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番外。其の壱。

十二月に僕達の仲間入りを果たした(とはいえ先の会議では酷い扱いだったりもしたわけだが)山上。田舎のおばあちゃん宅に誘った頃から付き合いの悪かった彼だが、しかしその件に関しては授業をさぼって女生徒と逢引きしていたのに関係してそう、つまるところデートか何かだと思っていたから、折角親友が表世界に馴染んだと、僕としても喜び半分妬み半分と言うところだったのだけれど。

しかし、そうなると今、僕の目の前で「以前と同じ眼」をした山上を、僕は一体何と表現すればいいのだろうか。言葉に表す事が出来る程度の、濃縮された殺気が、彼の周りには渦巻いていた。まさかとは思うんだけど、こっちでは生きてけないとか何とか、ほざくんじゃねぇだろうな。

「違ぇよ、そんなんじゃねぇ。こっちの世界は、なんつーか、居心地も良いしな。上々だ」

「それならなんだよ、そんな眼して」

「……なぁ、親友」

「殺し屋みたいな眼をした親友はいなくなったはずだったんだけどね。……何だよ」


「助けてくれ」


息が止まるかと思った。コイツは今、何と言った。頭を下げて、この僕に向かって、こいつは。突然久々に顔を出したかと思ったらこれだ。全く、心臓に悪い――――。

「わけありかよ、山神 竜太」

「片足突っ込み直すくらいの、な」

「おぅけぃ、分かった。最初から説明しな」

らしくないほど神妙に頷くと、山神はようやく息を深くついて、ここにいたる過程を紡ぎ始めた。全くもう、新年早々、休ませてくれる気も無いみたいだ、この世界は。寝正月を過ごしておいて何をと思わないでもないけれどね。


知り合いの同業者が言うに、『娑婆の空気』ってぇヤツは美味いものらしいが、今の所俺の主観に空気が美味いなんぞと言う「空が蒼くて綺麗」より一段階上のメルヘンチックな思考は生まれていなかった。まぁアイツは結局情けない事に表舞台の警察につかまって頭がいかれちまってたのかも知れないから、信用ならないんだけどな。いや本当に情けねぇ。それならいっそ同業狩りに消された方がマシだったんじゃねぇのか。おっと、今更ながらにこちら山上 竜太。先日晴れてくそったれな殺しの業界から肉親潰して足を洗った者です。以後よろしく。

もう一度空気を吸ってみる。歯ごたえも何も無く、ただカチンと一度顎を噛み合わせて咀嚼を試みるも、うん、徒労だな。数年来の付き合いである萩の字こと顕正の野郎に以前問い詰めたところ、「表裏って、どっちも結局同じ地表だろ、吸う空気に味なんて求むべくもないしちょっと待って、お前咀嚼ってぶはっ」だのと腹を抱えて笑いだしたので死闘をくれてやった。なんだかんだ、遊びで済むレベルで逃げ切るのが小憎らしいマイナス小ってところか。あのクソヤロウ。

ふと、ガラス越しに外を臨んでいた俺の視界に動くものがあった。校庭の隅を沿って、まさに校門を目指して邁進中のようだ。同じ学生に成った俺だからこそ言えるが、今は授業中で間違いなく、それを抜け出すと言うのは確定的に不良ってやつだろう。流石、我が親友を代表に変人揃いの学校だ、不良くらい余裕で完備ってか。が、しかしなにか、その動きに違和感を覚える。ふむ。

「先生、急に具合が優れないので保健室に行ってきます」

俄然、興味がわいてきた。顕正の奇異の視線にシカトを決め込んで、俺は一路に校庭を目指す。唖然とする教師他クラスメイトも目に入ったが、それはきっと錯覚だろう。

十二月の寒気の中、校外を囲む柵の上を鼻歌混じりに辿って行くと、特異な動きをしている訳もあってか、割とすぐに、そいつの背に追いついた。

「よぉ、お前、不良のくせにこそこそしてんな。校庭のド真ん中を突っ切るくらいが不良ってもんだと聞いてんだが」

「……どうして」

やたらと戦慄した体で、暫定不良以下のそいつは尋ねてきた。どうして?

「どうしてって、そりゃあ、ある程度こそこそしてるくらいじゃあ元とは言えプロの目を出し抜けるわけねぇだろ」

「違う、どうして、私を狙うの?」

「……、あぁ?」

認識の齟齬、会話内容の不一致、食い違い。それはさておき、なかなかどうして、『狙う』たぁ、物騒な単語を出してくるじゃねぇか。

洗ったはずの足に、流し損ねていた泥の感触を得た。運がねぇのか、それとも因縁か宿命か、全く、俺って奴は。

山上編。につき、顕正くん他明音さんをはじめとしたメインヒロインの方々は脇どころか登場すら怪しくなるのでご注意ください。いまさらですが。面倒事に巻き込まれるのが得意なもう一人に、どうか付き合ってやってください。


それでは。

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