躻ヶ島。憔悴の僕。
この物語は勿論のことフィクションなので、犯罪行為が目立つ気がするのはスルーしてください。
唖然呆然、然る後憮然。早朝から、僕に何度然の字を使えというのか。集合したのは僕らの通う高校最寄りの駅前。そして、三笠さんの先導に従って僕ら研究部一行が移動した先が何故か、高級住宅街の一角、三笠家。流石の金持ち、家も大きかった。ブルジョワめ。
「三笠さん、念のためにそろそろ聞いておきたいんだけど、ここで何をしようっていうのかな?」
恐る恐る、僕は彼女に尋ねる。と、無言を保っていた彼女は、どうにも車庫にしか見えない場所の前で立ち止まると、どうにも車庫にしか見えない方向を、一言の宣言とともに、指差した。
「車で行きましょう」
「はいぃ?」
思わず、信じられないといった顔で聞き返してしまう。車? それはいいにしろ、誰が運転するって言うのだろう。
「それは勿論、部長である貴方でしょ」
「はいぃ?」
まさかの僕だった。ここは普通彼女の親あたりが妥当なのでは?
……そうじゃなくて。
「なんで君は免許証も持ってない高校二年生を指して運転しろなんて言えんでしょうか。法律って知ってる?」
「馬鹿にしないで、知ってるわよ法律くらい。つまり、ばれなきゃいいんでしょう?」
おいおいこらこら。僕はこの年でお縄につくつもりはないよ。いや、勿論どの歳になってもないけど。
「さ、行くわよ」
僕の意見は三笠さんどころか全員ガン無視だった。いつの間にやら、僕が運転することに決定してしまっているようだ。相変わらず、この部は皆頭おかしい。常識とかそういった概念はもしかしたら知らないのかもしれない。
だからと言って、説得を諦めて運転している僕もどうかと思うんだけどね。
というわけで、そこはかとなく高速道路で、どこまでも高速道路だった。いや待て、なぜこうなった。
必死の形相でハンドルを握る僕の隣、助手席に座る三笠さんは自ら買って出たはずの案内役を放棄して睡眠に入っているし、後部座席に座る赤坂姉妹は乗車からこれまで、一言も話さず熟睡している。赤坂姉に限ってはまれに寝言が聞こえてくるが。「わさび醤油ドーナッツ~」って何それ新しい。
で、絶対的な僕信者である美稲だけは、赤坂姉妹の頭で両肩を抑えられながらも、懸命にガイドブックをにらんで僕に指示を飛ばしてくれていた。何だよこの扱いの差は。
「次の次の料金所で降りる。ふわあぁぁ……」
「眠いのか? 美稲」
「ん~ん、大丈夫~」
ほぼ寝てるってその返事は。
「後の道筋は何となくわかるから案内はもういいよ、寝てて」
「ん~。ありがとお、そうする」
言うが早いか、後部座席から聞こえる音は3人分の寝息とたまの寝言だけになった。「グレートアップルスパゲッティ~」何がすごいんだよ。
高速道路を降りてから二つほど交番の前を通過したが、なんとか怪しまれずに通過できた。いちいち心臓に悪い。
ほどなくして、僕ら研究部一行は、三笠家所有のプライベートビーチに面する別荘にたどり着いたのだった。
駐車場に車を停めると、僕は最早何を考えるでもなく、誰かを起こすでもなく、ただ一言。
「疲れた……」
つぶやくと同時に、慣れないどころか僕の寿命を半分くらい持ってかれたような運転によって奪われ過ぎた体力のせいか、僕の意識は途絶えた。
午前9時から、運転時間は3時間である。犯罪は、止めましょう。
違法行為まっしぐらな回でした。作者の頭がおかしいのです。
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