅん」

名乗った俺を、睨む目線は緩めずに見回す睡見。俺としては早めにコイツの関わってる事象を解決して、足にしがみつく残りの泥を残らず流してしまいたいんだが、そんな俺の事情を知ってか知らずか、暫く手元のケータイと俺をかわるがわるに見つめた後、睡見はこんなことを言いだした。

「山上。ねぇ、君、ちょっと人助けしてみない?」


何時までもグラウンドの脇に居るわけにもいかないと言うことで、俺と睡見は互いに鞄も持たず、正門から堂々と学校を後にした。メールの送り主が見張りどうこうと言っていた件について一応問うてはみたが、当の睡見は「知らん。無視する」と断固の姿勢を取るので俺から言えることも無いだろう。ことが起こっちまっても、見張りの一人くらいなら鈍った俺でもなんとでも出来るだろうしな。さて、場所は移ってワンコイン提供が売りのファストフード店である。殺し屋でいた頃にも何度か利用した事のある手軽な店だ。俺らみたいな連中が利用していたことも考えると、確かに娑婆も何も無く、吸ってる空気は一緒なのかもしれない。そもそも『娑婆の空気』云々は牢から出てきた野郎どもが感じるもんだった気がしないでもないが。馬鹿にされ損だったらしい。後で半殺す。

「おい、ところでよ、カードってのはなんなんだ。お前を呼び出した連中はそれが欲しくてやってんだろうが」

「カードって、そんなことも知らんの? 薄くて、長方形が一般的な物体よ」

「それは知ってる」

「ああそう」

しれっと、睡見。舐めてんのかこいつ。

「あのなぁ、依頼は構わねぇが、だったら情報くらい開示しろよ。それでどう動けってんだ」

「分かってる、ほんの冗談よ。カードって言うのは、この場合メモリーカードなんだけど」

「一般的っつーか、基本だわな。てぇことはあれか、機密でも右ってんのか」

「その方向に特別思い入れは無いけど。なにか深い意味でもあるの?」

「ねぇよ。馬鹿の真似をしてみただけだ」

「その馬鹿さんを私は知らないから、今ので私が持ってた君に対する印象が若干悪くなったことは伝えとくわ」

嘆息される。まぁそうだろうよ。

「とある組織のね、機密情報を握ってるんよ」

「裏稼業とかって奴か。ふぅん、それで?」

「聞かないの? 経緯とか」

「興味ねぇよ。俺ぁとっとと泥を払いたいんだ」

「良く分からないけど、泥なら拭った方が良いと思う……」

「それもそうか。で、どうすりゃあいいんだ、俺は」

「どうすりゃって、助けてよ、私を」

「其の組織の追っ手から?」

「それは勿論」

「はいよ、引き受けた。一応こっち側の住人を気取ってる手前、報酬は求まねぇことにするぜ」

頷いて、俺は席を立つ。トレーを片してわき目もふらず出口へと歩む俺に睡見は首を傾げるが、しかし気にはしない。やる事がはっきりしたんだ、戻ってきた「山神」に、時も場合も手段も遠慮もありゃしねぇよ。

番外編第二弾。結構続いちゃいそうです。悪しからず(?)


では、よろしければまた次回。

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