車両。二連、乗り継ぎ。
横から吹き付ける風は、僕の耳元を撫でて過ぎて行った。流石に寒くて、僅かに身を震わせる。日本の四季は美しくて、それでいて僕らにそれなりの試練をも与えてくる。春と秋は、ただ美しいだけなんだけどなぁ。その厳しさも、季節の魅力なのかもしれないけれど。冬の山にわざわざ登る人だってごまんといるのだ。
外の気温に触れたぶん、余計に背中の温かみが強調されるようになって、僕は明音さんを背負っている状況を再確認させられる。この人、あらゆる意味でスペックが異常なんだよね。こう言う時にはボケも兼ねて女の子に対し「重い」とかなんとか言うような状況なのかもしれないけれど(それこそ一般論からは程遠いだろうけど)、戯言ですら、この人にそんな声をかける気にはなれなかった。軽いんだよ、ほんとにこの人。重みはあるけれど、苦じゃないと言うか。ううむ。つくづく美少女さんだなぁ。
「先輩、ちょっと耳引っ張って良いですか」
「蒼ちゃん、それは引っ張りながら言う台詞ではいたいいたいいたいいたい」
不機嫌顔の蒼ちゃんに耳を引っ張られた。冷えて痛覚が鋭敏になっているところにそれは、割と洒落にならない。ていうか痛い。普通に痛いからもうやめてっ。
「…………。ふんっ」
思いっきりそっぽを向かれてしまった。顔の示す通り、あからさまに不機嫌でいらっしゃるようだ。見れば、近くで同じく乗り換えの電車を待つ美稲と緑も、結託して僕に非難の視線を向けてきている。なんだろう、今回の旅行は僕の部内での地位を徹底的に下げて行く予感がする。
「好感度が下がるとは思わないあたり、大した自信ですねぇ顕正くん」
「まぁ、君が僕を嫌うとは思えないからね」
「……」
赤みのささった顔で睨まれても怖くない。むしろむずがゆいくらいである。まったくもう、可愛いなぁこの子も。
「……」
「いたいいたいいたいいた痛いっちゅーにっ!!」
またも蒼ちゃんに耳を引っ張られた。見ると、緑は完全に顔を真っ赤にしていて、うん? もしかして僕、今の口に出してたの?
「出してた、思いっきり」
「分かったから君たちは僕の耳を解放しやがれごめんなさいほんと痛いからぎゃあああああああああ」
両側から人間離れしたコンビネーションで等し過ぎる力加減で耳を引っ張られる僕。犯人は寝て無い二人。美稲と蒼ちゃんに相違無い。しかし待て、本当にこれは痛いって……。
「おおっと」
明音さんの身体が傾いで、僕は慌ててバランスをとりなおした。彼女の顔が僕の片先に触れるくらいの角度で、ギリギリとどまってくれる。危なかった。
「顕正、贔屓は良くないわ」
「人の耳引っ張っておいて良く言えたものだね」
「もう一度」
「ちょっと待った望みを聞こうか」
日和ってないよ。僕は暴力に屈するような弱者では無いのだ。今のは、彼女を立ててあげただけ。うん。
「私にも言うべきだわ」
「え、何を?」
「今度は首を引っ張ろう、赤坂妹さん」
「そうですね」
「二人とも、すっごく可愛いねっ!」
「やめてよ顕正、恥ずかしい」
「そうですよ、先輩ったら」
「え、何、僕って苛められてるの」
だとしたらちょっと泣きそうなんだけど。この仕打ちである。
「んぅ……」
「あ、起きちゃったか、明音さん」
そりゃあこれだけ五月蠅くしていたら仕方ないだろうけれど。申し訳ない限りだ。他の三人にちょっときつい目を向けてやると、素知らぬ顔をして白々しく口笛なんて吹いていた。緑は吹けてない。
何にせよ、結果とか言え起きてしまったのだから、ここらで明音さんを下ろすべきだろう。彼女らの視線もさっきから嫌に厳しいし。
「けんせい」
「……ん?」
一瞬反応に詰まってしまった。明音さんの声にしては、奇妙なほどに気が抜けている。起きぬけは弱いのかな。合宿の時は、そうでも無かったみたいだけれど。
「あのひはちょっとテンション高かったのよ」
「そうですか」
テンションの高い明音さん。全然そうは見えなかったけれど。あの頃から、彼女は僕に好意を持ってくれていたのだろうか。思ってみれば、皆が皆僕への好意を告白してくれてはいるけれど、そうなった経緯については一度も聞いたことが無いな。わざわざ知るような事でも、或いは、いや、普通に考えて無いだろけれど。
「どうしたの、明音さん。この辺で下して大丈夫かな」
「だめよ」
「え」
「わたし眠いもの」
……。えっと。
「いや?」
応えあぐねていた所に、明音さんが酷く不安そうな声音で囁いてきた。まるで僕に否定されることを恐れているかのような声に、一瞬僕の心臓が強く跳ねる。ドキリとして、そして、そうまで言われて、僕が彼女の言い分に従わない理由が無かった。弱いなぁ、僕。
嘆息すると、何処か満足そうに、明音さんは僕の首に回した腕をきゅっと閉じた。ふふ、と、幼い少女みたいに無垢な微笑みが届いて、顔が熱くなるのを感じる。ったくもう、この人も、ほんとに。
わざとらしく遠巻きに僕らのやり取りを見つめる彼女らの手前、それ以上の台詞は続けなかった。
乗り換えの電車が着く。背中に未だ明音さんの熱を感じながら、甘えるような彼女のしぐさに一々心臓が早鐘を打つ。そろそろ精神の限界を感じるけれど、邪険に扱うには勿体なさ過ぎるしな。
電車に足を踏み入れながら、僕は緊張感が高まるのを全身で感じていた。もうじきだ。本当にもうじき、あの方に。神様に、お目通りするのだ。
執筆当初の今回のサブタイ「二連、終着。」……。あれ?
そんなこんなで、今回は比較的お早めにお届け出来ました。と言うのも、またしてもあのイベントが僕を襲うのです。
定期テスト……。
また一週間と少し、更新が停滞することと思います。勿論時間があれば書きに来るので、テストの真っ最中に更新される可能性もあります。どうかお待ちを。
それでは、よろしければ感想評価等、頂ければ幸いです。




