ディベート。経過、収束。
どうしてこうも、時間と言うものは、進行形に限って融通の利かないものなんだろうか。いや、むしろ融通は利いているか。迷惑な方向に利いてる。長くあってほしいと願う、楽しい時だとか、そういうものは等しくあっさりと過ぎて行き、早く過ぎ去って欲しいと思えば思うほど、時間の経つのは遅く感じられる。一年前を回想したりすると、案外「まだ一年か」とか、思えたりもするんだけどね。逆もまた然り、だったり、なんとかかんとか。うんぬんかんぬん。止め処ない、それでもってとりとめのないことである。総じて戯言だ。
「休憩はこのくらいにして、とっとと始めましょうよ、顕正。私達学生に残された時間は長くないのよ」
「うんまぁ、そうなんだけどね」
短かったなぁ休憩時間。僕はまた、精神の中身まで丸ごと死地に入れられるのか。
「いいえ、質に」
「人身売買!?」
普通に犯罪だった。マグロ漁船に乗せられるのか。それとも臓器を抜き取られるのか。どちらにしろ穏やかじゃ無いな。
「とにかく顕正、言い出しっぺの貴方からどうぞ。今年の抱負だったかしらね」
「何言ってるんだ明音さん、トリは最後にもっていくべきだろう」
「……ふぅん、ああそう、なら良いわ、分かったわ、私から言う」
怪訝というか、通り越して不信そうな眼を僕に向けてくる。想い人を疑うだなんて何たる不誠実。いや、まぁ、実を言うとまだ抱負なんて考えても無いんだけど。そんな余裕無かったんだよ! これは見抜かれてる。絶対。眼が「貸し一つ」って語ってるもの。
「私の抱負はね、顕正、出来るだけ貴方と離れないことよ」
「? と言いますと?」
「私は貴方の事が好きだしね。それに、進路についても。年度が変われば私達はもう三年よ。私は、貴方は多分『自分の進路をそんなことで』って言うのかもしれないけど、そうだとしても貴方と同じ進路を志望するつもりよ」
「……そうですか……」
嬉しくないわけがないし、事実この溢れんばかりの好意の渦に巻き込まれる現状を心地よく感じてる僕も確かに存在するのだけれど、でも、何処となく微妙な気持ちになるのはなぜだろう。
「あら、何よその反応、失礼ね」
「僕何かしましたか!?」
「取り立てては。強いて言うなら折角純粋な好意を向けてあげたにしては反応が薄いのが粗相って感じね」
「そうそう」
「私って寛容だけど、けっして許せないものが幾つかあるの。つまらない駄洒落とかね」
睨まれた。確かに言った僕自身も「粗相」に「そうそう」をかけるのはどうかと思ったけど、でも、結果として言ってしまったのだから仕方ないじゃないか。しかし僕も案外つまらないことを言う人間である。
「顕正くんがつまらないのは今に始まった事じゃないけどね」
「君はべた褒めっていうか、褒め殺しに方向性を定めたんじゃなかったのかよ、緑」
「まぁまぁ慌てなさんな顕正くん」
「ん? オチは考えてあるのか」
「いいえ、だから、『しまら』ない」
「つまんねえー!!!」
思わず絶叫する僕。蒼ちゃんと美稲の目線が痛かった。それ以上に緑のギャグセンスの方が痛かった。痛いと言うより酷い。所詮アホの子か。
「本当に酷いのは顕正くんの態度だよ……」
「明音さんみたいなこと言うね」
さっき言われたばっかである。さっきもさっき、ほんの数行前。
閑話休題。緩和及第。少しばかり難易度を、風当たりを下げよう。また僕の株がずんずん落ちてる。沈んでる。
「スタート地点からして平面より下だったのが今更何を言ってるのよ」
「初期から僕に対する好意をあからさまに見せていたはずの君ですらその対応かよ」
なんだこれ、面倒くさくなってるだろこの人たち。
「面倒くさくなんてないわ、顕正とお話してるのだもの。……ふわぁ……」
「おい欠伸」
美稲さんってば素敵な具合に喧嘩を売ってくれていた。この野郎。
「まぁいいや、美稲は飛ばして、緑か蒼ちゃん、抱負をどうぞ」
「じゃあ私から! 私は、顕正くんを虜にすることにします!」
「諦めろ」
「即効ふられた!?」
なんか緑が打ちひしがれていた。いや僕が悪いんだが。
「答えだす気はないんじゃなかったんですか先輩……」
「ないよ、勿論。冗談冗談」
「はぁ……。じゃあ、私の抱負をば。先輩以外の部員と、仲良くなることです」
「……へぇ」
意外に思える蒼ちゃんの言葉に、僕は感嘆の声を漏らす。恋敵、とも言うように、この子たちは一貫して仲の良くないものだと思っていたのだけど、なかなかどうして、歩み寄りはあるみたいじゃないか。
「赤坂妹、そうやって点数を稼ぎに出るのは卑怯だと思うわ」
「いや美稲、そういうモノの見方が歪んでるって言うんだよ」
「何言ってるの顕正、二瓶さんの言う通りよ、貴方の赤坂妹に対する信頼度は卑怯だわ」
「むしろお二人の言葉に私が傷つけられてますよね……」
「だから歩み寄れよ君らもちょっとは……」
早速挫折しかけていた。そんなもんだろうと思っちゃいたけどさ。この人たち、真面目に一年を過ごす気があるのだろうか。
「何よ、そんなに言うなら、私たちの想い人にして部長様の抱負とやらを聞こうじゃない」
「ふふん、そう来ると思っていたよ」
睨んでくる明音さんの言葉に余裕を返し、僕は笑って見せる。これだけ時間があったんだ、気の利いた答えくらい用意できてるともさ。怪訝そうな四人の顔をゆっくりと見渡して、そして僕は、会議の締めも兼ねて、高らかに宣言する。
「日々を懸命に生きる者に、明日以降への抱負なんてないんだよ!」
「貴方が必死になって生きている様子なんて見たことないわね」
「顕正、戯言もいい加減にして」
「顕正くん、本気でそれ締めに使う気なの?」
「先輩はまず目の前の現実を真摯に受け止めるべきですよね」
大バッシングだった。かなり良い事いったはずなのに。おかしい。
ともかくとして。宣言通り、会議はこれで締めるわけだから。
腑に落ちないながらも、僕はようやく、この苦行から解放されたのだった。
……圧倒的に負けてないか? 今回の僕。まぁ、相手が悪かったと言うことで、常々。
無理矢理感が否めないですが、申し訳ない限りですが、しかしディベート、終了です。情けないぜ顕正、もとい作者。
次回からは、なんと番外編です。全部が全部本編で、本編でありつつも番外みたいなもんですが、しかし次回は、なんと山上くんを主役において、事が進みます。ちらほらと出てた伏線(?)回収劇です。
それでは、今回もありがとうございました。地震がどうとかで厳しい現状ですが、僕は生きてますので皆様もどうか……ええと、「頑張ってください」は、ちょっとおこがましいかな……。
締まらないですが。では。