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続・僕の与り知らぬところ。

畳の匂いが鼻をついて、薄く開けた視界に横倒しの世界が映った。立ちあがると、軽い眩暈に襲われて頭を押さえる。長くは持たないかな。急がなきゃいけない。

明白な思考回路を駆使して、出来得る限り最善の策を絞り出す。人外どころか生物外の能力を得た思考は、僅かな時間で終了した。この脳を持ってしても解決策が片手で数えられるくらいの数しか出てこない。おばあちゃんは、相変わらず何の躊躇いも無く人の領域をがしがし踏み越える人だった。

でも、今回ばかりは。先を行かせてもらう、おばあちゃん。


三笠さんの指示通り、三人それぞれの役目を果たすべく行動する。彼女は先に何処かへ行ってしまった二瓶さんの元へ、緑は先輩を回収すると言っていた天香具山さんの所へ。そして私は、奥に引っ込んでいったお婆さんの所へ。正直なところ、怖くないといったら嘘になるどころかむしろ普通に怖いけれど、内容を聞くに私にしか出来そうもない仕事だったから、そうもいっては居られなかった。

お婆さんが引っ込んでいってしまった襖の前で正座して、中に呼びかける。基本的に和室の多いこの家、正式に申し入れをするのなら、入室から作法を重んじる必要があるだろう。緑はともかく三笠先輩でも肩代わりはできただろうけど、彼女は彼女で二瓶先輩と話をしなきゃいけないというから仕方ない。

「お婆さん、少し、お話いいですか」

返答は直ぐにあった。「ええよ」の声を受けて、静かに襖を引く。

私の仕事はこの人の挑発だ。見破られるだろうけれど、それでも、のって来てくれるはずだと三笠先輩は言っていた。私もそう思う。躊躇うことなんて、無かった。


「おばあちゃんを止めるわ」

部屋に踏み入れた私の姿を確かめるなり、二瓶さんはそう宣言した。彼女の表情を見たときに大概予想はしていたから、そうそう驚きはしない。まずは状況を確認するべく、部屋を見渡してみる。

二瓶さんの頬には畳の跡が着いていた。おそらく、短い間だろうが気を失っていたのだろう。彼女の足元付近に僅かながら血痕が見える。今にも倒れそうなくらいに、疲労が顔に見て取れた。

「貴女、死ぬんじゃない?」

からかい気味の口調で聞いてみる。わずかにも思考することなく、あっさりと頷かれた。覚悟の上、ね。

方向性を変えてみることにする。

「貴女がそれであのお婆さんに勝てたにして、それで貴女が倒れたら、果たして彼は喜ぶのかしらね」

「今の顕正がもっとも嫌がっているのは、私が倒れる事よりも誰かを切り捨てる事よ」

返ってきたのは即答。ああ、そう言えば脳力も上がっているんだっけ。

「三笠さん、話があるんでしょう。……乗るわ」

話の内容すら看破しているようだ。全く、とんでもない力もあったものね。とはいえ、簡単に了承してくれたものだ。この娘の能力を、これ以上ないくらいに酷使する内容だと言うのに。

「先に行くわ、三笠さん」

「ちょっと待ちなさい」

やけに焦る風な彼女を引きとめる。実際、焦っているのだろう。きっと彼女にはあまり時間が無い。さっきから、時折苦痛に顔をゆがませている。以前顕正が言っていたけれど、身体の方が持たないそうだから、きついのだろう、進行形で。でも、こればかりは、言っておかないと。他でも無い、彼に、後々怒られてしまうから。

「『こんなこと』で、死ぬんじゃないわよ、貴女」

「……うん」


「うわーお……」

呆然呆然重ねて呆然。何事も、理解できないとはこのことだ。不思議不可思議摩訶不思議。この辺りの無為な単語の羅列は、どう考えたって顕正くんの影響に他ならなかった。なんたって弟子ですからね。

しかし、今重要なのはそこじゃない。というか、今でなくてもどうでもいいことな気がする。

そうでなくて。

「顕正くんー? 翡翠ちゃーん?」

顕正くんが飛ばされたであろう塀の前。確かに彼が居た証拠として、枯れたアヤメの残骸が、踏み荒らされたかのように散らばっている。塀にも僅かに衝突の跡が残っていて、衝撃の強さが垣間見える。

けれど。

当の彼の姿は、何処にも見当らなかった。翡翠ちゃんの姿も。影も形も、匂いの欠片も残っちゃいない。匂いの方は言ってみただけです、悪しからず。

「どこいったんだよー、顕正くん……」

少女達の奮闘。先に待つものは何か。相変わらない空気主人公は何処へ。


それでは、次回も是非、よろしくお願いします。

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