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田舎で遊ぼう。遭難。

「それで、どうしてこんな状況になってるんでしょうね、先輩」

「僕に聞かれても困るよ」

ほんとに困る。困ってる。現在進行形も良いとこだ。隣に居るのは蒼ちゃんで、僕らは普段より圧倒的に、直接的な意味で身近に居て、つまり密着していて、身を寄せ合っていて。この距離は、どう考えてたって仲の良い恋人も斯くやという距離感だった。まぁ、寒いから仕方ないよね、それは。

そう、寒い。滅茶苦茶寒い。それはもう寒い。

「寒いです、先輩。もっと寄ってください」

「限界だ。0距離以内の距離を僕は知らない」

「私も知りませんけど。じゃあ、0距離の面積を増やしましょう」

「なんだ、僕に抱けと言うのか」

「あったかそうですねぇ」

「……分かったよ」

ぎゅう、と。僕は彼女を抱きしめる。出来る限り華奢なその身体を温めるように。暗い洞窟の中で。

そういうことだった。


僕らは遭難していた。おばあちゃんの住む田舎の山で。山奥で、二人で。……なんでだよ。


結果的にだらだら過ごすことに成った二日目を経て、三日目の朝。二度寝の果てに午前十一時ごろまで寝過ごした昨日とは打って変わって、朝早く、六時過ぎ頃の起床である。奇しくも昨日の朝、美稲によって起こされた時刻と同じくらいで、意味も無くため息をついてみる。今日も疲れる日に成る予感がした。

果たして、勿論のこと僕がこの時間に起床したのにはわけがある。あまりに怠け過ぎた先日の僕の挙動を見るに見かねたのか、おばあちゃんが直々に湖のあたりにでも行ってこればどうだとおっしゃられたのだ。僕のあの方に対する態度と言葉づかいは、あの方が人間と分かった今でも根強く残っている。そうそう払拭出来るものじゃないし、たとえあの人が人間であった所で僕があの人に対抗できる手段は変わらず無いのだから。

そんなわけもあって、あの方に直々に指定されたのでは、行かぬわけにもいかない。かくして、僕はすぅちゃんも含めた女子方々に声をかけ、今日のこの明け方から、山を登って湖へと足を運ぶ手立てになっているのだった。……寒いんだけどなぁ。何せ雪山である。

「顕正、準備出来た?」

「ああうん、美稲、もう行けるよ。他の部員は?」

「大方準備出来ているみたいね」

「ん、じゃあ行こうか」

美稲の言葉を受けて、一応僕は揃っている皆に目を走らせてから先頭に立……おい待て、すぅちゃんが居ない。

「なぁ美稲、すぅちゃんがまだ来ていないみたいだね」

「ふぅん?」

「……僕が言わなかったら置いて行く気だっただろ」

「かぐやちゃんは部員じゃないもの」

そうですけど。仲悪いなぁもう。この二人の関係の良化も謀ったほうが良いのかもしれない。僕の心情的に。

少し待ってようやくやってきたすぅちゃんも交えて、今度こそ僕ら一行は旅路に踏み出す。なんだかいつも以上にすぅちゃんと美稲が険悪だった。

「だってあらくん、この女は僕にわざと嘘の必要道具を教えて準備に手間取らせようとしたんだよ」

「……手が込んでるなぁ。ちなみに、その必要道具って何だったの」

「分度器とU字磁石」

「せめてコンパスだったら良かったのにね……。しかしすぅちゃん、それは君、気付けよ」

「だって山登りなんて初めてだもの」

「君らの辞書に常識の二文字を刻む方法を教えて欲しいなぁ」

「何時でもおっけーだよあらくん。勿論性的な意味で」

「どうやったら性的に常識を教えられるんだよっ!」

不毛じゃ無くて不穏な会話だった。すぅちゃんは年々過激になっていきます。どうしてか。

「顕正、なんでそいつとばかり喋ってるの」

「そういうローテなんだよ」

「ルールは食すためにあるのよ」

「初めて知ったな」

「違った、食すのはプールだったわ」

「どちらにしろ君が人間外であることだけは確かだよ」

むしろ二人とも人に非ずって感じか。特に僕の周りでも、この二人。

「何にせよ、美稲、そいつとかって言うの止めなよ。君たちだって本来なら、立場上幼馴染なんだぜ」

「虫唾が走るわね」

「一回死んでやり直したいくらい。むしろ殺してやり直させようかな」

「……」

過激だった。お互いにどうかと思う。この二人の友人化計画は、持ち越そう。今の僕のキャパシティでなんとかなるレベルじゃない。

おばあちゃんの示した湖に着いたのは昼前だった。ここまで割かし距離のある旅をしてきたことになるけれど、どうにも誰の顔にも、疲れの色は見えない。若いのはいいことだね、皆。僕が一番疲れている気がした。特に精神的に。

「顕正くん、これからどうするんですか」

「自由時間で良いと思う」

即答。だって何しろって言うんだ。湖は凍りついて、その上に積もった雪が陽光を浴びて光る様は何とも綺麗だけれど、僕ら研究部にそんな絶景を楽しめというのなら、それは無理と言うか、無謀と言うか、相手を間違えてる。感動する心はあるけれど、目先の風景を楽しむより、目先の人生を生きるのに精一杯な節があるからね。やはり、特に僕は。彼女らの相手をするに、生半可な調子ではこなせない。

「しばらくこの辺りで散策しようか。僕も、ちょっと奥見てきたいし」

この湖のあたりには、僕の研究に役立ちそうな霊的何かが存在しているとおばあちゃんに聞いている。そろそろ、イレギュラーの非現実に打ち勝つ精神を育みたいところでもあるし。

「先輩、私も着いて行って良いですか」

「ん、良いよ」

申し出てくれた蒼ちゃんに快く頷いて、僕らは湖の向こう、森の中に踏み入れて行く。明音さんは「面倒よ」と一蹴し、あれで実はさほど体力面に自身の無いらしい緑は一休みと座りこみ、美稲とすぅちゃん引き続き喧嘩中。蒼ちゃんが着いてきてくれるって言うのは、僕にしてみれば結構嬉しいことだったりする。合宿の狐の時もそうだったけれど、赤坂姉妹が入部して少しした頃、僕が一年時の僕をどん底に突き落としたファンタジック極まりないとある事件の時も、彼女、蒼ちゃんは僕の許容の限界量をはるかに超えた事象に断固向き合って、僕に進むべき道を明白に示してくれた。彼女が居れば、僕の出会う常識外の現象はおよそ乗り越えられると、それくらいの信用を、僕は蒼ちゃんに置いている。

「ところで、何処まで行くんですか、先輩」

「ちょっと何かでそうなところまで」

「……うたれ弱いくせに……」

「言うねぇ」

くっくと笑って、僕は彼女の手を取った。はっとした風に蒼ちゃんが僕を見るけれど、気にならないし気にしない。不安なんだよ、悪いか。

「まったく、仕方ない先輩ですね」

「頼もしい後輩だね」

うん、やっぱり、大丈夫。

さぁ、来るなら来いよ、不思議現象。


来ちゃったわけだね不思議現象。その直前までまるでなんともなかったのに、兆候の一つも見せることなく、気付けば、僕達は吹雪に見舞われて遭難していたのだった。確かに来いとは言ったけれど、でも、僕が来いと言ったのは以前の、分かりやすい狐とか、倒木とかさ。


ううむ、さて、どうしようかな。

お久しぶりです←

れかにふであります。空けてしまいましたよ期間……。待っていて下さった方々には申し訳ない。次回こそは云々。毎回言ってる気もします。


ちょっと無理矢理書き切った感がある今回ですが、次回、お待ちいただければと思います。どうなることやら。

ではでは。今度もありがとうございましたー。

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